2010年11月16日 (火) 掲載
中目黒にあるヴィーガンカフェ『カフェエイト』のレシピ本『VEGE BOOK4』がリトルモアからリリースされる。第4段となる今回のテーマは“和食”。乳製品、動物性の食材を一切使用しないヴィーガン料理で、どこまで和食を表現できるのか。とことん“ワルノリ”しながら楽しんで作った、というカフェエイト代表の清野玲子に、ヴィーガン和食に挑戦した理由を聞いた。
カフェエイトは2010年で10周年になりますが、オープンした当時、ヴィーガンという言葉はまだ定着していなかったのではないですか?
清野:当時は、ヴィーガンという言葉はほとんど使われていませんでした。お店で提供していたメニューは完全にヴィーガンだったのですが、私たちも変に偏見を持たれるのが嫌だったので、あえてヴィーガンとは言わないようにして。「できるだけ良い食材を使って、たくさん野菜を食べていただこう」くらいの感じでやっていましたね。 当初はわりと、グルテンでミートボールを作ってパスタの上に乗せたりとかしていて、皆さんお肉だと思って召し上がって帰って行かれていましたよ。ただ、コーヒーを飲まれる時に初めて、「ミルクがないんです」ということをお話しすると、「え!?」という感じでしたけど。そうじゃない方は、あんまりヴィーガンだということに気づかなかったですね。
『VEGE BOOK』の1冊目を出したのがお店を始めてから6年目だったんですけど、その時に初めて、なんか野菜が多いと思ってたけど、ヴィーガンだったんですね、っていう方が結構いらしゃいました。
今回、『VEGE BOOK4』で初めて和食に挑戦されて、ご自身のブログにも「試行錯誤」と書かれていましたが、ヴィーガンで和食を作るのはやはり難しかったですか?
清野:実際に調理すること自体は、さして難しいことではないのですが、やはりカフェエイトがなぜ和食の本を出すのか、その必然性がどこにあるのか、という点で模索をしていました。日本には、精進料理という完全なる純菜食の和食があるので、その大家を超えることはまずできない。かといって、ヌーベルキュイジーヌのような、創作料理をやっても意味がないと思ったし、何を伝えていくのか、という目標地点を探すのに、難しさを感じました。
それで、結果的に何を目標地点にすることにしたのでしょうか。
清野:今回、和食料理を本でご紹介しようと思ったきっかけが、日本料理の世界で長く活躍してこられた、コンラッド東京の日本料理『風花』の元総料理長でいらした斎藤章雄さんと親しくなったことでした。いわゆる、一般の家庭向けに作られた和食本では、なかなか紹介されていないプロの技がいくつもあることを知りました。それで、その技をちょっと上手く活用することで、ヴィーガンでも本当に美味しい和食ができることを知って欲しいと思いました。
斎藤さんに出会って、和食に触れていく時に、ものすごく丁寧に素材と向き合う料理なんだということを知りました。今まで、色々な国の料理をやってきて、改めて日本人の素材に対する考え方や向き合い方って素晴らしいと痛感した部分があった。ヴィーガン、オーガニック、ローフード、今、日本で流行っているキーワードが色々ありますが、そのトレンドで食事を追いかけていくのではなくて、そもそもの日本人の食との向き合い方が、ちょっとでも、この本を通して表現できれば良いと思います。なので、レシピはかなり王道系の和食にしぼって展開しています。
おひたしとか、煮物とか、揚げ物とか、色々ありますね。
清野:和食って本当に、お料理の種類がものすごく多いんですよ。家庭料理もあるし、お寿司も天ぷらもあるし、懐石料理も精進料理もあるし、そんなにスタイルが明確に分けられていて、かつ種類が多い料理って世界でも類を見ないと思う。そういう意味でも、どういう様式をやっていくのか、ということでもすごく悩んだのですが、結果的には、家庭でできるおもてなし料理にしました。和食は、趣とか、あつらえとか、日本人ならではの演出を加えることで“晴れの料理”に仕立てていくという感覚とか、食べる人の気持ちを考えて整えていくところが面白いから、基本はおもてなし料理です。ヴィーガンの会席料理をやってみようと思いました。精進料理とは違う、ヴィーガンの会席料理を本の中では展開して、ただ、あつらえを変えるだけで、充分に家庭の料理にもなるし、そこが和食の面白さですよ、ということも伝えられれば良いな、と思っています。
おでんもありますね。だけど、おでんはもともとの具材が魚のものが多いので、すごく難しそうですね。
清野:実は、結構難しくって、根菜だけを煮たものもおでんと言ってしまえばおでんだと言い切れるんですが、せっかくカフェエイトがやるのであれば、さつま揚げだとか、そういったものも作ってみよう、という遊び心も入れながらつくりました。
お寿司もありますが、これは、新たなお寿司のネタを探す、という感覚で作られたのですか?
