近藤恵介・冨井大裕インタビュー

絵画と彫刻の幸福な関係とは?~2人展『あっけない絵画、明快な彫刻』について

近藤恵介・冨井大裕インタビュー

左)近藤恵介 右)冨井大裕

12月4日(土)から清澄白河のギャラリーカウンタック清澄で、近藤恵介と冨井大裕による2人展『あっけない絵画、明快な彫刻』が開催される。近藤は、日本画材を使って、身の周りにある様々なものをシンプルな構図で描く画家。2010年は、岡山で個展を開催し、金沢でのグループ展へ参加した他、古川日出男や蓮沼執太らがメンバーのthe coffee groupの一員としても活動した。冨井は、日用品の使用と原理的な彫刻の両立を試みる作品で知られ、この一年間だけでも東京を中心に6回もの個展を開催、CAMPや壁ぎわなどのアート関連プロジェクトへも参加し、2010年は注目の現代アーティストとして、ひときわ存在感を増した。

年の締めくくりに、単なる2人展ではない試みをする近藤と冨井に、経緯や見所などを聞いた。

近藤さんが冨井さんを誘ったことから、展覧会の企画が始まったそうですね。他のアーティストの作品が好きでも、展覧会を一緒にやるのは簡単ではないと思うんですが、開催までどのような経緯があったんですか?

近藤: 僕が冨井さんの作品を初めて見たのが、ジュンク堂で開催されていた小説家・福永信さんの選書展だったんです。

冨井: ジュンク堂はフェアを少し突っ込んだ形でやるんですけど、それに作品を置いてくれっていう話になって。で、作品を置くなら、ただ飾りのように置くのではなく、本棚自体も台座というか、絵画で言えばパネルのようなものなので、より入り込んで本が無いと成立しないような感じにしたんです。

近藤: その時の付箋の作品を見て、その後立て続けにやっていた展示もいくつか見に行って、面白いなと思いました。それから、ずっと、いいなと思ってて。普段から、絵画を中心に他の作品を凄くみるんですが、作品を見るということが、直接的に自分の作品に反映される場合とされない場合というのがあるんですね。最初に、冨井さんの作品を見たときは、描きたいなと思ったんです。僕が絵を描くときにモチーフを選ぶ基準というのに、すごく合致していて、見るってことが描くってことに直接的に繋がるような気がしました。共通の知り合いがいた事もあって、展覧会をお願いしたんです。

日常的に色々なものを見ているなかで、描きたいと思うのは、どういうきっかけがあるんですか?

近藤: 僕が描くものを選ぶ基準というのは明確にあります。まず、ちゃんと単体で“もの”として成立しているもの。絵を描くときに複雑な手順を踏まずに描けるもの。手数を駆使して描くんじゃなくて、2層ぐらいの層で描けるもの。あとは、色とかたちという判断があります。

ブックフェアが今回の出会いの切っ掛けになったことには、どんな印象を持っていますか?

冨井: 自分としては、作品を見てもらったら、それに対して何か残そうとは思っています。作品を作る以上、関わっている以上は「全部頂くぞ」というつもりでやってるんですね。ただ、そのために、自分を全部出すということではなくて、相手のことを理解して、どういう風に相手を引き立てるか、そういう差し引きをすることが必要になってくる。結局全部が良くないと駄目で、全部が良くて、なんでそれが良いのかってなった時に、何割かの人が、コレが冨井の作品だったかとか、付箋の作品があったから良いんだ、って思って貰えれば、最終的には、その後の僕の個展などに見に来てくれるようになってくれると思います。作品を通してでじゃないと、人に何も言えないですからね。

ブックフェアという場を借りて、作品を作って、それに近藤さんが反応したというのは、きれいな流れだったんですね。

冨井: 結果的には、そういうことですね。こうなるとは全然思わなかったですけどね(笑)。

この展覧会では、お互いをどんな風に弄り、そして弄られたんですか?

