TAICOCLUB開催直前

フェスティバルオーガナイザー、直撃インタビュー

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TAICOCLUB開催直前

いよいよ今週末に開催が迫るTAICOCLUB camp ’10。最終ラインアップとタイムテーブルが次々と発表され、参加者の気分は高まりつつある。タイムアウト東京は、まもなく現地へと出発するスタッフが集う事務局を直撃。追い込み期だけあって、猛烈に忙しい現場を想像していたものの、スタッフが皆リラックスしていたことに何よりも驚いた。これは嵐の前の静けさなのか、もしくは、これこそがTAICOCLUBの姿なのか。安澤太郎オーガナイザー(こいのぼり株式会社)と井出辰之助ディレクター(インフュージョンデザイン)に、TAICOCLUBの魅力を語ってもらった。

いよいよ開催までわずかですね。バタバタしている最中だと思って来たのですが……。

安澤:TAICOCLUBは今年で5年目、これまで春に5回、秋は今回で2回目の開催です。すっかりスタッフの連携が取れているので、なんとか大丈夫です。先発隊のほとんどのメンバーが今日、明日には現地入りして、一気に会場を作り上げます。

今回は、会場が新潟に移りましたね。

井出:事情はいろいろありますが、フェスとキャンプをセットで楽しみたいという来場者の声を取り入れました。TAICOCLUBに来るお客さんは遊び慣れている方が多く、キャンプの仕方やマナーも心得ていて、とてもスマートなんですね。会場となるニュー・グリーンピア津南は、800人収容のホテルとキャンプサイト、温泉に温水プール、ゴーカートもある高原リゾートです。屋外フェスとなると、ある程度のサバイバル感覚が付き物になりますが、そこまでストイックにならずに楽しむこともできます。リクエストを考慮する間に、いい場所に出会えたんですよ。

1年に2回も開催するフェスは珍しいと思います。背景にはどういったいきさつがあるのですか?

井出:TAICOCLUBが始まった5年前は、まだ春のフェスがなかったんですよ。なので、タイコではフェスシーズンの始めと終わりを抑えようと思ったんです。気づいたら、夏フェスが春に移行してきて、秋は秋でWireとMetamorphoseがあるしと、大変なことになっていました。

安澤:そんな中でもまだ開催したいのは、同じようなフェスが他にはないと思っているからです。自分たちが行きたいフェスを、自分たちが遊びたい環境でやりたい。

井出:でも、いつも遊べず、「これで遊べたらいいのに」と思うんですよ。

安澤:他にやってくれる人が出てこないかなと思っていますよ。僕たちも他のフェスに行って、これは自分たちにもできると思って始めたので。タイコに来て、そういう人が出てくれるといいなと思います。

TAICOCLUBは、初めから安澤さんが手掛けているんですか?

安澤:僕と、あともう2人で始めました。

井出:もともとイベントオーガナイズをやっていた僕に、誰に聞いたのか突然電話がかかってきたんですよ。「2回くらいパーティをやったことがあるんだけど、フェスをやりたい」と。聞いてみると、パーティと言っても100人規模のものでしたから、そこから一気に3000人から5000人規模のフェスをやる気でいるのかと……。タイコは本当に飛び級のようでしたね。ビッグプロモーターと絡まずに、超インディペンデントで5年間をやるのは大変なことです。最初の1、2年は「誰がやってるの?」と話題になったくらいですから。

クラブ通いでコネクションを作っていたんですか?

安澤:クラブにはよく行ってましたけど、普通に遊んでいただけです。今はイベント名になったTAICOCLUBという名前も、CLUBはクラブミュージックから、TAICOは音楽のベースである太鼓と僕たちのバックグラウンドである4つ打ちからきています。と言っても、フェスをやるのに事務局名がなかったので、とりあえずつけただけなんですけどね。最近は、みんなが“タイコ”と省略してくれるのがうれしいです。外国人も言いやすいと思いますしね。

では次に、完全にインディペンデントなフェス、TAICOCLUBの特徴を教えてください。

安澤:基本的にはクラブ系のアーティストが多く、盛り上がる時間も深夜ですが、特に固執はなく、いろいろなジャンルのアーティストを入れています。「これを観に来たんだけど、こっちを観たら良かった」というのがフェスのいいところだと思うので。インディシーンのバンドなどは演奏しに来るというより、「鎌倉へ行きたい」という緩いモチベーションで来る場合が多く、大変なんです。でも、そういった巨大なフェスでは埋もれてしまうバンドを、ぐちゃぐちゃなジャンルのラインナップの中でおもしろく見せる。ステージが2つしかありませんから、そういうこともできるんですよ。

