ピンク・マルティーニ インタビュー後編

バンドリーダーが語る、多様性をもたらした家族環境とは

ピンク・マルティーニ インタビュー後編

2013年3月末に渋谷のシアターオーブで開催されたJAZZ WEEK TOKYO 2013において、2晩にわたるステージを好評のうちに終えたピンク・マルティーニ。バンドリーダー、トーマス・ローダーデールとのインタビュー前編では、主に音楽について語ってもらった。後編では、自身がゲイとしてパブリックにカミングアウトしており、ゲイ・アクトのみならず、さまざまな市民運動や政治運動に積極的に関わっていることでも知られるトーマスならではの、“ダイバーシティ(多様性)”について話してもらった。

ーアメリカ国内では、トーマス個人、そしてピンク・マルティーニとして、政治、ポートランドの街づくり、ゲイ・アクトなどさまざまな社会運動を積極的に行ってますよね。その原動力はどこから来ているんでしょう?

僕自身が育った環境に因るところはあるでしょうね。僕は4人兄妹の長男なんですが、アジア系で、下の弟はイランとアフリカン・アメリカン、そして妹はアフリカン・アメリカンという、それぞれ出自が違う養子なんです。自分にとっていちばん身近な、家族という小さな世界が最初から多文化的で、多様性に溢れていたということは大きいですね。どんな事や、どんな人も受け入れようとする意識とか、グローバルな考え方をするようになったのは、両親が(政治的に)進歩的な考え方をする人たちだったことが大きいと思います。

ーアメリカ国内では同性婚への注目度が高まっていると思うのですが、その辺りについて思うところなどありますか?

僕は、同性婚はいいことだと思ってます。とは言え、一番関心をもってる話題というわけではないんですね。僕がいちばん関心を持って取り組んでいるのは、まず教育と医療問題。次に、環境問題と人権問題。最近は、こうした問題に対して政治的に関わっていこうとしています。その中でも特に、芸術や音楽にまつわる教育がないがしろにされていることに憤りを感じているんです。アメリカでは、人々は税金を払いたくないばっかりに(予算が縮小されて)教育システムそのものが崩壊していってる。アメリカの文化から芸術全体に関する意識が薄れていってるんです。音楽については特にその弊害が顕著ですね。いわゆるアメリカンアイドル的な薄っぺらいもの、深みに欠けるものが氾濫する一方です。今のアメリカには考えていかなきゃいけない問題が本当に山積みなんです。

ー先ほど進歩的なご両親から物の考え方を培ったと伺いましたが、他にも影響を受けたことなどありますか?

そうですね、両親のレコードのコレクションは僕の現在の音楽活動にすごく影響してると思います。レイ・チャールズからロジャー・ミラーまでね。1960年代とか、それ以前のオールドファッションなポップが中心かな。あとは、小さい頃に教会で聞いた聖歌とか。あ、僕の父は牧師なんですが、実はゲイの牧師なんです。両親は離婚しているんですが、母が再婚した時には僕の父が結婚式を執り行ったんですよ! 今なんて、3人で同じ老人ホームに入ってるし(笑)。

ーお父さんは牧師でゲイ? それはなかなかユニークな(笑)。先ほど多文化的な家庭だったとおっしゃいましたが、確かにそれは猛烈に多文化ですね。

人をありのままで受け入れるというか、父と母のそういう在り方というのは、いわゆる「Think globally, Act locally」(グローバルに考え、地に足のついた行動をする)的な考え方にもつながっているというか、僕自身の世界観のベースになってると思いますね。

ーなるほど。そうした多様性が当たり前であるという考え方は、ピンク・マルティーニのバンドとしてのあり方にも影響しているように見受けられます。

その通りです! メンバー構成に限らず、音楽のレパートリーもね。僕はバンドって、ミュージシャンというよりアンバサダー(大使)だと思ってるんです。音楽に国境はないって言うと陳腐ですが、僕たちはアメリカのバンドとして、ツアーで世界中を回る時に、訪れる国の言葉でパフォーマンスするということを大切にしています。それは、世界の人々に必ずしも全てのアメリカ人がバカじゃないんだって知ってほしいのと(笑)、視野が狭くなりがちな現代のアメリカ人に、世界にはさまざまな言語や文化が広く存在していることを知ってもらう、この2つを意識してるからなんです。異なる文化と文化をつなげるアンバサダー(大使)っていう役が、僕らのバンドにはしっくり来るというかね。政治的なアプローチよりも、音楽を通して理解し合うことのほうがスムーズだということは往々にしてありますから。

ー最後に、東京では今週末からレインボーウィークが始まるんですが、東京のゲイ・シーンにまつわる印象などあれば教えてください。

それはなんといっても、新宿2丁目の素晴らしさに尽きます(笑)。初めて遊びに行った時の衝撃は忘れられないですよ! 街全体に溢れる親密さは、世界のどんなゲイ・フレンドリーな街にもないです。しかも、わずか4ブロックくらいの街区に200軒以上の店が集まってるなんてもう、最高ですね(笑)。僕は、スナックでいろんなお客さんとカラオケで歌うのが好きなんですけど、年齢もセクシュアリティもさまざまな人たちが、その店で初めて会ったにも関わらず、一つの歌をいっしょに熱唱してるっていうのがすごい。なんかジーンときます。こういう店で、他のお客さんが歌ってる昔の歌謡曲に出会えるのって素晴らしい体験ですよ。イマドキの曲じゃなくてね。僕にとって、2丁目でいろんな店や人に出会えることは、まるで夜の学校に行ってるみたいだったりします(笑)。Nichomeは、世界のどこにもない街!

山田友理子
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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