ニック・ウォーカー、東京に現わる

ブリストルのグラフィティ・アーティストが語るストリート・アート

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ニック・ウォーカー、東京に現わる

11月18日、ブリストルをベースに活動するストリート・アーティスト、ニック・ウォーカーが来日。彼の独特な視点でとらえた“東京”を描くライブ・ペイント・イベントを行うため、タイムアウトカフェ&ダイナーを訪れた。続く11月21日には、代官山UNITでのDrum & Bass Sessions 13th anniversary eventでパフォーマンスを行ったニックにとって、この日のイベントはまさにライブ・ペインティング三昧の週末の幕開けであった。

ニックはブリストルのもう1人の有名なグラフィティ・アーティスト、バンクシー(Banksy)のスプレイメイトである。バンクシーは2008年、彼の作品がニューヨーク市の街の壁に現れ、捕まることのないゲリラアーティストとして注目されたことで、憶測の嵐を巻き起こした人物である。

ニック自身の壁面ペイントのキャリアは20年以上。『モナリサ』や『ザ・カンズ』などの作品は広く知られていることだろう。そんなニックが、タイムアウトカフェ&ダイナーでのパフォーマンスの後、自身の作品へのアプローチについて語ってくれた。

TOT:はじめに、屋外はかなり寒かったと思いますが?

ニック:ノー。僕は大丈夫だったよ。(ジャケットを見せて)これを着ていたからね。きちんと準備して来るんだ。このジャケットはものすごく温かいんだよ。ここに来る前は天気がどうなんだろうかと考えていたんだけど、この時期のブリストルやUKと比べるとずっとマイルドだね。あちらは凍るような寒さだし、もちろん雨も降る。本当にひどいんだよ。

TOT:ひとつの作品を制作している間は何を考えているんですか?今日のパフォーマンスを見ていて、作業中にびっくりするほど多くのプロセスを踏んでいましたよね。たくさんの要素や工程をどうやってまとめるかを考えているんですか?

ニック:以前作ったことがあるものだったら、制作は簡単になる。あのフレームは前にも使ったことがあるんだ。だからプロセスと効率のいい手順は知っているし、本当に1から始めるよりずっとスムーズに進めることができる。そして仕上げの工程で可能な限り作品をタイトに、印象強く刻みつける。たった3、4枚のレイヤーのことなんだけど、暗闇が影を作りだした時に問題がでるんだ。見る人がそれをただのエッジだと思ってしまったら、すべてが台無しになるんだよ。

TOT:では、それぞれの作品に異なるアプローチを取るのですか?それとも、まったく新しいスタート地点から始めようとするのでしょうか?

ニック:う~ん。そうだな。3、4枚のステンシルを使った作品の時はいつもと変わらないね。さっと作業するだけだよ。だけど他の作品、たとえば僕が今取り組んでいる方向性のものは、フリーハンドスタイルとステンシルを組み合わせたコラージュ的なものになる。いくつもの層があるタマネギみたいなものだね。絵の層を通してたくさんのものを見られるし、見るたびに最初には見えなかったものを見つけられると思う。そうすることで、もっと有機的にペイントすることができるし、ペインティングにおける自由や楽しみを味わえる。それほど生真面目に、手順に縛られるわけでもないしね。

TOT:私が後で聞きたいと思っていたことに、答えてもらったみたいですね。もう一度、聞いてもいいですか。フリーハンド?それともステンシル?

ニック:両方だね。同時に一緒に使うんだ。

TOT:それらをミックスしているんですね。

ニック:うん。そうだね。

TOT:ところで、東京に来るのは初めてですか?

ニック:初めてだよ。

TOT:どんな印象を受けましたか?

ニック:今のところは順調だね。本当は今日はもっと高い位置にペイントしようと考えていたんだけど、そうしなくてよかったと思ってる。実は今、死んだような状態なんだよ。たぶん18時間は寝ていないんじゃないかな。ヘトヘトだよ。

TOT:全然そんな風に見えませんでした。今日はアシスタントを1人付けていましたね。いつもそうなんですか?

ニック:うん、そうだよ。今日のフミエは段取りやペイント作業をサポートしてくれた。彼女に会ったのは今日が初めてだったけどね。通常、もっと大きなステンシルを使うときは、それらをとにかく平らに保つことを考えなくてはいけない。だから4つの手が必要になるんだよ。

TOT:今日描いた外壁とカフェ内の2作品のアイデアはどうやって浮かんだのか、教えてください。

ニック:そうだな。東京の風景部分は前もってカットしてあった。僕がここ数年にわたって手がけてきた『Morning After』シリーズの中の1枚で、大きく引き延ばしたものだ。『Morning After』の東京バージョンはもう完成しているしね。そう、だからそれを今回のフレームに合うようにカットしておいたんだよ。それで、リキッドルームの外壁にペイントをすることを聞いたとき、「傾いていて、中から滴り落ちているものにしよう」という案が浮かんだんだ。わかるだろう。リキッド、液体、だからね。

TOT:作品を場所に合うようにするんですね。

ニック:そうだよ。

TOT:『Morning After』シリーズについて伺います。一連の作品の背景にあるアイデアとはどんなものなのでしょうか。

ニック:あれは“街に繰り出して、楽しくやろう”ということに基づいて作った、とても凝ったシリーズなんだ。山高帽を被った典型的なイギリス紳士の話で、彼はその街で働く普通の人間のように見えるけど、それは見せかけだけ。だって街にいたずらをしようとしている人間がそんな格好をしているなんて、誰も考えやしないだろう?彼は街から街へと旅をして、街を赤だけでなく、ピンクや黄色や緑で染める。ペイントしまくるんだ。
※「街を赤く染める(paints the town red)」は、街に出て楽しむの意味がある。

TOT:では、タイムアウトカフェ&ダイナー内に描いたスカルの作品も同じコンセプトですか?

ニック:そうだな。あれはスカルがもつ消滅のシグナルだろうな。あのキャラクターを使って2年になるからね。今は本当に前に進んで、新しく他のキャラクターを作りたいと思っている。ディレクターが新しい映画を作るみたいにね。僕が思うにキャラクターを基にした制作活動は自分にぴったりなんだ。あとは新しいキャラクターを生み出すだけだね。

TOT:最後に、今後の予定を教えてください。

ニック:今はわからない。いろんなアイデアが混ざりあった状態にあるよ。とりあえず、日本の後にマイアミ・ボウルのためにフロリダに行って、その後はクリスマス。静かに隠れて過ごして、新しいアイデアを練ろうと思っている。それと来年ニューヨークで行うショウの準備をしないといけないな。

TOT:今日はどうもありがとうございました。

ニック:どうもありがとう。

ニック・ウォーカーが行ったライブ・ペインティングの様子は、こちらでビデオ公開中。

テキスト JNGC
翻訳 道辻麻依
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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