The Hot Seat:溝畑宏観光庁長官インタビュー

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The Hot Seat:溝畑宏観光庁長官インタビュー

イラストレーション: Haruna Nitadori

溝畑宏が、2010年1月4日付けで観光庁長官に就任してから、1年が経とうとしている。2002FIFAワールドカップの誘致や立命館アジア太平洋大学設立、2008年には大分トリニータのJリーグカップ優勝など、大分県の活性化に取り組んできた溝畑が、観光庁長官としてのポストで何を目指すのか、話を聞いた。

ベストドレッサー賞の受賞、おめでとうございます。

溝畑:ありがとうございます。色々なところで取り上げてもらって嬉しい限りです。

溝畑長官は、普段どのようなところで洋服を買っているのですか?

溝畑:シャツが1990円で買えるような量販店ですよ。今着ているシャツもそうです。だけどおしゃれで大事なのは体を鍛えることです。素晴らしいバディを持っていれば何でも着こなせますよ(笑)。

体はどうやって鍛えているのですか?

溝畑:私は11月にツール・ド・フクオカ2010に出場しましたし、トライアスロン大会にも出場しました。ただ、一生懸命に走るだけじゃなくて、色々とかぶりものを用意して、一緒に大会に出ている人や応援してくれる人を楽しませるのが好きなんですよ。それはもう、小学生の頃からずっとそうです。だけど、この人を喜ばせたい、という感性が大事だと思います。人を楽しませる感性がなければ観光に携わることはできないと思います。受け入れる側が毎日楽しい、楽しいと言っていたら、遊びに来る人も楽しいじゃないですか。

そうですね。旅行に行ったら、楽しんでいる人にガイドしてもらいたいですものね。観光についてもお話をお聞かせいただけますか。

溝畑:はい。今、海外から来る観光客の数を他の国と比較すると、日本は33位という現状にあります。日本には美しく素晴らしい観光資源があるのだから、もっともっと高いレベルにしないといけない。この現状は、今まで私たちが日本の魅力を世界に対して十分に理解させていない、情報発信が不足しているということですよね。少なくとも、イギリスに訪れている観光客の数、約3000万人に並びたいと思っています。イギリスも日本も島国で、国外からの入国を航空機に依存しており、日本のまず目指すべきところはイギリスではないかということです。

日本は、北から南まで、バラエティにとんだ気候と風土、美しい資源を持っていますが、ここで一つ大切なのは意識改革です。各地域が、それぞれの宝物を掘り起こし、自身の住まう場所に誇りを持つことが本当に大切です。そして、いかにプロモーションをかけるかがそれに続いて重要です。

でも、人の意識を改革するってとても難しいですよね。

溝畑:日本が本当に活性化していくためには、大都市だけではなく、地方が目線を上げ、意識を国内のマーケットから世界へ上げていかないと、もうここから先は疲弊するしかない。だから、各地方が自立の精神を持って意識を変えていく。これはなかなか時間のかかる作業ですが、そこに着手していかないと、いつまでも人口が少ないとか景気が悪いとか、外的要因ばかりを理由にして何も進まない。やはり各地域が努力をして、ローカルだけどグローバルなチャレンジをしていく風土を作っていくことが、日本の将来を考えたときに、観光だけでなく全ての分野に共通する大切なことです。だけど、自分の住んでいる地域を好きだと思うのは、そんなに難しいことじゃない。努力すればできることです。

私は大分の何もないところから、Jリーグのチームを作って優勝させました。「大分から、日本一、世界一を目指すんや!」とずっと言い続けました。選手は、観に来てくれるだけで喜ぶから、おじいちゃんやおばあちゃんも練習場に観に来て欲しい、とお願いしました。すると徐々に来てくれるようになって、選手に飲んで欲しいと水を持って来てくれたり、応援することが生きがいになってくる。

本当に素晴らしい光景でしたよ。スタジアムに行くと、おじいちゃんやおばあちゃん、それから若い人たちも一緒に肩を組んで応援している。そしてコミュニティができる。たまたまサッカーをコンテンツにして、皆が一つにつながっていったわけですが、私が描く観光の成功のイメージは、このように皆がつながっていくことです。リーダーシップを発揮して、人が反対しようが理想を描く。地域のリーダーが出てくれば地域は活性化する。問題はリーダーですよ。

リーダーの作り方はありますか?リーダーって、どこから出てくるのでしょうか?

