ディン・Q・レ展：明日への記憶

国際的に活躍するベトナム人アーティスト、ディン・Q・レのアジア初個展が開催されている。会場の森美術館にとっても、初めての東南アジア出身アーティストの大規模個展だ。カンボジアとの国境付近のハーティエンに生まれ、10歳の時、ポル・ポト派の侵攻を逃れるため、家族とともに渡米したディン・Q・レは、ベトナム戦争を扱った作品を多く発表している。同展では、レの名を一躍有名なものとした「フォト・ウィービング」シリーズをはじめ、米軍が枯れ葉剤を散布したことにより生まれた結合双生児をモチーフにした玩具、「Come back to Saigon!（おかえりなさい、サイゴンへ！）」と記された観光キャンペーンのパロディポスターなど印象深い作品が展示される。ベトナム戦争の「再演」に興じる日本人男性への取材に基づく新作映像の中で、日本人にも親しみ深いベトナム反戦歌『美しい昔』が歌われるシーンには、えも言われぬ感情を引き起こされるだろう。同館にて同時開催の、『MAMコレクション002』では韓国とミャンマーの気鋭の作家が、『MAMリサーチ002』ではフィリピンの芸術史に多大な影響を与えたロベルト・チャベットが特集されている。アジアの現代アートに触れる好機だ。ゴードン・マッタ＝クラークの記録映像が観られる『MAMスクリーン002』とあわせて楽しみたい。