清野:お寿司は今回、大切なテーマのひとつになっています。お寿司に関しては、ヴィーガンだと、かっぱ巻きかかんぴょう巻きしか食べられない。だけど、お寿司って“ハレのお食事”だし、ヴィーガンの人も、「わぁ!」っていう感覚のお寿司を食べたいんじゃないかな、と思って。単純な巻物だけではなくて、エンターテインメントとして楽しめるお寿司ができるんじゃないかという思いから、魚っぽい食感のものは何か、烏賊っぽい食感のものは何かとか考えて、パプリカとか、エリンギとか色々試してみました。あと、これは私の主観なのですが、白米より、玄米の酢飯の方がお酢がまろやかになって美味しい気がするんです。
その他、苦労されたレシピは何ですか?
清野:やはりおでんのさつま揚げとか、いわゆる魚肉の触感をどうやって出すかということと、それを楽しんで作れるところまで、レシピの完成度を上げていくことが難しかったですね。
ヴィーガンのお料理って、使ってはいけないものとか、色んな制限がある料理なので、作るのが大変そうだったり、どうしても野菜が多いので、食べて物足りないかも、という感覚があるのですが、楽しく美味しく作る秘訣はあるんですか?
清野:実際に洋食だと特にそうなんですが、○○でブイヨンをとって、とか、レシピの中にダシをとる作業があるんですが、実は、ダシってあってもなくても意外と味は変わらない。もちろん変わるけど、それがないと満足できないとか、コクがないんじゃないかと思われる方がほとんどだと思うんですが、実は人の味覚ってもっとシンプルで、火加減とか、野菜の切り方を工夫することで、充分満足できるお料理に仕立てることができると思うんです。発想をちょっと切り替えるだけで、楽しいことがいっぱいできるんです。そうじゃなければいけない、という偏見をまず取り除いてみることがたぶん一番近道だと思います。「これだけでも全然美味しいんだ!」という、逆の発想。実はこれもこれも必要なかった、ということが結構多いと思います。
そういう意味では、今、たくさん本でも出ている、いらないものをそぎ落としたり、捨ててさっぱりするライフスタイルと似ていますね。
清野:そうですね。おそらく食をシンプルにすることが、全てのことにつながっていくと思う。生活の中の無駄に気づいていくきっかけになると思います。今の日本人って、毎日が“ハレの日”じゃないと気が済まないみたいな部分があるけど、本来の日本人は、たまに晴れの日が、年に数回あるだけなのが日常で、そこに気づき初めている人が増えているんじゃないかな、と思います。食事もすごい質素でしたし、実際は毎日、ご飯と納豆とみそ汁で充分なはず。私はわりと、それで良いと思うんですよ。
カフェエイトで出しているものも、すごくシンプルですものね。
清野:そうですね。だけど、良く、お客さんに、「食べたことがない味です」って言われることが多くて。でも実際は、野菜と、調味料も塩と油と、ちょっとしたハーブくらいしか使っていなくて、そんなに変わったものは使っていないんですよ。なぜ、食べたことがない味だって感じられるのかが不思議なんですが、そういうシンプルなものを食べたことがない人が増えていると思うんです。
化学調味料の味に慣れている人も多いのかもしれないですね。
清野:今の食事って、味のバリエーションが、辛い、甘い、酸っぱい、苦いとかじゃなくて、トマトソース、ウスターソース、ホワイトソースとか、そういうカテゴライズをされているから、うちのお料理を食べた時に、これはトマト味でもソース味でもないし、何味なんだろう、って思うみたいですね。それが面白いな、と思って。
今回の本の中でも書きましたが、西洋のお料理って、基本的に色んなものを加えていく足し算のお料理だと思うんです。だけど、日本の和食というのは、引き算とまでは言いませんが、素材が持つマイナスの部分を下ごしらえで引いて、そこに手を加えることで、もともと1だったものをさらに良い1に仕上げていく。西洋料理の場合は、1を10にして楽しむけど、その“1”をより良い“1”にする考え方とか発想を、やはり今の日本人も持っていなくてはいけないと思うんですよね。
清野さんご自身はもともと、生まれつき肉類や乳製品を受け付けなかったそうですが、ご自身の生活のためにヴィーガン料理を作り始めたんですよね。