溝畑:一つは、よそ者の方がやりやすいでしょうね。私も大分出身ではありませんでした。理想はその地域から出てくることです。でも現状を言うと、リーダーになろうと思うと様々調整が必要になってくる。けれど調整していたら何も進まない。だから突き破るしかない。しかし突き破ったら批判、中傷、ねたみが出てきます。上手くいくときは喜ばれるけど、ダメな時は本当に批判される。そういう時に、あきらめない精神力と体力がないと途中で挫折してしまう。大体10年以上かかりましたね。私は家族と別れ、自分の私財も全て投げ打って、最後は公務員をやめて、これがダメだったら私は死ぬんだと宣言して、やっと皆がついてきてくれた。

それから、リーダーは私利私欲を持ってはいけない。それは鉄則です。そして正しいと思ったことに対してまっすぐ行く。ただし、きついですよ。失敗しても地道だし、皆からアホか、気が狂ったのかと言われます。だけど夢とは元々は非常識なものなんですよ。それがマジョリティの支持を集めていくうちに、ひっくり返る。そこで皆が応援するようになって、成就する。だから10年先、20年先、いろんな成功のイメージがあるけど、ほとんどの人が無理だろう、ありえないだろうというところから始まります。人の意識が変わり、それによってプロジェクトは成功するんです。

私はね、叩かれてはゾンビみたいに蘇っての繰り返しです(笑)。どうせやるんだったら、世界のトップを目指そうと言い続けることが大切です。それをみんなで意識して、競争して、勝った人は負けた人を労って、負けた人は悔しいと思って、勝った人を褒める。そうしてまた次に戦い、頑張ることを繰り返していたら、日本の社会は元気になりますよ。生きること=戦うことだと思います。

だけど、今は、幼稚園とか小学校で、かけっこにも順位をつけない教育になってきていますしね。

溝畑:私が子どもの頃、親が地球儀をポンと置いて、「お前は世界の舞台で頑張れ」と言っていました。「競争するんだったら、絶対に1番になって勝て、負けたらあかん」と。「勝つまで戦え」と、単純にそれしかなかったですよ。私が弱音を吐くと、「死ね」と言われました。「犬は愛嬌があるけどお前は何もなくて、犬よりタチが悪いから死んだ方がマシや」と。親は厳しかったけれど、愛情と厳しさは紙一重だと思っています。「死ね」は効きますよ。人間は弱音を吐いてはいけないと思っていました。

だけどギリギリの状況の中、もう思い切り凹むこともありましたよ。ダメな状況になると公開処刑状態になるじゃないですか。追いつめられると本当に辛いですよ。でもその時に親の顔を思い浮かべて頑張ってきた。そういう教育を親から授かったので、人生はチャレンジだと思っています。チャレンジする気持ちを失ってはいけません。私も失敗だらけの人生を送っているから、だからこそ皆さんにも頑張って欲しいと思います。

海外からたくさんの人に来てもらって、日本の良いものを見てもらい、願わくばお金も落としてもらうというのが、今の世の中の動きですが、一方で、リーダーを育てるという意味だと、身近な半径100メートルくらいにしか興味を持たない若者が増えていると言われています。海外旅行に行く若い人も減っています。そっちも手を打っておかないといけないですね。