近藤: 僕がお願いしたのは、冨井さんの作品を僕の絵の中に、描かせてほしいということと、僕が選んだ過去作を使って、冨井さんに新しい彫刻の作品を作って欲しい、とお願いしました。

冨井: 他には、(近藤さんが描いた)絵の中の作品の何点かを置くということになると思います。近藤さんの場合は、近藤さんの作品でも有りながら、僕の作品が入っているんですが、僕の作品の場合は、半分が近藤さんの作品で“あった”ものが、立体になっているのに加え、元々僕の作品を展示するんで、かなり複雑になっちゃうんですけどね。

具体的にどうするかは、まだ決めてないんですか?

冨井: こんな風に出来るだろうという算段はしてて、後は試しながら、実際にやっちゃうんですが。さすがに、失敗はできないんで(笑)。

冨井さんは、普段、既製品や日用品を使うことが多いと思うんですけど、作品を作る過程で、失敗はあるんですか?

冨井: ボツになることはありますよ。物理的に持たないとか、倒れちゃうとか、やってみたら、ちょっと違ったとか、もちろんあるんですけど。うまく行くときは、ストレートに行くんですよね。ほんとに失敗か成功かしかなくて、あやふやなものはないんですね。制限があったり、機能があったり、条件を僕に与えてくれるものとしては、絵画も、付箋も、スーパーボールであれ、画鋲であれ、なんら変わることはないんで、気にして無いんですが。近藤さんの熱意というか、気合にどう応えられるかですね。近藤さんは「切り刻んでもくしゃくしゃにしてもよい」って普通に言ってきましたからね(笑)。

近藤: 作品の完成形ということに対する意識が、あまり無くて。例えば、展覧会のフライヤーに使われる絵にしても、展覧会に出す絵にしても、完成を見たと思うから、判断を下したから、出すんですね。ただ、それが更新されたらいけないとは、特に思っていなくて、冨井さんにお渡しした作品も、全部展覧会で発表した作品です。過去に僕の展覧会に来た人は、その絵を観ているし、記録写真にもなっています。その記憶を持った人と、今回、僕の過去作を使って冨井さんが彫刻にしたのを見た人では、見方に齟齬が生じると思うんです。その辺をふくめて、作品にしていけるんじゃないかな、と思っています。抵抗は、本当にほんとに無いんです。あと、前の作品がなくなるとも思ってないです。

冨井: そういう風には使わないですね。僕の場合は、日用品でもそうで、コップがコップとして見えないようになっちゃうことは無いので、逆に、やってきたことが試されちゃうんですけどね。

冨井さんは、近藤さんの絵画を素材としてどのように扱うんですか?単なる絵画としてか、それとも、紙、パネル、絵の具、のような部品として?

冨井: 単なる……ということはないですね。全部を言うとネタバレになるんですけど。パネルに、張られてないと成立しないわけだから、パネルはポイントですね。あとは、支持体と紙というのもあるし、紙に描かれている絵の具というのもあったりしますよね。近藤さんの絵は、構造的にわかりやすくて、余白に対して静物が並んでいますよね。その構図自体をどうして近藤さんがやっているのか、っていうのを自分なりに考えてた上で、あまり考えないようにして、どういう風に活かすか、ということでしょうね。で、戻せば、近藤さんの絵に戻らないわけじゃない、というようにはしようと思っています。

物理的にもですか?

冨井: 完全には、同じにはならないですよ(笑)。継ぎ接ぎで戻せば、ということです。

今回、展覧会を見る側にとっては、どんなポイントが見所になりますか?

