インタビュー:SLY MONGOOSE

孤高のインスト・バンドが紡ぐ未知のグルーブ

インタビュー:SLY MONGOOSE

クラブ~ライブハウスなど場所を問わずに会場をロックし続けてきたインスト・バンド、SLY MONGOOSE。スチャダラパー&ロボ宙と共にヒップホップ・バンド、THE HELLO WORKSを結成するなどユニークな活動を続けてきた彼らのニュー・アルバム『Wrong Colors』がついに到着。TOKYO No.1 SOUL SETのサポートも務める笹沼位吉(ベース)に話を訊いた。

まずは2009年の前作『MYSTIC DADDY』についてお聞きしたいんですけど、それ以前までの作品に比べるとだいぶ音の質感が変わりましたよね。

笹沼位吉:メンバーが変わったりしてやれることの幅が広がったのもあるし、僕個人の思惑が多少色濃く出た感じはあります。売れ行きは下降しましたけど(笑)。雰囲気だけでもわかってもらおうとメンバーによく音源とか持って行ったりしてましたけど。

具体的に言うと、それはどういうレコードだったんですか?

笹沼位吉:主にヨーロッパのアバンギャルドなものが多かったですね。エトロン・フー・ルルーブランやアルベル・マルクール、あとデア・プランとか。ビーフハートやスラップ・ハッピーも食い物か何かと思っていたメンバーもいたんで(笑)、まあ奇形な感じのズッコケ音楽が多かったですね。

ただ、エトロン・フー・ルルーブランのレコードを持っていって、「こういうものをやろうよ」とメンバーのみなさんに提案したわけではないですよね。

笹沼位吉:うん、そういうことではないです。アルバムにもそれらを想起させる要素はあまりないと思います。頭だけで組み立てたりはしないですね。出てきたものを基盤に作ってます。

メンバー間の関係性も変わってきたんですか?

笹沼位吉:変わったことと言えば多少俺の趣味を面白がってくれるようになった(笑)。以前はわりとポカーンって感じだったんですけど(笑)。

新作『Wrong Colors』なんですが、『MYSTIC DADDY』以上にドロッとしたサイケ感がありますが、今回も前回のようにレコードを持ってきたんですか?

笹沼位吉:めげずに持って行きましたね。民族音楽が多かったと思います。中東のものとかオコラレーベルのものだったり。アルバムの中にハイチのララというブードゥーの曲がモチーフになっている曲もあります。

さらにマニアックになってますね(笑)。

笹沼位吉:でも、聴き比べてもどこがモチーフになっているか全然わからないと思うけど(笑)。

楽曲構成も予想がつかないんですよね。2曲目の“Fu Manchu”なんて、最初はエチオピア・ファンクっぽいのかなと思いきや全然違う展開になったりとか。

笹沼位吉:そう言われてみたら…確かにそういうところはあるかも。今初めて思いましたね(笑)。

どの曲も定型のスタイルを裏切っていく気持ち良さみたいなものがあるんですよね。

笹沼位吉:いいですね。どんどん深読みしてください(笑)。もちろんどう取っていただこうが自由ですし、僕らにしても意識する・しないに関わらず、いろいろ影響は受けてるしね。

今回のアルバムもまた複雑な構成の楽曲があったり…。

笹沼位吉:複雑に聴こえるんですかね?

僕にはそう聴こえる曲もあるんですけどね。

笹沼位吉:もっと時間を掛けて熟考できればもっと緻密にはなると思うけど、みんな仕事しながらバンドやってるんで、集まれる時間が本当に少なくて。今回も1日5曲のペースで録ったんですよ。時間的に再考することは許されなかったですね。

じゃあ、トータルのレコーディング期間ってどれぐらいだったんですか。

笹沼位吉:短かったですね。初日はほとんどドラムなど楽器のセッティングで時間が奪われて…正味3日。

短いレコーディング期間だったからこそ、頭で考えたんじゃない部分、肉体的な部分がより出てるのかもしれませんね。

笹沼位吉:そうかも。ま、毎回ミラクル頼みみたいなところはあるんですけど(笑)。出ないときは出ないんですけどね。

今回はかなりミラクル出てますよ!

