‘Complaints Choir of Chicago’ 2007 Photo: Clare Britt
2010年01月13日 (水) 掲載
「その仕事はわたしがやったの!自分の手柄にしないで!」
それが現在、森美術館で開催されている、テレルヴォ・カルレイネンとオリヴァー・コフタ=カルレイネンが手掛けた「不平の合唱団」の中で一番最初に吐き出される“不平”である。
数年に渡り、世界中の様々な都市で展開され、映像化されてきたMAM Project 10が、アーティストの協力のもと、今回初めて東京で「不平の合唱団」を手掛けた。音楽と共に歌われる不平はコミカルなだけではなく、各都市ごとの人生に対する痛烈な感情表現もあり、国を越えて“人”というユニバーサルな共通点を垣間みることができる。
東京から戻って来たばかりの2人のアーティストに、ビジョンや見識、現在取りかかっているプロジェクトについてインタビューをした。
TOT 東京に来るのは今回が初めてでしたか?もしそうなら印象はどうでした?もし初めてではないなら、初めて来たのはいつですか?そしてその時から何か変化はありましたか?また東京の好きなところ、嫌いなところは?
TK&OKK 今回が初めてでした。日本に来る前に、今回の合唱団のプロジェクトの為の600もの不平が書かれたExelファイルを受け取ってました。それを全部読んだ後、まるで私たちは20年も東京に住んでいたかのような気持ちになりました。東京のツアーガイド本を読んだのとは違い、人々の思いにダイレクトに触れられたからです。 日本に関する印象は、最初に受けた印象のひとつがすごく強いです。私たちの家の近くで、2x2メートルぐらいのすごい狭い道の道路工事現場がありました。2人の工事現場作業員が穴を掘っていて、かっこいいピカピカ点滅してるベルトを締め、オレンジ色の棒と白い手袋をして、ユニフォームを着た6人の作業員が立っていました。私たちがその工事現場を通り過ぎる時に、その棒を持った6人の作業員みんなが道を案内してくれて、何度もお辞儀をしてくれました。本当に素晴らしかった。後で思ったのはこのシチュエーションこそ、日本文化につながる鍵なんだなと。丁寧さとコントロールの必要性、そしてたくさんの点滅するライト。
TOT 不平の合唱団のコンセプトはユニバーサルな社会状況を浮き彫りにしていると思います。様々なステージや地域でのプロジェクトを通して、繰り返し定義されるテーマのようなものに気づきましたか?
TK&OKK 驚くことに人々はほとんどが自分自身に対して不平不満を持っているみたいです(私は太っているとか、怠けているとか、年寄りだとか)。あととても多かったのは他人、特に隣人に対する不平です(隣人が変な動物の声を出すなど)。すべての都市において -東京以外- 人々はやりすぎな広告について不平を言ってました。大きすぎるビルボードとか、長過ぎるテレビCM、メールボックスに送られてくる「ペニスを大きくする」なんていう広告。そして目立ったのは全ての都市でグローバルな問題に対する不平があったこと。社会的不公平、貧困、利己的な搾取、人権、暴力など、その他も様々で、数々のパーソナルな不平不満でした。
TOT これまでのプロジェクトにおいて、より目立ってて印象に残った何か特定な“不平”とかありますか?
TK&OKK 私たちはたくさんの不平を聞きすぎたから全てを覚えているのは難しいのですが、パッと思い出すのは下記の不平です。
制服でラーメン食べてたら逮捕された(シンガポール)
隣人がわたしのベッドルームの上の階でハンガリーフォークダンスを教えてる(ブダペスト)
わたしの夢はつまらない(ヘルシンキ)
おねがいだから家の中でクサヤを焼かないで(東京)
永遠なる炎ではたばこの火はつけられない(ピッツバーグ)
TOT ユーモアはこの合唱団の成功において極めて重要ですね。ユーモアはこのプロジェクトではどういう位置を占めていると思いますか?
TK&OK バーミンガムで最初の不平の合唱団をで結成したときは、プロジェクトがどんな風になるか全然分かりませんでした。ものすごく気の滅入る様なものになるのか?プロの精神科医の手助けは必要なのか?しかし合唱団の最初の打合せで、プロジェクトは楽しいものになると確信しました。みんなずっと笑っていて、リハーサルを心から楽しんでいたから。人は歌うのが好きで不平を言うのも好き。ユーモアは必ずしも関係性があるとは言えないこの2つの事柄のコンビネーションから生み出されると思います。しかし重要なのは“不平を言う”と“歌う”という2つを一緒にやること。だから楽しいんです。
TOT 不平不満の思いや気持ちを音楽という形に変えることがユーモアの一部そして合唱団の醍醐味だと思いますか?それともきちんとしたフォームに落とし込み、音楽もリハーサルをちゃんとして作り上げることの方が、人々の不平不満をより浮き彫りに出来、真実や妥当性が増すと思いますか?
