2010年01月26日 (火) 掲載
フランス大使館の新庁舎オープンに伴い、『ノーマンズランド』が展開中の旧フランス大使館にて、『アートセンター・オンゴーイング』がプロデュースする展覧会『5th Dimension』が開催されている。アートセンター・オンゴーイングは、ギャラリースペースと、カフェ&バー、そして広範なアーティスト情報を提供するライブラリーブースを併設する芸術複合施設だ。代表をつとめる小川希に、今回の展覧会、そしてアートに対するビジョンについて詳しく話を聞いた。
TOT: 時期同じくして旧フランス大使館で展覧会を開催している『団・DANS』の展示とは変わって、とても力強い作品が多いですが、小川さんのキュレーションの仕方、作家の方々のチョイスはどのように行っているんですか?
小川:『団・DANS』はきれいですよね!(笑)こちらは、売れないアーティストが集まってきているだけです。(笑)売れないというのは、日本の経済のシステムにのっていないということなんですが、売れなくても、面白い人はたくさんいて、アートセンター・オンゴーイングにそういう面白い人たちがたくさん集まって来ます。今回の展示会では、その中でもエッジの効いている人を集めました。
TOT: 今回の展示ではインスタレーションものも多く、この場所で作品が成り立っているものが多いですね。
小川:そうですね。美術って、買えて家に持って帰れてという種類のものもありますが、“売れる”ということ以上に自分たちの作品のコンセプトを純粋に突き詰めて行くタイプの作家たちもたくさんいます。どこかで見たことがあるものや、既視感があるものではなく、オリジナルな作品が僕は好きなので、そういう作家たちを紹介したいと思っています。
TOT:紹介したいというモチベーションはどこからくるのですか?
小川:もともとは僕自身も美大を出て、ずっとものを作ってきた。作家として展覧会を企画したり、自分も一作家として参加してきた。でも、作家というのは、自分の世界観を作るのは超一流なのに、コミュニケーション下手で、自分と社会の接点を持つことにあまり興味がない人が多い。やっぱりみんな社会的に弱い。だから、ものすごく面白いことをやっていても、結局お金にならないことが多い。能力的には映像編集とか、絵を描くとか、ものすごい造形力もあって、その分野で専門の仕事を探そうと思えばいくらでも探せるのに、誰でもできるようなバイトをやっていたりする。でも、作品がお金にならないからといって、良いアーティストではないというように僕は思わない。消費経済の中の歯車にならなくても、面白い人たちを僕はたくさん知っています。だから、そういう人たちが、社会の中で自分の立ち位置を見つけられるように誰かが動かないといけないなと思って。僕のまわりにいる面白い人たちが、世の中で自分の足で立って、誰にもバカにされずに、むしろ自分の能力で生きていける状況を作りたいと思っています。
TOT:アートの未来はどうなって欲しいと思っていますか?
小川:僕は、アートは人を幸せにするとか、皆がそれで生きる糧を見つけるとか、そういうものだとは決して思っていない。むしろ、今自分が思っていることを壊される、自分の既成概念とか世界観を壊すものだと思っている。だから、「これ良いね」「私、これが好き」と言って買い求めるアートもあるけれど、それだけではなくて、圧倒されて、何か自分の考え方や人生が変わっていくものがアートだと思っている。今回、『ノーマンズランド』にアートセンター・オンゴーイングが呼ばれたということは、そういうことが少なからず求められるようにはなってきているんじゃないかなと思う。今は全然弱小ですが、こういう場がもっとどんどん増えていって、自分の考えているものだけが世界じゃないんだなって提示できる機会が、もっと増えていくように努力したいと思っています。
TOT:アートセンター・オンゴーイングのカフェ&バーについても教えてください。
小川:吉祥寺にあるんですが、いつでもアートと向き合える場が作りたかった。作家たちが問題意識を共有できる場所。そして、その考えを社会に提示して、社会と対等に向き合える基地のようなものです。作家たちからはお金を取っていないので、カフェの運営だけで資金繰りをしています。とにかく、自分たちで面白いことをやり続けて、それでどこまでいけるか。何の権力に動かされるわけでもなく、「これが面白いものなんですよ」ということで、どこまで戦えるかに挑戦しています。
TOT:パンクですね!
小川:そうです、超パンクです。(笑)でも、別に思想とか、こうじゃないといけないという決め事があまりないから、皆が集まって来るんだと思います。僕、相当ゆるくて適当だし、人のことも否定しないし、ただ淡々と自分のやるべきことをやっている。今、アートでどう戦えるのかを常に考えながら、だからOngoing、現在進行形なんですが、正直に、かっこつけずに、やっていきたい。だけど、明日になったら違うことを言っていても僕は良いと思っているんですよ。色んな人に会って、色んな話を聞いて、頑固にならずに、これからもやりたいようにやって行きたいです。
TOT:最後に、カフェのおすすめメニューはありますか?
小川:ハンバーガーがおすすめです。1日6個限定なんですが、僕が毎朝起きて、家のオーブンでパンから焼いています。美味しいですよ!ぜひ遊びに来てください。
1957年にジョゼフ・ベルモンが設計したフランス大使館旧庁舎はこのあと取り壊され、集合住宅が新築される。『ノーマンズランド』は、一般の人がこの歴史的な建築物を目にできる最初で最後のチャンスとなっている。ぜひ足を運んで欲しい。
会場:フランス大使館旧庁舎
住所:東京都港区南麻布4-11-44
会期:2010年1月21日(木)から2010年1月31日(日)
時間:木曜、日曜 10時00分から18時00分まで
金曜、土曜 10時00分から22時00分まで
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