それから、今年はThe Orbが久しぶりに屋外でパフォーマンスをするので当然目玉アクトですし、往年のファンがごそっと来ることを期待しています。ですが、僕たちは特に目玉を設けてはいません。重要視しているのは、フェスの1日をどうトータルで遊びきるかです。

井出:飽きたらゴーカート、飽きたら温水プール。ボーリングもしちゃおうかという感じですね。急にキャンプサイトが大盛り上がりし始めたり、夜10時に寝て、朝は7時起き、散策した後に9時からDJを観るという人もいます。ラインアップと共に、お客さんもバラエティに富んできました。

運営を担当している僕から見ると、とてもハンドメイドなフェスだと思います。「看板がないけど、どうしよう。そこに木があるから、作ってみる?」とか、お客をこっちに向かせたい時に「こっち!」と指示をするのではなく、自然とこっちを向いてくれるような仕掛けを作るとか……。運営コンセプトには、“ギリギリまで自由度を保持する”というのがあります。セキュリティにもラテンの日系チームを入れているんですよ。威圧感がなく、踊ったりしていますけど、自由度が増えるかなと思って。反対にきちんとしている部分はしています。タイコを始めた頃の野外音楽フェスには、おそらく運営マニュアルがなかったと思います。安澤も僕も堅めの企業イベントの制作をしていたからか、骨組みだけはしっかりと作っています。それも自由度を作ることに必要ですからね。

安澤:あれはダメ、これもダメとこちらでルールを決めるよりも、来た人が感じ取って行動してくれればいいなと思っているんです。特に掲げているメッセージもないんですよ。

安澤さんが憧れるフェスはあるんですか?

安澤:ドイツのFusionが好きですね。とにかく緩いんですよ。だけど、みんなでその場を楽しくしようという雰囲気があるフェスです。僕たちも、お客さんに助けられていますからね。

井出:みなさん、マナーがいいです。実は昨年、僕は会場でリュックをなくしたんですよ。スタッフの費用など結構な額のお金まで、すべてが入っていたものです。会場中を探しまくったんですけど見つからず、仕方なく本部に帰ったら、落とし物コーナーに届けられていました。何も抜かれず、普通に帰って来ました。

安澤:むき出しの1万円札が届けられたこともありましたね。

井出:テントに入られて物を盗まれた報告も、過去1度もありません。テントを置きっぱなしで帰った人が過去に3件あったくらいです。

客層の良さも、根強いファンが多い理由なんでしょうね。

安澤:実際、広告には1円も使ったことがありません。

井出:タイコは、本当に口コミで広まったフェスですね。特に春フェスの方は、ほぼ全チケットがオフィシャルサイトで完売してしまいます。こうすることで、大手チケット販売会社のシステム利用料を払わなくて済むだけでなく、お客さんにダイレクトに仕掛けを作ることもできます。例えば、タイコではお客さんに毎年、年賀状を送っているんです。

安澤:メーリングリストで送られても、読むのが面倒じゃないですか。だから、ハガキの方がいいかなと思ったんです。ちなみにチケット発送の作業も自分でやっています。

井出:普通はそこまでやらなくていいと思いますけど、普通の基準が違うんですよね。フェスの朝6時にオーガナイザー自らトングでゴミを拾ってますからね。

そうした手作り感の良さは、アーティストにも伝わっているように思います。例えば、一昨年と去年出演したSquarepusherは、巨匠クラスのアーティストで対応が大変だと言われてるんですよ。ですが、タイコの会場だった長野にはホテルがないもので……、なんと布団を敷く普通の民宿で出演をOKしてもらえたんです。業界の人はみんな「ええっ!」と驚いていましたけど、アーティスト本人の機嫌はタイコの時が一番よかったと聞きます。「みんなが一生懸命で楽しそうにやっているし、これなら仕方ないだろう」と思ってもらえたのではないかと。出演した後で、他のアーティストに「面白いから、行ってみなよ!」と言ってくれているのではないかとも思います。

安澤:アーティストも朝まで遊んでいくし、会場をふらふらしていますよ。ステージからお客さんの写真を撮るとアーティストが数人写っていたり、rei harakamiさんは滑り台で「わー」と楽しんでいましたよ。

運もあったのだと思うけど、もともと自分がお客さんで、単純にお客さんとして何をしたいかという目線で作っているので、こういうフェスになるのでしょう。プロモーターの多くはある程度この道でやってきていますからね。最近はフェスが乱立しているので、差別化につながっているならいいですね。

最後に、心配な天気について、一言お願いします。

井出:今の時期の現地は、雨さえ降らなければ寒いことはないようです。台風は心配ですが、タイコはこれまでに一度も雨が降ったことがないので大丈夫でしょう。ただし、会場全体が芝生で水を含みやすいので、念のため長靴は持参がいいと思いますよ。

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テキスト・撮影 道辻麻依
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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