2012年11月17日 (土) 掲載
フェチズムから原発まで、会田誠は20年以上にもなるキャリアの中、社会における様々な課題を題材にしてきた。2012年11月17日(土)に開幕した個展『天才でごめんなさい』には、挑発的な要素が豊富に含まれている。手始めとしては、まず、展覧会のタイトルだ。英語タイトルは、作品のシリーズ名に由来するが、日本語のタイトルは「天才でごめんないさい」になっている。そして、展示スペースには、7メーターのキャンバスにたくさんのサラリーマンが積まれた巨大な山を描いた作品や、腕と足が切断され、首輪が付けられた思春期の少女が描かれている『犬』シリーズの作品などが次々に登場する。
会田は、実に様々なテクニックを使い作品を作っている。『戦争画RETURNS』シリーズでは、戦時中、戦意高揚のために働いた画家たちが国粋主義的を受け入れつつも、同時に覆していたような感情を表現するために、古い襖に意図的に粗い質感の絵を描いている。『みんなといっしょ』のシリーズでは、子供が描いた公共情報ポスターを強烈なメッセージを加えて複製するようなアプローチを繰り返している。(悲しいことに、4日間で撤去されてしまったが)新宿のホームレスの為に建てた段ボールの城もある。おにぎり頭をした会田の分身が金色に輝くうんちの上に座っている彫刻や、目が慣れてきてそれが人の小腸だと判るまでは、草間彌生が作ったのかと思う程、鮮明な赤の部屋などもある。
今回の個展では、個人コレクターが所有している作品を除いて、会田が現在までに制作したほとんどの作品が集められている。巨大な作品『ジャンブル・オブ・100 フラワーズ』は、まだ完成さえしていない。描かれているのは撃たれている裸の少女達が星や苺、蝶の雲へと崩壊していく様子だ。この作品は、今でも十分にインパクトはあるが、完成するまでに、あと数年はかかるのではないだろうか。会田が2008年から続けている段ボールを使った共同制作プロジェクト『モニュメント・フォー・ナッシング II』のように、展示を観に来た人たちが参加できる企画もある。
もし、これらが、取るに足らない軽薄な挑発に終わっていたら、展覧会は地味な印象になっていただろう。最近の作品にひとつ『モーメント・フォー・ナッシング IV』で、会田は、原発関連のつぶやきを壁一面に貼付けて、福島第一原発事故後の混乱の状況を捉えた。展覧会開幕直前の記者会見で、彼は、原発について明確な立ち位置を持っている訳ではないが、事故後に多くの人が体験した精神的な停止状態を伝えたかったと説明した。(圧倒的な情報量のなかで)「日本人はもう何も考えられない状態だったのではないか。」と、語っていた。気に入るか、気に入らないかは別として、会田のこの展覧会に行けば、必ず、何かを考えることになるだろう。
会田誠展:天才でごめんなさい
会場:森美術館
期間:2013年3月31日まで
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