(c)2009『大洗にも星はふるなり』製作委員会
2009年10月21日 (水) 掲載
第22回東京国際映画祭が、10月17日に東京・六本木で開幕した。国際映画製作者連盟公認の『世界12大長編国際映画祭』の一つであり、アジア最大級の映画の祭典だ。期間中は、コンペティション部門のほか、アジアの風部門や日本映画・ある視点部門など各部門でおよそ270作品が上映される。またキャストやスタッフによる舞台挨拶やイベントも開催される。
そんな同映画祭に初の監督作品『大洗にも星は降るなり』が招待されたのが福田雄一氏(41)だ。氏は人気テレビ番組『笑っていいとも!』(火曜日)や『SMAP×SMAP』など数多くのバラエティ番組を手がける放送作家で、かつ『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』や『逆境ナイン』の映画脚本家でもあり、DVD『THE3名様』の演出も手がけるなど、まさに“コメディ界の才人”とも呼べる人物。劇団ブラボーカンパニーの座長としてもその名は知られている。
この映画、宣伝文句が“いまだかつて見たことがない、おバカな男子による暴走LOVE★エンターテインメント誕生!”というもの。堂々と宣言してはばからないパワフル&しっちゃかめっちゃかのラブ・コメディ、まずはざっとストーリーを紹介しよう。
もうすぐクリスマスというある日、自信過剰の勘違い男・杉本(山田孝之)のもとに、夏のバイト仲間の憧れだったマドンナ・江里子(戸田絵梨香)から、「あの海の家で会いたい」という手紙が舞い込む。誘いに乗って海の家に行ってみると、そこには同じ手紙を受け取ったサメマニア(山本裕典)や天然ボケ(白石隼也)、ハイテンションなおバカ(小柳友)など個性的な男たち5人が集まっていた。杉本を加えた6人の男たちは「自分こそは本命」と信じ込み、熾烈なアピール合戦を始める。そこに弁護士・関口 (安田顕) が現れ、事態を収拾しようとするが、関口もまた江里子への恋心に気付いてしまい…。
とてもにぎやかな印象を受ける映画だが、監督がこの映画に込めた思い、撮影を通じて感じたものとはどのようなものだったのだろうか。そのあたりを本人にうかがった。
--この映画で最も気をつけたことはどのようなことだったのだろうか。
福田「やっぱり、いかにキャストとスタッフと僕との思いを作品の中に凝縮するか、ということでした。それこそが映画だとも思いました。今回の映画に関して言うと、本当に撮影の時からキャスト、スタッフ、僕とが、いわゆる一丸となって、ものすごい“濃い汁”が出たと思うんです。バラエティ番組の場合は、結構みんなの意識は拡散しているんですよ。で、その拡散した中で、瞬間的に集合帯をさっと作って、勢いでどっと流すということをする。でも映画は違う。みんなで一点にめがけてどれだけ集中するか、どれだけ“濃い汁”を作ることができるかが重要になってくるんです」
--福田監督とキャスト間でのやりとりも“濃密”なものだったようだ。
福田「役者さんそれぞれに、いろいろ言われました。『こんなことしていいですか?』『こんなこと言っていいですか?』とか。こんなにアグレッシブに役者さんからいろいろご提案いただくとは思ってなかったです。中には、佐藤二朗さんのように長く付き合っている役者さんもいて、彼などは好きに演るんですよね。そうすると、まわりの役者さんも、『なんでおれ、普通にやってんだろ』って感じたんでしょうね。 一番嬉しいのは、役者さんが言ってくることが、芝居的な提案だったことです。セリフ変えていいですか?っていうのはないんです。だから、山田孝之くんが取材を受けている時に、『アドリブすごかったんですってね』って聞かれると『アドリブってないですよ』って山田くんがいうんですよ。確かに、アドリブっていうのがどういう範囲のものなのか厳密じゃないですが、セリフは台本のままなんです。セリフをどんな風に言うかというのは役者の仕事じゃないですか。だから、役者さんたちの積極的な提案はすごく嬉しかったですね。山田くんが、言い方と表情や、演技幅で、全部笑いにしているのは、ほんとに、さすがだなと思いますよね」
--福田監督、実は“セリフ”については強いこだわりがあるという。
福田「僕がやりたいのは、セリフを書くっていう作業そのものなんですよ。だから、セリフを書ければジャンルは問わない。漫才でも、コントでも、ドラマでも、映画でも、とりあえずセリフを書いて、人に読んでもらって、『うわー、楽しいっ!』て喜んでもらえればいい。その瞬間を求めてがんばっていると言ってもいいくらいです」