清野:そうですね。料理をするのはもともと好きで、自分は食べないけど、肉を料理したりするのも楽しかったんです。ヴィーガンフードをさらに本格的に調理するようになったのは、外食に行くと、共存できなかったから。まわりの友人も気を遣うし。でも私はお酒が好きなので、皆でお酒を飲んで楽しめる場所を作りたいと思って、なら自分で作って呼んじゃえばいいや、っていうのがきっかけだったんですよね。どちらかというと、自分のためというより、まわりの友達のために、野菜だけでも充分楽しめるよ、ということを知って欲しかった、というのがありました。
カフェ・エイトは日本酒のラインナップも豊富ですものね。
清野:日本酒は2年前からラインナップしているんです。もともと、さきほどもお話した、斎藤さんとの出会いも、日本酒がつないでくれた縁でした。カフェ・エイトをオープンした10年前は、ヴィーガンをできるだけおしゃれに演出するために、わりと海外にばかり目が向いていて、どこの国に来たかわからないような空間やメニュー作りをあえてしていたんですが、やっぱり年が経つごとに、もっと足元をみなきゃいけない、という気持ちが強くなってきて。その頃に、日本酒を教えてくださる方と出会って。自分が日本人なのに日本酒のことをまったく知らなかったことに愕然として、そこからのめりこんでいったんです。日本酒を色々知っていくと、やはり日本のカルチャーにまで深く触れていくし、食事とも切り離せないものなので、だんだん目が日本に向いていきました。最近はもっぱら日本酒です。日本酒も世界に誇れるカルチャーだし、技術的に見ても、世界に類を見ないくらい複雑な工程を踏んでいるものなので、今、ワイン一辺倒な人も多いし、私も好きだからワインはワインで良いのですが、日本から日本酒が消えてしまったらそれこそ悲しいので、飲む人を増やさなければ、という思いもあります。蔵元さんをお呼びしてイベントをやったりもしていますね。
でも、さきほど、海外ばかり見ていた、とおっしゃっていましたが、海外と比べた時に、“ヴィーガン”という意味において、日本はまだまだ後進国ですか?
清野:そう思います。ヴィーガンだけではなくて、やはりオーガニックとか、農作物に関する考え方も、マーケットが育っていないのが現状なんですよね。自然食と言われるカテゴリーのプロダクトは、パッケージデザインや売り方がまだまだ土臭いので、現代の人たちは楽しんで取り入れようという感じにならないですよね。どうしても、病気をされた方とか、シリアスにそういうものを受け入れなくてはいけない環境になって初めて取り入れる人も多い。オーガニックなものを、単純に商品として、美味しいとか、かわいいとか、楽しいからそれを選ぶようになってもらえるようなマーケット作りをしていかなくてはいけないと思います。そういった意味では、欧米のメーカーさんはとっても進んでいるので、上手だな、と思いますね。
あとは、価格の感覚ですよね。日本は安すぎるんですよね。食に関する価値観がまだ低くて、悪くても安い方が良いとか、手っ取り早いとか、日本人の食がどうしてそうなってしまったのか、とても悲しいのですが、やはり、良いものを、見合った価格で購入してあげないと生産者も継続できないですし。だから、マーケットを育てていくというのは、消費者側にも問題があると思います。和食の根底にある考え方は、こういう部分にも通じているので、私たちなりに伝えられたら良いな、と思いますね。
スナップエンドウの温かい酢の物/ししとうとミニトマトの焼きびたし/ルッコラ茶碗蒸し仕立て/茶巾芋のかぶら蒸し/揚げびたしトマト/かぼちゃ甘酒の栗しるこなど、全51品収録
2010年11月22日の一般発売に先駆け、カフェエイト、ピュアカフェ店頭、オンラインストアで先行発売中。 カフェエイト青葉台店、ピュアカフェ、オンラインストア、及び都内近郊の書店『ブックファーストルミネ新宿店』『リブロ渋谷店』『TSUTAYA三軒茶屋店』『ブックファースト二子玉川店』『リブロ池袋店』『青山ブックセンター本店』『青山ブックセンター六本木店』『TSUTAYA六本木店』『有隣堂書店ルミネ横浜店』『リブロ青山店』にて、新刊『VEGE BOOK4』と既刊の『VEGE BOOK1、2、3』のいずれか1冊、合計2冊の購入者に先着で、カフェエイトで使用できる日本酒一合の引換券がプレゼントされる。
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