ビッグ・イン(アウト・オブ)・ジャパン

坂本九から50年、ブレイクスルーする日本人アーティスト達

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坂本九が最初で最後の人だった。1963年、東京が夏季オリンピックを開催する前年のこと。真珠のように輝く歯をしたクルーナーが、陽気な歌『上を向いて歩こう』(欧米では『スキヤキ』という曲名で知られている)を引っさげて、全米ランキング100のトップに躍り出た。今日にいたるまで、アメリカで1位を記録した唯一の日本人アーティストだ。故に、今年の初めに日本人の女子中高生トリオがビルボード200のアルバムチャートで187位になったときも、それほど大した偉業とは見受けられなかっただろう。だが、いやいやどうして、BABYMETALの近頃の成功ぶりは尋常ではない。考えてみてほしい。過去30年間、ビルボード200にチャート入りを果たした日本のアーティストはたった5組。そしてそのうちのひとりは、あのおぞましいニューエイジ野郎の喜多郎だ。とはいえ、ほかの日本人ミュージシャンがまったく無名というわけではない。スパイナル・タップのマネージャーだったら、むしろこう説明するかもしれない。「日本人ミュージシャンの魅力は、特定の一部に対して、より効果的なんだ」と。主流のJ-POPアーティストは、東アジアと東南アジアにおける揺るぎないファン層をいつでもアテにできる。リスナー達が、日本のヒットメーカーが好むメロディーラインやスタイルになじみがあるからだ。だが、ヨーロッパやアメリカでは日本の音楽はほとんど受け入れられることがない。売れるとすれば、一部のニッチな層にアピールできるようなものか、あるいは果てしなく奇妙なものかだ。

BABYMETALはこのどちらの条件も満たしている。だからこの1年、彼女達は全世界のメディアで、J-POP業界全体が生み出したよりも大きな流行を生み出したのかもしれない。甘いアイドルポップとモッシュ必至のヘビーメタルという考えられない組合せは、それだけで瞬く間に彼女たちをネット上のミームスターダムへとのし上げるに十分だった。だが、BABYMETALのライブサポートバンドがSlayerのようなヤバイ演奏をして、Andrew W.K.の『I get wet』以来となる陽気なほどばかばかしいヘッドバンガーたちの頌歌が、バンド名と同名のデビューアルバムに収録されていることが明らかになると、冷ややかに横目で見ていた層も態度を変えるようになった。もちろん、BABYMETALが日本ではまだ、少なくとも今はまだ超人気スターではないということも効を奏している。売れているポップアーティストに対する日本のエンタメ業界の要求はとどまるところを知らない。人気歌手は、バラエティー番組やテレビドラマ、映画、ラジオスポット広告、写真撮影、コマーシャルと延々と働き続けるのが普通だ。今年に入ってきゃりーぱみゅぱみゅが4大陸『なんだこれくしょんワールドツアー』をスタートした時、21歳のスターの卵がこのツアーの時間を捻出できたとはにわかには信じられなかった。

そう、きゃりーだ。デビューシングルをリリースしてから3年、かつての原宿ファッションキッズは、カルトポップブームから日本で一番ホットな商業財産のひとりへと出世した。しかも 、(幸いなことに)過剰なファッションを一切自粛することなく。きゃりーが世界中でファンを得たのは、音楽はもちろんだが、彼女のイメージによるところが大きい。新作ビデオは毎回、まるでうさぎの穴に深く深く落ちていき、歌うタマネギ、踊るロボット、動物仮面の不気味なキャラクターに満ちた、LSD的蛍光色のファンタジーワールドに入り込むかのようだ。きゃりーのビジュアルの美的感覚は強烈で一貫している。だから歌の内容が理解できなくても、きゃりーのことはわかるのだ。この一貫性は音楽でも貫かれている。英国ユーロビートアーティストのSophieやフランスポップグループのYelleときゃりーがコラボするという噂がネット上であったが、現在まで彼女の曲すべては中田ヤスタカひとりの手によるものだ。この鬼才プロデューサーは、PerfumeをJ-POP界のトップアーティストかつ、最高に大胆なアーティストへと仕立て上げた人物として知られる。彼の好みは過激系エレクトロで、欧米人の耳には十分すぎるほどなじみがあり、一方であからさまな派生ミュージックを防ぐようなオフキルターなツイストが、十分に融合されているものを好んでいる。

偶然ではなく、Perfume自身もまた海外である程度の成功を収めている。きゃりー同様、クリエイティブチームの助けを得て、Perfumeも複数のアルバムを通してビジュアル面、音楽面での一貫した特徴を維持してきた。そのチームに名を連ねるのはアバンギャルド振付師のMIKIKOや、プログラマー兼ビジュアルアーティストの真鍋大度だ。真鍋はPerfumeのライブで使われる、目もくらむばかりのプロジェクションマッピングを担当している。何年もの間、世界規模でファンを開拓することに何の興味もなかった国内レコード会社にPerfumeの人気は邪魔され続けてきた。2012年にユニバーサルミュージック合同会社と契約をして初めて、やっとPerfumeの楽曲は海外のiTunesストアで購入可能となったのだ。

この点を念頭に留めておき、国際市場での日本人アーティストが比較して、どのような運命にあるかを考えるとわかりやすい。嵐やAKB48、UVERworldを日本以外のiTunesストアで検索してみても、どれもヒットしない。日本の大手レコード会社は今でもインターネットに、特に日本語が通じない部分に疑いを持っている(よし、それじゃあ、MP3ダウンロードにアホみたいにつり上げられた額を、請求させないようにしようじゃないか)。対照的に、BABYMETALやきゃりーが一気に広まった時、彼らのアルバムはすでにiTunesストアで購入可能となっていた。もちろん日本国外でも。これは、ほかにも欧米で注目を集めた日本人アーティストの多くに共通する。エレクトロコアの5人組Crossfaithしかり(彼らはイギリスで毎年開催されるReading Festivalのメインステージにこの夏に登場)、飾り気のないモトリックロックの3人組にせんねんもんだいしかり(バルセロナで開かれた今年のSónarフェスティバルに参加)、ダブステッププロデューサーのGOTH-TRADしかり(クロアチアのOutlook Festivalに毎年参加)。スタジアム級のギターバンドONE OK ROCKは、今年のVans Warped Tourのハイライトであった。映画『るろうに剣心』のサウンドトラックでフィーチャーされてもいたが、彼らは海外のiTunesストアでアルバムを販売するという、良識も持ち合わせていた。だってそうだろう、ほかにどうやってファンを獲得する方法があるというんだ?

BABYMETALの話に戻ろう (申し訳ないが、彼女達はちょっと特別なのだ)。このバンドは、歴史的に見ても日本のバンドに友好的な聴衆の中に入り込む幸運も持ち合わせていた。過去30年にビルボード200のチャート入りを果たした、5組の日本人アーティストの話を思い出してほしい。3組は真性のヘビメタバンドだ。80年代のつわものたちLOUDNESSとE・Z・O、そしてオルタナティブメタルの巨人DIR EN GREY。どうやらヘッドバンギングに関して言えば、人が何語をしゃべるかなどは問題ないらしい。「ろっく」語さえ知っていれば。

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※記事初出時、Crossfaithの編成人数を誤って表記しておりました。お詫びして、訂正いたします。(2014/12/15 14:00)

テキスト ジェイムズ・ハッドフィールド
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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