--なぜ“セリフ”を書くことが好きになったのだろうか。
福田「脚本家になろうと思ったことは1度もない。放送作家になろうと思ったことも1度もないんです。僕はもともとブラボーカンパニーっていう劇団をやっていて、27歳くらいの時に、よしもとの『銀座7丁目劇場』に入ったんです。そこで、当時全然売れていなかった極楽とんぼや、ココリコ、ロンドンブーツと出会いました。僕は彼らのネタを書いていたんです。そうこうしているうちに彼らが売れ始めて、『番組を一緒にやりましょうよ』ってことになったんです。それで自然と放送作家と呼ばれるようになったんだけれど、別になりたかったわけじゃない。 ひとつ思い出に残っていることがあります。ココリコの番組で、ロケ台本を書くんですけど、プロデューサーから『お前の台本はセリフが多すぎるよ』って怒られたことがある。ロケ台本というのは普通は芸人さんにまかせる部分が多いので、5、6ページで終わるんだけど、僕の台本は20ページくらいあるんです。そこでわかったんですよ。あぁ、僕は、単純に、セリフを書くのが好きなんだって」
--福田の“セリフ好き”は、その後、役者やアイドルのためのコント原稿を書くことによってますます磨かれていく。
福田「基本的に芸人さんというのは、台本のセリフは一字一句そのままに読むわけではなくて、セリフをもとにアドリブで構成していくんですよ。だけど、役者さんは違う。きちんと台詞を読むんです、当然ながら。だから、自分が書いたセリフがダメだと、そのコント自体がダメになる。 今回の映画では、自分が書いた台本の中できちんと笑いが成立してないと絶対におもしろくならないっていう意識、責任感を持って取り組んだんです。そのことが何しろ楽しかったですね」
--さて、このラブ・コメディ映画『大洗にも星は降るなり』は、どう受け入れられるのだろうか?
福田「こういう映画を面白がってくれる世の中だといいな、と心から思います。やっぱり僕は、これは日本だけなのかもしれないけど、エンターテイメントがちょっと衰弱している気がする。 テレビ番組も、刑事ものや、猟奇殺人ものや、子供が子供を殺した事件をドラマ化したものなどが視聴率を取ったりしている。そういう状況が、自分的に切ないんです。視聴者は、『この番組見たら、何の情報くれるの?どんなお得感をくれるの?』っていう目線でテレビをにかじりついているし、映画にもそんな欲求を向け始めたように思う。 そんな様子を見ていると、『ただ単に、楽しいだけじゃ駄目ですか!?』って思う。『明日、行きたいお店を教えてあげなきゃいけませんか?』って言いたくなる。この、何の役にも立たない、何の情報にもならない、『大洗にも星は降るなり』って笑いのものの映画が受け入れられる世の中だったらすごくいいのになぁと思います。 だって僕らが子供のころって、ドリフのコントが楽しかったじゃないですか。ドリフのコントには、何の意味もないんですよ。あれが今、日本にないんですよ、あの楽しさが。だから単純に、楽しければそれでいいんですっていう気持ちで観てもらえればいいなあと思います。それが僕が今一番目指すところです。そういう世の中であってほしいなぁ、って思います」
--そんな福田監督、今1番エキサイティングだと思う東京の街はどこなのだろうか。
福田「下北沢!NYのタイムズスクエアに匹敵する街が下北沢だと思う。僕は3、4年前から、毎年お正月にNYに行くんです。初めてタイムズスクエアに行ったときには、テンションが5段階くらい一気に上がって、旅先で写真なんか撮ったことがないのに、そこらじゅうを撮影していた。その興奮っていうのは、要するに、自分が好きないろいろな舞台が街におさまっている感じから来るんです。だって、『オペラ座の怪人』の向かいで、『プロデューサーズ』をやっていて、その真向かいでは『モンティパイソン』をやっている。そんな街って、日本にはないじゃないですか!だからとても感動しました。 日本で唯一そんな気持ちが味わえるのが下北沢だと思います。演劇人ならば必ず足を踏み入れる街なんですよ。案の定、僕も25、6歳くらいから下北沢に住んでいたんですけど、下北沢に行くと自分の心持ちが変わりますね。だから、再開発はやめてほしい。東京で唯一、ワクワク感を味わえる街なんですから!」
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