2015年03月31日 (火) 掲載
東京の文化発信地のひとつとして、世界にその名を轟かせる渋谷。渋谷系にギャル文化など、様々な渋谷発カルチャーが存在するのは誰もが認めるところだが、なぜ渋谷から新たな文化が生まれるのか、その理由をあなたならどう説明するだろうか?タイムアウト東京では、古くから渋谷を見守り続ける金王八幡宮の神職であり、オーストリア出身のウィルチコ・フローリアンと、デジタルものづくりカフェFabCafeをはじめ、渋谷を拠点にテクノロジーとデザインを用いたイノベーションを画策するロフトワーク代表取締役の林千晶を招き、その理由を語ってもらった。渋谷の歴史、そして未来を象徴する両名による異色の対談から見えてくる、文化が生まれる街に必要なヒントとは、いかに。
林(以下H):金王八幡宮には、TEDの打ち上げパーティーが行われた時に初めて来たんですが、こんなビルの間にあることに驚きました。神社がグローバルな企画を支えてくれることにも。
ウィルチコ(以下W):この建物は、渋谷区で一番古い木造建築で、そんな所で現代的なイベントを開くのはギャップがあると思います。でも神社はもともと、新しいものを受け入れて来たんですよ。その良い例が仏教で、かつて海外から伝わったときには、受け入れるだけじゃなく、日本古来の神様と結びつけたくらいなんです。この神社に祀られている八幡様というのは、全国で一番強い神様として、来賓であるお釈迦様のボディガードに選ばれたんです。
H:そうだったんですか?
W:えぇ、その証拠に大きな寺がある所には必ず、そばに八幡神社があるでしょ。奈良の大仏に一番近い神社は実は春日大社ではなく、八幡様なんですよ。神社は、遺跡ではありません。今も必要とされ、使われ、生きているものです。
H:実は私、いま一番興味があるのが歴史なんですよ。なぜその土地でそれをやるのかっていうのは、土地の歴史と紐づかなければ、多くの場合すぐ消えて行ってしまうなという風に思っていて。
W:そういう意味でいうと、神社は土地そのものと言えます。大昔は、土地のひとつひとつに力があると考えられていました。その力が、神様の力だと。天災があったりするのは、神様が怒るからです。だから昔の人は、神様の大切な土地を使わせてもらうかわりに、神様を大切に扱うという契約をしました。そこで神社という神様の家を用意したんです。
H:これは私がなぜ渋谷で働くかという話にも通じるんですけど、どこにオフィスを置こうか考えていたときに、この辺に会社があったら気持ちよく仕事ができそうな気がする、というインスピレーションが、渋谷を歩いていたときにあったんです。それは、土地の神様がいるからなのかなという風に、お話を聞いて思いました。
W:このあたりはオフィスに加えて、住宅も商業施設もある。あらゆるエネルギーがありますからね。渋谷の神様は、忙しいと思いますよ。(笑)
H:土地が持っているエネルギーや言語化できないものを含めて、文化と呼ぶなら、私は、次の文化をつくっていくのは、渋谷だと思います。うちはデザインとテクノロジーでいかに新しいことができるか、ということに挑戦する会社なんですが、新しいものは、みんなが同じ方向を向いているところでは生まれないんです。
W:渋谷は大昔から文化の土台を培ってきました。渋谷の誕生の歴史は、秩父から出て来た武士が、武功をたてて渋谷という名前と土地をもらったことが始まりです。そこに、自分の守り神として八幡様を祀った。神社脇の通りは、かつて幕府があった鎌倉に繋がっていて、交通の中心となっていました。あと今は隠れている川があって。明治時代までここは郊外の田舎街でしたが、人が集まる基礎が、神社と、通りと、川にあったんです。
H:実は、レーザーカットとか、新しいものづくりができるカフェが一番集積しているのも渋谷なんです。それは、もともと川沿いに工場があって、ものづくりが行われていた街だったからと、文化人類学者の人に言われて。歴史を紐解くと、なぜみんなが渋谷でものをつくりたくなるのかということが分かるんです。
W:歴史はないがしろにしてはいけないですね。歴史を知ると、なぜここに自分がいるのか、何をしてはいけないかが分かるようになります。
H:文化を一番強く残す街、過去から文化を生きたまま繋げていく場所と考えると、東京では渋谷だと思います。経済や政治を基礎に効率化した街は、歴史を考える必要はないですよね。一方、演劇家とか音楽家とか、何かをつくる人が世界への発進力を持つとなると、自国の歴史を読み解くことが必要になります。新しいものって、どんどん歴史をさかのぼることで生まれるような気がして。
W:これからも渋谷は、ルーツを忘れない街であってほしいです。どんどん時代の変化が速くなっていますが、行く先を見失った場合、帰れる場所がある、というのは大事ですから。
H:いま、3Dプリンターを使って、神社に使われている組み木の技術を教えようとしているんです。釘を使わず、木を組み合わせて建物を造る宮大工に伝わる伝統技術ですが、古くなったパーツだけ入れ変えられるという知恵が潜んでいます。宮大工になる若い人が減っているなかで、改めて日本が持っている組み木の技術を使ってもらえるよう、技術をデータ化して仕組みを理解してもらったり、なぜそれが生まれたのかを理解してもらう試みです。
W:文化を知る一番の方法は、実際に触れてみることです。たとえば日本のルーツである神社に足を踏み入れるきっかけとして、ファッションウィークなどのイベントがあるのは良いことですよね。
H:日本にはその場でしか体験できないものや、やることでしか味わえないものがたくさんありますから。パッケージ化してどこにでも輸出できるようなものじゃないからこそ、日本に行ってみたいという外国人が多いのかもしれません。
W:おっしゃる通りだと思います。空気を肌で感じないと体験できないものや、国際化できないものを残しておくことが、観光にもつながると思います。
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