笹沼位吉:(笑)。

録音期間が少なかったことに関しては、震災の影響もあったんですか。

笹沼位吉:いや、メンバー全員の時間が合わなかったことが一番大きいです、やっぱり。ただ、実際録ってる間に震災の期間をまたいだんですよ。そのときに音楽以外のことを考える時間も多かった。

それによってアルバムに手を加えたり?

笹沼位吉:今回歌ものを1曲やっていて、リリックをギターの塚本(功)君とTOKYO No.1 SOUL SETのビッケの2人に書いてもらったんですけど、どうしても重ねて考えてしまってちょっと書き直してもらったり。

その歌ものっていうのは“五月雨”という曲ですよね。これ、歌ってるのはどなたなんですか。

笹沼位吉:当初はほんとシャレだったんですよ。「ピッチシフターで声を変えて昭和歌謡みたいなのをやろうか」っていう話だったんですよ。で、P-VINEのディレクターの方から「どういうボーカリストと一緒にやってみたいですか」って訊かれたことがあって、まあ、いないだろうと思って、「山崎ハコさんとか森田童子さんみたいな人がいたら面白いんですけどね」って軽いノリで話したら、「う~ん、ひとり思い当たる人がいますね」って(笑)。それが山崎ハコさんを敬愛しているというmmm(ミーマイモー)って方で。シャレのつもりが思いのほかマジな仕上がりになって(笑)。

SLY MONGOOSEでこういう歌ものっていうのも面白いですよね。

笹沼位吉:アルバム1枚作ってみたいですけどね。ディスコでもいいですし。ただ、リリックとか人に委ねないと現実的に難しい…。

笹沼さんはSLY MONGOOSE以外の活動もいろいろやってらっしゃるわけですが、笹沼さんの活動においてSLY MONGOOSEはどういう存在なんですか。

笹沼位吉:ま、自分のやりたいことのひとつではありますね。バンドでしか体現できないものってありますし。メンバーの趣味がバラバラだしまだまだブツけ合えば面白いものが捻り出せると思うんですけどね。

メンバー間の関係性は“ブツかり合い”みたいなものなんですか。

笹沼位吉:そんなカッコイイもんじゃないですけどね(笑)。まあ発表の場があるうちは続けて行きたいとは思ってますけど。あと、別のプロジェクトもやりたいですね。

ソロ・アルバム的な?

笹沼位吉:どういう編成でやるのかまだ思案中ですけどね。40歳を過ぎて未来よりも思い出の方が長くなってきて(笑)、「死ぬまでに何ができるのか」とか考えちゃったりしてね。“そのうち”っていう発想はなくなってきましたね。まあでも慢性的な怠け癖はそう簡単には治らないこともわかってますけど(笑)。

そういう感覚って震災以降で加速したものなんですか。

笹沼位吉:普段黙殺してたことを掘り起こされるハメになったというか。原発のことに関しても根拠のない楽観を黙認していた自分についてとか、知らんぷりが一番罪なんじゃないかとかね。音楽に関してもこの先さらにマジョリティじゃないものは排除されていく傾向は強まるんですかね。DJの人たちにしたって僕ら初老の世代はレコード一枚にしても、ものすごい遠回りして自分なりの本質に辿り着いたわけでしょ。ゴミレコードを山ほど買って(笑)。今の若い人たちには何の罪もないけど手堅い買いものができるし強制的に今必要じゃないと思っている音楽を聴く機会は少ないと思うんですよ。そこの違いはなにかある気がして…わかんないけどね。もしかしたらただ単にゴミレコードを沢山買ってた人たちだって(笑)。




SLY MONGOOSE オフィシャルサイト:www.slymongoose.jp/


インタビュー 大石始
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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