松嶋×観光庁長官 サムライ対談(3

日仏一つ星シェフ松嶋啓介が、日本の観光を世界目線で考えるシリーズ第1弾

松嶋×観光庁長官 サムライ対談(3)

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3.国レベルでの文化と観光の取り組み

松嶋:続いて、国レベルでの文化と観光の取り組みに関してですが、ここ最近、日本で起きた大きな問題のひとつに、JALの破たんがあったと思うんです。あれを見ていて思ったんですが、うちの妻も元JALなんですが、彼女たちはホスピタリティのある英語の教育を受けて、空の上や旅先で使ってきたんですけど、どちらかというと、実践で養われてきた英語です。そういう方がリストラになったと聞いて、凄く残念だなと思いました。それで、外務省の下でやっていた観光庁が力をどんどん出しているときに、うまくやったらいいなと思っていたんですよね。そういった方たちを使って、語学に対するサービスを教えるとか、次のそういう一手を作りってほしい。世界から日本の事を見ているので、日本の文化を好きな方が多いと思うんですよね。同時に海外の文化を知っているので、そういった方たちに何か援助が出来れば、ものすごいサービスを生める人たちを作れるんじゃないかな、と僕は思っているんです。

溝畑:我々が動かなくても、民間の方が、使える人間はどんどん採用していますから、私の周りを見ていても「この人、使えるのにもったいないな」と思う人はどんどん就職が決まっていますね。JALに関しては、需給バランスに沿って、即戦力と言うことで充分に活用されていると思います。ただですね、給料が高いんで、びっくりしたんですよ。給料を下げて普通のサラリーで働けるかどうか……。ただ、おっしゃる通りで、優秀な人材をぐるぐるまわしていくというのは、先にあげた留学生の事を含めて、社会として国、地方がその場づくりについては協力していかないといけないと思いますね。

松嶋:それから国レベルでの文化と観光のところで、衣・食・住がいつもテーマになっていますよね。先程、農林水産省に行って、日本の食について話していたんですが、観光庁として日本の食を伝えるときにどういうプレゼンをやられているんでしょうか?

溝畑:何も自分らだけの事業でもないので、経産省のやっているクールジャパンの事業とか、今回文化庁といっしょになって祭りとか日本古来の文化を活かして観光とつなげていこう、という動きをしています。そういう他の事業を使って観光をアピールするときに、維持していた文化財を観光につなげる事業にしてもらうとか、そして特に食文化については、もうありとあらゆる方面から取り組んでいます。海外にアピールするときにも、まず浮かんでくるのが食文化の風景ですよね。それは間違いなく、先程のアジア4カ国の中で出てくる話も、まずは食に関する話なんですよね。で、思うのは今後食文化というのが日本にとって一番の売りかな、と。日本の食のレベルは本当に高いと思うんですよ、健康だし繊細だし。ただ、高いというイメージがあるんですね。それをもうちょっとリーズナブルでおいしいんだよ。ということをうまくアピールしていきたいですね。

松嶋:僕が星を取れた理由を自分で分析すると、地元の食材を自分のフィルターに通して料理し、フランス人が作らないものを作ったからだと思います。そういう点では、まず星の条件は、その地方の食材を使うことがミシュランのお約束ですね。二つ星、三つ星とレストランはありますけれど、三つ星のシェフは大体その地方の食材に関する何らかの委員長をやっていますね。日本も地方に行けば行くほど、その場所でしかとれない食材があることが、経済効果を生んでいくと思いますし、そういうのをまた観光庁などが世界に上手に宣伝していければ、いい形になっていくと思います。今まで、日本は国内では上手に宣伝出来ているので、それを海外に発信することだけが欠けている。そういう事例を地方でももっともっと生むことが、今後の日本の発展につながるのかなと。そういうことができるのは観光庁しかないと思うんですよね。観光庁がほかの省庁にどんどん入って行って、一緒にやりましょう、とまとめ上げるしかない。そういうのを積極的にやって、民間の人たちがわかる、わかりやすい情報発信をやっていただければ、もっと観光は発展すると思います。

溝畑:私は、観光は一に広告、二に営業・営業・営業、と。ですから今週末も奄美を体験すべく奄美マラソンを走るし、その後はスキーでジャンプに挑戦します(笑)。とにかく体感する、その感動を味わうことが大事です。今年は国際森林年なので、今おっしゃったように林野庁と組んで、森をもっと歩こうと。日本の森をもっと世界の人に体感してもらう。日にちを決めて、東京にいる大使館の大使を全員そこに集めて、明治神宮と高尾山まで行こうと思っています。