近藤: 僕が、絵を描くきっかけとなった冨井さんの彫刻の作品があって、それを絵にした僕の作品があって、僕の絵の事を作品にした彫刻があって、それをどこも隠さずに、すべて見せるという事を意図したので、そこが見所だと思います。ちゃんと、引用元まで、あからさまに見せてしまうところですね。

冨井: これは、ほんとに近藤さんの気合いの賜物というか、思いの賜物で、ここまで踏み込む2人展ってあんまり無いと思うんですよね。実際の作品が消えるというか、危機にさらされるというか。絵画と彫刻、というような展覧会に出る事も初めてですし、ちょっと違うメディアのものが幸福な関係になるものができたら、良いと思います。空間的に、絵と彫刻があるということだけでなくて、もっと踏み込んだ形での関係で出来れば、映像なんかが多い今の美術状況の中でも、見る人の目先を変える展覧会になれるかなと、思います。

東京の街をどう思いますか?

冨井: 昔は、可能性があるけど、目的は見えない街と、よく思ってました。今の自分を思うと、それでも十分だよなと思いますね。目的は自分で探せ、ですね。学生時代を過ごしているような少し受身の人にしてみると、危険な街だと思いますね。逆に、危機感があるからみんな来たがるのかもしれないですね。

近藤: 楽しいと思います。色々見てるし、いろんな人に会えますから。無いモノが無い、という感じでしょうか。画家的な立場で言うと、東京にいても、外国にいても、田舎にいても、筆を持って、絵を描くという事自体は変わらないなとは思いますので、そういう意味ではどこも一緒だなと、いつも思っています。

東京でよく行く街や、好きな場所はどこですか?

冨井: 渋谷が多いですね。よく行くのは、東急ハンズですね。「僕のアトリエはハンズだ」って言い切ってもいいですね。実際あそこで、商品で仮組みまでして、1時間ぐらい見て、オッケー出して、それを大人買いすることがありますね。スーパーボールの作品はハンズで組んでますからね。5段ぐらい組みました。「作品ですか?」ってお店の人に言われたりする時もあります。ハンズ大賞には出しませんけど(笑)。ハンズ脇のサンマルクカフェに行って、プランを起こして、発注して作るというのが、一時期は、3年ぐらい続きました。

近藤: 僕は、新宿ですね。ジュンク堂、世界堂、バルト9、美味しい珈琲屋さんなんかが全部あるって感じですね。世界堂の裏あたりに、増田屋という蕎麦屋さんがあって、そこは常連です。

今度の予定は?

冨井: 2月に、今回のギャラリーの近所でもある東京都現代美術館でやるMOTアニュアルに参加します。これまでの仕事を俯瞰的に見れる上に、でかい画鋲の作品も出そうかなと思っています。並行して、3月にレントゲンヴェルケで個展があります。

近藤: 完全に奇しくもなんですが、次と次がまた二人展のなんです。ある小説家の方と、雑誌紙面でちょっと仕掛けのある小説と絵の見せ方をして、それをフィードバックさせた展覧会を3月にする予定です。夏には、岡山のギャラリーで、あるアーティストと2人展を企画しています。

近藤恵介 ウェブ:http://www.kondokeisuke.com/
冨井大裕 ウェブ:http://tomiimotohiro.com/

近藤恵介・冨井大裕 『あっけない絵画、明快な彫刻』
会期:2010年12月4日(土)から25日(土)まで
場所:ギャラリーカウンタック清澄
イベント情報はこちら
 


近藤恵介 作品

私とその状況(あっけない絵画、明快な彫刻)/ 2010 / 岩絵の具、水干、膠、墨、鳥の子紙 / 53x53cm / 撮影: 中岡恵美

(c) KONDO Keisu


近藤恵介 作品

本に絵/ 2009 / 岩絵の具、水干、膠、水彩絵の具、本 / 25.8cm x 41.2cm

(c) KONDO Keisu


冨井大裕 作品

paper work(Post-it)-book piece- #3 / 2009 / 付箋、糊 / 撮影: 柳場大

(c) Motohiro Tomii


冨井大裕 作品

roll ( 27 paper foldings ) #3 / 2009 / 折り紙、ホッチキス / 21×43×27.5cm / 撮影: 柳場大

(c) Motohiro Tomii

インタビュー・テキスト アツシトノサキ
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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