TK&OKK 私たちが感じたのは、不平がより具体的で細かい方が、そうではない不平よりも面白いということです。例えば「電車が臭い」というより「3番線の電車はおしっこのような臭いがする」と言った方が面白い。また私たちが発見した他のエフェクトは、人々は個人的な不平をたくさんの人が大合唱しているのを見るのが可笑しいみたい。例えば「セックスのこと以外考えられない」とか。 コーラスの団員にとっては、まさに自分たちの個人的な不平を、たくさんのメンバーで一緒に歌っているわけですが、それはとても強い影響力を持ち、不満を和らげ、共感し合い、力づけてくれます。シカゴでの参加者だったひとりの女性は、仕事を失ったばかりでした。60人もの人々が「上司はわたしの仕事を外注に頼み自分の仕事だけ守った!」と歌った経験は、彼女にとってとても衝撃的な出来事でした。もう自分の問題に関して彼女は孤独を感じなくなった。
TOT 今回、あなたが参加した合唱団を東京で手がけたのは初めてでしたね。東京の合唱団のプロジェクトが進むにつれ、東京出身じゃないあなたの視点から、何かこの街ならではの人々の不平などに気づきましたか?
TK&OKK 人々はほとんどの時間を仕事に費やしていました。職場が決して落ち着く場所じゃないと感じているのに(上司と飲みに行ったときに上司の面倒を見るのが嫌だ。上司がわたしの白髪を見つけて指摘してきた。職場は年寄りばかりだ)、人々は“ノー”と言うのが難しいようです(休日出勤が嫌だと言えない)。上下関係が厳しい(若い日本人のバックパッカーの数が減っている。若者のエネルギーがなくなっている)35歳より上の独身女性は、ステキな彼を見つけにくい。年金の記録が消えた。大江戸線のエスカレーターが長過ぎる。
TOT 東京合唱団独特の他の国と違うところとか面白いところがありましたか?リハーサルの雰囲気やパフォーマンスはどうでしたか?
TK&OKK 東京の不平の歌は音楽的にはもっともチャレンジングでした。だからリハーサルは結構大変でした。合唱団のメンバーがとても一生懸命練習していてとても素晴らしかった。リハーサルの雰囲気は和気あいあいと楽しかったです。そして共感してくれたミュージシャンと指揮者(Shunsuke OkuchiとTomoko Kanda)にとても感謝しています。みんな心からこのプロジェクトを楽しんでいたとわたしは信じています。確かに言葉の壁があったので実際グループ内で何があったかははっきり分かりませんでしたが。
TOT いろいろな都市での合唱団に対する観客の意見はどうでしたか?シンガポールの合唱団に関するあなたの意見と観客の前で演じる難しさは?そしてそれが何かプロジェクトに特別な意味を与えましたか?
TK&OKK 難しい質問ですね。だって観客と言ってもものすごい数だし、見る方もそれぞれ違った環境だから。ライブで見る人、森美術館の展覧会で見る人、そしてインターネットで探して見る人。それぞれの曲はたくさんの不平で出来ているから、その都市に住んでいる観客はきっと何かしら共感できる不平があると思います。そして違う都市の観客は多くの場合、自分たちの街の人々の方がもっと強く不平不満を言っててプロフェッショナルだと感じるようです。だから「私たちの街にも不平の合唱団が必要だ!」と言います。強い不平不満がある自分たちの街をほとんど誇りに思っているようです。これがこのプロジェクトが世界中に広がったひとつの理由です。
フィンランドでは歌がとっても人気が出て、合唱団は何度も様々な機会にライブで歌わなきゃいけなくなりました。例えばワークヘルスの閣僚会議でのスペシャルゲストとしての出演とか。ヘルシンキの合唱団はフィンランドの“Joy of the Year”という一年に一度のプライズの候補になったり。インターネットでヘルシンキ不平の合唱団がお気に入りになっていたり。その点、論争を巻き起こした合唱団は確実にシンガポールの不平の合唱団です。シンガポール議会で最終的にその件について議論しました。 それはアンソロジー‘シンガポールの100Forbidden Art Works'の一部になりました。現在、それはシンガポールでパブリック・アートと芸術的表現の自由で改革を要求する人々のための一つのモデル・ケースです。
TOT あなたたちはフィンランドで“I Love My Job”プロジェクトを手がけていますね。このプロジェクトも他の都市でやると思いますか?東京の合唱団は仕事に対してものすごくたくさん不満があります。”I love My Job”のようなプロジェクトを東京でやる場合どうなると思いますか?
TK&OKK 東京で私たちが不平を通して聞いた仕事の量と重要さを考えれば、職場での未解決の問題やその問題から発生する(報復)ファンタジーについて取り組んでいる”I Love My Job” プロジェクトへの参加者を見つけるとこは難しくないでしょう。東京で出来ればとても面白いものになるでしょうね。ただ正直、東京でやるのは少し恐いです。きっと極端に強烈なファンタジーが出てきそうだから。
TOT 社会において仕事と不平はユニバーサルな問題です。夢はどうですか? “Dreamland”プロジェクトではフィンランドの大統領と一緒に夢について取り組んでいますが、それにもユニバーサルなテーマがあるのですか?
TK&OKK このプロジェクトはフィンランドの大統領と個人的にやっているものではありません。それより私たちの目的は人々の潜在意識と最高権威、州のリーダーとの関係性を見せることにあります。わたしたちはリーダーが必要なのか?彼らから何を求めるか?夢はその関係に面白いアクセスを与えると信じてます。しかしこのプロジェクトを通して、夢についていかに私たちが何も理解していないかが分かりました。 面白かったのは東京の合唱団のメンバーに、日本の総理大臣や天皇の夢を見たことがあるか?と聞いたらみんな笑ってそんなのあり得ないと言った。そして絶対どっちの夢も見ないと断言しました。
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