私は横串大作戦と言っていまして、スポーツも観光庁が間に入って、文科省と厚労省、総務省を束ねていくという作業が、今年のやることだと思っています。今まではバラバラで無駄が多かったと思いますよ。例えば去年、F1を見に来た人を、伊勢時神宮に連れて行ったらえらく喜んでくれました。F1を見に来た、それをもうひとつ横串を指して他のところへ連れて行くというか、そういうところを地方自治体と民間の人が知恵を出していけば、かなり横に広がっていく、もっともっとチャンスは広がっていくと思いますね。


4.日本ブランドによる戦略的な観光振興、観光資源開発について

松嶋:4つ目のサブテーマになりますが、僕自身は、日本の一番の魅力はホスピタリティ、ホスピタリティのみだと思います。日本語で言うと“おもてなし”ですよね。日本人の、お客さんとの間合いの取り方、きめの細かいサービスっていうのは、フランスやイタリア、イギリス、どこに行っても勝てると思います。ただそれを理解するための言語力が日本人にあるかと言うと、それがないのが残念なところで、そういった壁さえ破れば、日本人がもともと持っているホスピタリティの精神を活かして、ホスピタリティ産業と言われるものはすべて世界に出ていくことができると思います。そのホスピタリティは海外から国内に呼ぶためのものにもつながるので、そういう環境をたくさん作ることが大事じゃないかと。だから日本の一番の魅力は何ですかと言ったら、ホスピタリティだと思っています。僕はね、観光庁にホテルを作ってほしいですね。

溝畑:今、旅館の加賀屋さんが台湾に旅館を出されましたけど、サービスの極みをいくとおっしゃっていましたね。日本のサービス産業と言うのは、これからはモノづくりだけでなく、サービス産業で外貨を稼ぐ。観光と言うのはその突破口だと思います。私からみた日本の魅力と言うと、まず治安がいいこと。2番目が清潔、3番目が信頼。物の表示で嘘がない。お互いをいたわり合って信頼し合うというカルチャーがあって、それがおもてなしだと思うんですね。特に治安の良さは最大の武器になると。

松嶋:これまでの日本は、日本語だけ喋れれば良かった社会だったんですけど、これからは通用しないと思います。お隣の韓国を見てみると、英語力がすごいですよね。そういった点で、日本人より海外に対して営業に行く時の押しの強さがあるのかな。

ホスピタリティ、人が大事だと言っているのは、もともとの潜在能力は高いと思うので、何かのきっかけでワンオプション、皆さんが身につけていこうという気持ちがあれば、変わると思うからです。大人になってから英語を学んでもいいと思うんですよね。そういったときに上じゃなくて、現場で学ぶような場やイベントかあればいろんな可能性が広がっていくと思います。

司会:最後に松嶋さんから長官に聞きたいことはありますか?

松嶋:最初におっしゃった「時間がかかる」と言ったことが気になったんですけど、時間をかけられないと思うのが、僕の本音なんですよね。時間をかけないでスピーディにやっていくには、このタイムアウトのようなメディアを使って、情報を発信していくスピードがすごく大事になっていくと思うんです。日本は幸いにも、ITメディアに関してはリードしてると思うので、そういうスピード力を使って、海外に対する発信力もそうなんですけど、国内に対する発信も進めていけば、たぶん“3000万人”は予定より早く達成できるんではないかと思います。

溝畑:インフォメーションとか、やらなければならない議題ははっきりしてると思うんですよ。今から外に出れば、銀座なんか中国人の方がたくさん歩いていると思うんですよ。で、一人一人に実践してほしいのが、韓国の人が来たら「アンニョンハセヨ」、中国人には「ニーハオ」と声をかけること。これができるか、ということですよ。まず日本人が変わらなくちゃいけないと思うのは、人に求める前にまず自分が実行すること。口で、国がどうだとか、地方がどうだとか言っている暇あったら、まず自分がやること。やれることをやる。傍観者からアクションを起こす方に変わっていく。そのギアが入れば早いです。私は日本人が本気になることだと思いますよ。



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テキスト 東谷彰子
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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