溝畑:アウトバウンド、インバウンドは車の両輪であって、もっと外に向かってエネルギーを発することが大切ですよね。“観光”とはそういうことです。私自身も104の国と地域を旅して、何か見たい、何か得たれ!という気持ちがとても強かった。肉食系の感覚ですよ。だけどまさにこれが人、物、金のエネルギーとなるのです。私は「日本のターボエンジンになる」とよく言っていますが、要するに「観光」は人、物、金をぐるぐる回していくエネルギーになるということです。ですから外に行くパワーがないと人にも来てもらえません。何かに興味を持つとか、オモロイ、楽しいと思う、涙を流すというのはとても大事なことです。私はその感性を大事にしています。とらわれない素直な心。“観光”はそういうところから始まると思います。「これいいよね」という気持ちには、何の邪心もいらないですよね。「これ綺麗だよね」「これ、皆に見てもらいたいよね」って。私が長官室に色々な国から集めた物を置いているのは、ここに来てもらった人に楽しんでもらいたいという気持ちからです。ペ・ヨンジュンさんと一緒に撮った写真もあるし(笑)。

とにかく、早く日本を元気にしないと!私もこんなに激しい人生を送ってきて、いつ死ぬかわからないような生活をしていて、もう、ぽこん、と逝くかもしれないので(笑)。

大丈夫だと思います(笑)。

溝畑:ところで、「日本の美しい村33選」というのがあって、これはおもしろい切り口だと思います。大都市より小さい村の方が、コンパクトだし、文化が色濃く出ますよね。 人口が少なくて物がないのもウリになると思うんですよ。景色もコンパクトでわかりやすい。

確かに、こういう村のおじいちゃん、おばあちゃんの方が、英語をしゃべれるとかしゃべれないとか関係なく、コミュニケーションをとれそうな感じがしますよね。

溝畑:村に行くと、生まれて初めて外国人を見たという人もいますが、顔いっぱいの笑みで、「来てくれて嬉しい」っていうのを表現してくれるんですよね。言葉なんていらんのですよ。私は、どこへ行ってもボディランゲージ。それで十分です。

だけど大学生の頃、インドのボンベイ(ムンバイ)で監禁されたことがあって、その時は怖かったです。気を許してしまって、一緒に飲もうと飲んでいたら帰るに帰れない状況になっていたんです。その場に財布を置いて、トイレに行くと言って全速力で逃げました。パスポートはポケットに入っていましたが、すっからかんになってとにかく必死で走りました。裏通りの裏小道に入って、じーっと隠れていた。次の日、お金がないから、市場に行って果物屋でアルバイトをしました。10日位働きましたかね。就職する直前だったのですが、やっと少しお金がたまったところで日本人の旅行者と偶然会って、「お金貸してください」とお願いして4万円お借りして、なんとか自分の稼いだ金と合わせて飛行機で帰ったんですよ。

それはまたすごいストーリーですね。

溝畑:そんな体験もありましたが、旅は、いろんなところに行くことによって、様々な出会いがあり感動があって、マイナスはないですよね。子どもの頃にフランスとイタリアで過ごし、地球儀を見ながら育ったので、私自身もできるだけ多くの場所を観たいと思っています。いつも自分の夢は旅から始まり、旅で観たものが夢になる。とにかく、旅がライフワークです。旅から刺激を得ると、また頑張ろうという気になるじゃないですか。気持ちが小さくなっている時に、大きな世界を観ることは大事です。それから、お金を出してベトナムに一つ学校を作りましたが、できるだけ世界の人の役に立ちたいと思っています。

たくさんの経験や失敗をしてきたからこそ、若いリーダーを育てるのに、適任な感じがします。

溝畑:失敗しているからこそシミュレーションができると思います。頑張る人は、途中で挫折しないように応援したい。若い人は元気がないと言う人が多いけれど、よく探してみると、例えば農業など頑張っている人がとても多いんですよ。そういう人たちを舞台に上げるのも私の仕事だと思っています。そういう人がいたら紹介してください。若い世代と絡みながら日本をおもしろくしていきたいと思っています。

テキスト 東谷彰子
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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