アリストクラトで究極の“音”体験

至極のハイエンドオーディオサロンで名盤を楽しむ

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アリストクラトは、ブティックや輸入車のディーラーが軒を連ねる都内屈指の高級ショッピングエリアである南青山の一角、根津美術館からもほど近い閑静なエリアにある。グラモフォンやデッカの蓄音機といったヴィンテージから最新の超ハイエンドまで、「外車なんか買うならオーディオを買ったほうがずっと良いと思っていた」と語るオーナーが厳選したモデルが並ぶ店内は、さながら会員制のサロンのような雰囲気でもある。

個性的なモデルが多く並ぶ店内にあっても、3ウェイのホーンスピーカーとウーファー6発がセットになった独アヴァンギャルド・アコースティックのTRIO+Basshornと、高さ2メートルを超える英KEFのMUONという2つのスピーカーがひときわ異彩を放っているのだが、それぞれアンプやプレーヤー、ケーブルまで含めると9000万円近いシステムだと聞かされ、いっぱしに気の利いたコメントをしてやろうと意気込んではみたものの、「すごい……」という安易で最低な一言が口から漏れてしまったのは、遂にSACD化された『タンゴ・ゼロ・アワー』の爆発寸前の緊張度合いがMUONからすさまじいスピードで投射されたきた瞬間であったが、両システムともに解像度が非常に高く、顕微鏡で絵を見ているようでもある。時間の都合で断念したが、次はTRIO+Basshornでオーケストラを聴いてみたい。

ビル・エヴァンスの『ワルツ・フォー・デビイ』はヴィレッジ・ヴァンガードの店内がそのまま眼前に現れたようで、観客のざわめきやグラスの擦れる音などが臨場感たっぷりに再現されるのだが、自分がその場にいるというより、室内にもうひとつ別の空間が出現したような異次元の世界だ。

なお、アリストクラトはハードだけではなく、ソフト、とりわけアナログレコードのコレクションも非常に充実しており、貴重盤も多いそうだ。広沢虎造による浪曲が収録されたLPを聴いたが、三味線や合いの手にまとわりつく濃密な空気が室内に充満し、こちらもまた別世界の音。グラモフォンの蓄音機で聴いたジュリー・ロンドンのSP盤は圧倒的な生々しさ。同席した中年男性数人が見苦しくも鼻息を荒くしてこの日一番の盛り上がりをみせていたが、確かに人生が狂ってしまいそうな音である。

訪れる場合は事前の予約が望ましいとのこと。階下には100人程度を収容できるコンサートホールも竣工中で、小編成のクラシックを中心にコンサートの企画も行っていく予定だ。コンサートホールとオーディオの聴き比べができるのである。こんな店はほかにどこにもない。

アリストクラト
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テキスト 小林栄一
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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