2011年12月01日 (木) 掲載
2010年11月に、タイムアウトカフェ&ダイナーで、三宅洋平とのコラボレーションライブを披露してくれたピート・テオ。マレーシアを拠点に、映画監督、俳優、脚本家、プロデューサー、ミュージシャン、シンガーと多彩な活動を展開するアーティストだが、過激な活動家としても知られている。3つの人種が生きるマレーシアという国の、社会と政治にまつわる問題をテーマに、15個の短編作品で構成した映画『15 Malaysia』が2009年の東京国際映画祭で紹介され話題になったが、今回、新たに『Undilah』というミュージックビデオを製作、発表した。Undilahは、“Vote=投票”を意味するマレー語だが、これは現在のマレーシア政府を次の選挙で打倒しようという運動の一環で作られたものだ。
─ マレーシアの現在の情勢について教えてください。
ピート・テオ:与党連合による50年という年月の統治期間を経て、マレーシアは今まさに変わろうとしている。僕ら、新しい世代は野党の古い体制のもとにある政権の腐敗や人種差別、権力の濫用にはもう辟易している。そのせいで一般投票は、政府側と野党側で半々の結果となったんだ。国民戦線側の勝利に終わったとはいえ、議会に於いて政府が2/3以上の票を集められなかったのは史上初めての事だった。選挙後には、収入(マレーシア人の大多数は公的扶助を受けている)、教育、政府の腐敗、警察の暴力行為、経済政策よりも人種に基づいた差別撤廃措置問題を含む様々な課題に対し、多くの疑問が寄せられた。政治というものが、そもそも人種に基づいていて、差別的なものなのだから、それは必ず改正されなければいけないと思う。このマレーシアを革新的にさせるという改正案はここ4年ほど議論の焦点となっているんだ。
─ 7月には、5万人が参加したと報道されているデモがありましたね。
ピート・テオ:そう。クアラルンプールでBersihという連合組織が選挙改革を求める街頭デモを実施して、5万もの人が街を占領した。多くの逮捕者が出て、機動隊も出動したよ。政府はマスコミを使って、この警察の暴力行為を隠蔽し虚偽の報道を行ったんだけど全く逆効果だったね。ビデオや写真がネットに溢れ返っていたから。首相に対する信頼は低下し、支持率も一晩で72%から59%に落ちたんだ。2012年に予定されている次期総選挙に向けて、首相は信頼を取り戻そうと必死になっていて、以下の3点を声明で発表した。
1) 極めて厳しい治安維持法の廃止(この治安維持法とは、公判を行わずして逮捕者を無期限に投獄できる権利を警察に与えるもの)
2) 非常事態宣言(マレーシアはここ50年この状態である事になっている)
3) 更なる報道の自由を認める印刷メディアを最も制限している出版・印刷法の改正
つまりね、今のマレーシアは、1970年代以降、初めて政治・経済の根本的な大改革を行おうとしているという背景がある。次の世代のマレーシア人達(特に都市部の)は、今まで自分達がコントロールされてきた既存のメディアを避け、インターネットというツールを使って国に対する不満をぶつけ始めている。このことで以前よりも改革に対する大きなプレッシャーを政府に与えられたといっても過言ではないね。
それでも、1500万人の有権者の中で400万人が投票人登録を済ませてないんだ。それでこの400万人の内の75%が、30歳以下の有権者なんだ。
これはマレーシア国内の若者の多くがまだ投票人登録すらしていないということ。マレーシアを時代に沿って革新的な国に変えていくための大切な要素だというのに、この投票人登録が今大きな問題になっている。若者の投票数が次期選挙の行方を決める程の大きな力を持っているから、どの党もその票を狙っているよ。日本でも似たような状況なんじゃない?
─ 確かに、日本でも若者の投票率はとても低いです。ピートが作ったようなビデオが必要かもしれません。ビデオを作るきっかけは何でしたか?
ピート・テオ:さっきも言ったように、マレーシア国内の若者の声が今後の国の方向性を決める重要な鍵を握っている。だから僕はそういう人たちを人種や国に対する忠誠心なんかは関係なく、マレーシアは自分たち自身の国だという事を主張してほしいし、投票する事によってその事実を声高に唱えてほしい。そうしない事には民主主義は成立しないんだ。このビデオを作るにあたって、マレーシアの有名な政治家や俳優、ミュージシャン、スポーツ選手に協力をしてもらった。自国の政治に対しての若者の関心を高めるのに、このミュージックビデオが役に立ってくれればいいなと思っているよ。実際、反応はものすごく良い。YouTubeにアップロードした映像は、たった4日間で30万ビューもあったんだよ。(しかも4カ国語で)これからもビデオをプッシュしてくれるメディア部隊がいるからビューカウントはどんどん増えていくと思うよ。
─ 日本人の若者に何かメッセージはありますか?
ピート・テオ:投票する権利を持っている以上、日本が自分の国であると言えるんだ。ごくごく基本的なことだよね。でも個人の一票では効力をなさない。集団の票が集まらないとね。みんなが投票をするという事実が実際に日本の将来に多大な影響を与えると思う。だから日本の国民であると意識を持って投票するべきだね。自分の家族や子供、更に次の世代の人たちにも大きく関わってくる事だから。日本は素晴らしい国だし、僕も心から好きな国ではあるけれど、まだまだ多くの問題を抱えてる。日本にはみんなの力が必要なんだ。
※早ければ年内に実施されると言われていたマレーシアの次期総選挙だが、年内の実施はないことをナジブ・ラザク首相が明言している。
ピート・テオ プロフィール
マレーシアを拠点に、映画監督、俳優、脚本家、プロデューサー、ミュージシャン、シンガーと多彩な活動を展開するアーティスト。英語、広東語、北京語、マレー語など様々な言語を扱い、時に政治や社会問題をテーマにした過激な作品を世に送り出している。
ツイッター:twitter.com/#!/peteteo
ウェブ:www.undilah.com
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