2010年01月22日 (金) 掲載
フランス大使館の新庁舎オープンに伴い、旧庁舎で日仏のアーティスト70人が参加するアートイベント『ノーマンズランド』が開催されている。2010年1月21日(木)からは、あらゆるジャンルの若手アーティストたちが集まるプロジェクト『団・DANS』の第6回展覧会『団・DANS at No Man’s Land』が行われている。期間中、この場所は、フランスから日本に返還される直前の誰の所有でもない土地、領土の所有権も定かではない地帯で、作家たちは、それをテーマにした作品を制作した。今回の展覧会には、36組のアーティストが参加しているが、参加作家のひとりである野口一将に話を聞くと、テーマが自体がとても難しかったと言う。野口に館内を案内してもらい、おすすめの展示を紹介してもらいながら、作家たちが今回のテーマをどうとらえたのか、話を聞いた。
野口:部屋の中が怪しい偽札工場みたいになってるんですけど、ずっとお札がテーマですよね。
太湯:そうですね。最近ちょっと動物を書いてみたりして、手を変え品を変えしているんですが、、、お金って、人の決めた価値じゃないですか。インクジェットってすごく簡単な機械で、クリックひとつで印刷ができる。簡単なんだけど、価値のあるものを印刷しているってことで、物の価値を考えてもらえたら良いなって、っていう。で、この部屋の中で印刷しているものは、持って帰ってもらって結構です。
野口:ものすごい緻密に太湯さんの顔が描かれていて、面白いですよね。
太湯:持って帰って、釘とかささないでもらえたら嬉しいです。
TOT:お札からさらに動物がテーマに加わったきっかけは何かあったんですか?
太湯:使っているツールがデジタルなので、デジタルなものと、自然的なものを対比させてみたいと思った。安直なんだけど、動物の写真をネットで探して、パソコン上に線で書いて、プリントアウトするという、パソコンの中で完結している作品なんです。一度も動物を見ることはないですけど、デスクトップパブリッシング、DTPっていうのがあって、それをもじってデスクトップアニメ、DTAって言ってます。
野口:彼の作品はピカイチです! もう、本当にキワキワの、気づく人は気づくというような、ちょっと政治的なことをテーマにした作品です。
前田:詳しいことは言われへんのやけど(笑)、この部屋は、僕にとって3割でしかないんですけど、ぜひ見に来てください。
野口:藤井さんの作品はポエティックで面白いです。
藤井:全部セラミックでできていて、大使館の方々が引っ越していった時に、残していったような、その人たちの思い出とか、人の気配とか、私がこの場所から感じた記憶のかけらを、形にしました。今回は大使館に来て感じたものを作っているので、また場所が変われば、違う形が生まれてくる。今回の物をひとつひとつ見て行くと、写真立てがあったり、お掃除して出てきたボールペンのキャップがゴミ箱に入っていたり、クローゼットの中には、ハンガーや、ボタンもあって、それから古ぼけたブランケットも、全部焼き物なんです。
野口:このブランケットすごいでしょう。けっこうゆるい感じと、緊張している感じが同時に出ていてすごく面白いと思います。
藤井:私の休憩場所だと思われる方がたくさんいらっしゃるんですけど、ブランケットも作品なんですよ。
松元:ワニがそもそも動物としてすごく好きなんです。強さだとか、ゴージャスな感じとか。自分が表現したいぎらぎらしたゴージャスな世界が、ワニの持っているイメージとがうまくかみ合ったので、ワニをモチーフに、鞄だとかブーツを作っています。日常自分たちが身につけているものを、粘度っていう使えない素材に置き換えることで、ギャップだとか面白さが出たら良いな、と思っています。ワニ皮という高級品を、無価値な粘度で作る、っていう面白さとか、そこで世界観が出たら良いと思う。
翁:今回ノーマンズランドっていう大枠のワーマがあって、僕たちは、そのもの自体が誰にも支配されないし、誰にも属さないノーマンズランドという架空の国家と国旗を作った。迷路のように、スタートとゴールがあって、ゴールをノーマンズランドに設定していてるんですが、誰でも行こうと思えば行けるし、行かなくても良い。その迷路をやってもらって、楽しんでもらえれば嬉しいです。
野口:部屋ごとに作家が違うから、その部屋によってそれぞれすごい空気感が違っていて、部屋と部屋を行き来したりすると、ギャップが激しくて面白い。最初は、気持ちの切り替えができなくて、それがすごい嫌だったんだけど、逆にそれが新鮮というか。サッカーを観た後に、急にゲートボールを観るみたいな雰囲気なんだけど、こういう時でしかできないことだと思う。
TOT:同世代のアーティストが集まっているおもしろさはありますか?
野口:やっぱり共通の感覚がある。例えば、観てきた漫画だったり、流行ったスポーツだったり、文化的な背景とか、遊びの背景が一緒だったりして、よくよく話を聞いてみると元ネタとかがつながっていたりする。でも最終的な表現として変化がある面白い。切り口もいろいろあるし、その人にしかできない表現ができていれば、必ずしも新しくなくても良くて、新鮮に感じれば良い、新鮮なものはうまいっていうのを今回感じた。あと、作家としゃべれるのもすごく面白いですね。
TOT:話しかけられるのはウェルカムですか?
野口:そうですね。やっぱり作家から話を聞くとわかったりすることもあるし、そうなの!?って意外に思うこともあるし。例えば、サッカーを観ている時に、解説者がいるのといないのと、いる方がより深く理解できたりするように、話を聞いた方が、どういう背景から出てきたのかとか、今までの作品とのつながりとか、この場所に対する考え方とかもわかるので、面白いと思います。
フランス大使館がすごいと思ったのは、『ノーマンズランド』っていう今しかない状況、この国境が曖昧な状態をテーマにしていること。こういうグループ展は、いい加減になりがちで、なんとなく集まってなんとくやることが多いけれど、今回は大使館からしっかりしたテーマがばちっと出てきて、彼らなりのイエス、ノーもけっこうあり、駄目だしされる人もいたりして、とても評判が良い。延長して欲しい、という声もあるんですよ。
TOT:最後に、団・DANSのオーガナイザーである麻生和子さんからもひとことお願いします。
麻生:若い人たちは本当に楽しいですよ、本当に。とんでもないいたずらをする人もいますけどね!(笑)
1957年にジョゼフ・ベルモンが設計したフランス大使館旧庁舎はこのあと取り壊され、集合住宅が新築される。『ノーマンズランド』は、一般の人がこの歴史的な建築物を目にできる最初で最後のチャンスとなっている。ぜひ足を運んで欲しい。
会場:フランス大使館旧庁舎
住所:東京都港区南麻布4-11-44
会期:2010年1月21日(木)から2010年1月31日(日)
時間:木曜、日曜 10時00分から18時00分まで
金曜、土曜 10時00分から22時00分まで
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