2011年04月20日 (水) 掲載
劇中、最後のナンバー『ファイナリー』が終わっても、観客総立ちの鳴り止まない拍手…かつて、こんなに笑って涙したミュージカルはなかった。世代が違う3人のドラァグクィーン(DQ)が、ショーをやるためにプリシラ号と命名されたバスでシドニーから砂漠のド真ん中、アリススプリングスへと向かうロードムービー…映画『プリシラ』から約16年も経ったと思えないほど新鮮だ。舞台がミュージカルとなっても色褪せないこの感激は、映画の世界観をミュージカル化することで、さらなるファンタジーへと昇華させることに成功したからだ。シドニーからスタートしたミュージカルは、オーストラリア国内を巡演した後、ニュージーランド、ロンドン(現在もロングラン上演中)、トロント、そしてミュージカルの聖地、ニューヨーク・ブロードウェイへと上り詰めた。その成功の裏には、様々な問題と工夫があったようだ。そのことについて年長のDQ、バーナデットを演じている俳優のトニー・シェルドンに聞いた。
彼は、オーストラリア・ブリスベン生まれ、ミュージカル版『プリシラ』のオリジナルキャストの一人で、2010年には、英国の演劇・オペラ界で最も権威があるとされているローレンス・オリヴィエ賞のミュージカル男優部門にノミネートされ、オーストラリアでは、シドニー・シアター・アワードやヘルプマンアワードでの受賞歴がある。
「ミュージカルへ発展させるのに時間がかかりました。ステージ上にバスを登場させることをはじめ、解決しなければならない問題が数多くありました。映画では全てリップシンクロで行われていた場面も、ミュージカル版では、実際に歌っている女性コーラスに合わせて歌うのと男性の地声のみで歌うパートを違和感なく演じることに苦労しました。スタートした2006年以来、我々は、すべての問題を解決するため、努力を続けました」。映画では、一番若いDQフェリシアが崇拝するアバの曲をフィーチャーしていた場面、ブロードウェイ版では、マドンナの曲へと変更した。「アダム(フェリシア)のキャラクターはポップカルチャーに取りつかれているんです。映画の中で、彼はアバの音楽を愛していましたよね。でも、オーストラリアとロンドン版ミュージカル『プリシラ』では彼はカイリー・ミノーグの曲を歌っています。アメリカではカイリーじゃなくマドンナを崇拝しているんですよ」。
ステージに登場する主役の一つでもあるバス、プリシラ号の車体は全体がLEDで豪華に輝いていた。「最初、シドニーでショーが始まった時、バスに関しては問題が沢山ありました。バスが壊れたら演技をいったん中止しなくちゃなりませんからね。だけど、いったん動き出すと俳優たちを舞台裏へ押し出そうとしてしまうんです。でも、ブロードウェイ版最新モデルの“プリシラ号”はとてもハイテクなのでめったにトラブルなんか起きません」。
メイクや衣装の早変わりも見ものだ。「DQがメイクをするとき、それは変装したりマスクをかぶったりするようなもの。それで普段の自分とは違うキャラクターに化け、縦横無尽にふるまうのです。私たちは舞台で“変化”を表現しなければなりません。普通のオジさんが一瞬のうちに、どのようにファビュラスでグラマラスに変化するのかを。でも、私の演じたバーナデットは常にメイクをしていて、トランスセクシャルのキャラクターだったから、演じるのは比較的容易でしたね」。ブロードウェイ版の劇場に集まった観客は、年配の女性客が多い印象だった。「私がプリシラを演じたすべての国、オーストラリア、ニュージーランド、UK、カナダ、そしてここニューヨークでも、反応は同じでした。いつもどの公演でも女性はこの上ないくらいデカい声で爆笑して、最後には通路で踊ってしまうのです」。“ノリノリ”な舞台であってもブレることなくアピールしたいテーマはあるという。「他人からそのライフスタイルを非難されることなしに、すべての人間が自分自身を表現する権利を持っています。誰も社会から敬遠されるべきではないし、自分自身で愛する相手を選んだ結果、友人や家族からサポートを拒まれるべきではないと思います」。
“ゲイゲイしい”シーンではあるが、歌と踊り、笑いと涙、夢と現実が、普遍的な出来事として散りばめられている。「われわれのミュージカル版『プリシラ』のモットーは「Kiss The Glitter!」ファビュラスでジョイフル、そしてカラフルなものすべてを受け入れてください。なぜなら、あの歌で歌われているように、「あなたの本当の色(トゥルーカラー)は美しいのだから」。シンディー・ローパーの「トゥルーカラーズ」が劇中で歌われるシーンで、トニーの言う「あなたの本当の色は美しい…」という意味をしっかりと希望として受け止めることができるはず、そして自分らしく生きていける勇気を持てるだろう。
ブロードウェイ・ミュージカル『プリシラ』
会場:Palace Theatre
期間:
ウェブ:www.priscillaonbroadway.com/
今回紹介したブロードウェイ・ミュージカル『プリシラ』を楽しめ、さらにLGBTシーンをプライドウィーク中に体感出来るツアー『プリシラ鑑賞チケット・LGBTシーンを巡る市内観光付!プライドウィークのニューヨーク5日間』が、H.I.S. 海外団体旅行営業グループ・新宿営業所にて予約受付中なので、注目したい。
毎年恒例ニューヨーク市のプライドウィークが2011年は6月18日(土)から26日(日)に開催される。クライマックスとなるプライド・マーチは、6月26日(日)。詳しくは、ニューヨーク市観光局のLGBTサイト(nycgo.com/gay)を参照してほしい。
取材協力:ニューヨーク市観光局
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