東京、銭湯富士10

青富士、赤富士、タイル富士など、名人芸と巡る東京銭湯

東京、銭湯富士10選

帝国湯

江戸時代初期に始まったとされる東京の銭湯文化。自家風呂の普及率が低かった時代には、銭湯が日常生活における入浴の場であった。そして、裸の付き合いゆえのおおらかな交流の場としても、長らく重要な役割を担ってきた。東京の銭湯の特徴は、破風のある宮造り様式や格天井、中庭、タイル絵など、視覚的に楽しい極楽空間にある。そんな粋の心の最たるものが、銭湯富士である。昭和の時代は絵の下に広告看板を置き、街の広告媒体として機能してきた銭湯のペンキ絵。当時の銭湯では、銭湯協会から広告料を受け取る代わりに、ペンキ絵を年に1度描き替えてもらっていたが、銭湯の数が激減してしまった現在ではこのシステムも廃れ、描き替えは各銭湯が自費で絵師に依頼している。

本記事では、都内の銭湯に描かれている必見の銭湯富士を紹介する。レトロな1軒から、スーパー銭湯さながらの近代銭湯まで、各所の個性が光る、雄大な富士の姿に癒されてほしい。また、詳細ページでは各銭湯の桶の写真もアップしている。ケロリンばかりと思われがちな銭湯の桶も、木桶やモモテツ桶など、実は色々な種類があることが分かるだろう。

中野 千代の湯

味わい深い千鳥破風の門構えの千代の湯は、創業1951年。テレビや映画のロケ撮影にも使われている名銭湯だ。2011年12月に塗り替えられたペンキ絵は、絵師の丸山清人によるもので、男湯は西伊豆の雲見から正面に富士山を望む堂々たる作品。一方、女湯には、主人の故郷が能登であることから見附島が描かれている。

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戸越銀座温泉

2007年にリニューアルした戸越銀座温泉は、天然温泉やサウナ、檜の露天風呂といった充実の設備で、懐かしくも新しい銭湯の楽しさを提供する。銭湯富士は、雰囲気のまったく異なる2種類が描かれており、向かって左手は絵師の中島盛夫によるスタンダードな富士のペンキ絵。対して、右手に描かれているのは野外イベントでのライブペイントで有名なペインティングユニット、Gravityfreeによる富士と七福神だ。

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東日暮里 帝国湯

創業1916年(大正5年)、瓦屋根の堂々たる千鳥破風が出迎えてくれる帝国湯は、ディープな銭湯文化が育まれてきた東東京を代表する1軒。男湯と女湯にまたがる大きなペンキ絵は2009年に他界したペンキ絵師、早川利光によるもので、彼の描く銭湯富士を観ることができる貴重なスポットとなっている。早川の持ち味であるダイナミックな波しぶきと雄大な富士山を堪能してほしい。

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高円寺 小杉湯

ミルク風呂や日替わりの香り湯など、豊富な種類の湯で地元住民の憩いの場となっている老舗銭湯、小杉湯。白壁の浴室に映える鮮やかなペンキ絵は、絵師の丸山清人によるもので、男湯と女湯それぞれの壁には富士五湖のひとつである西湖から眺めた富士山が描かれている。

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高円寺 なみのゆ

年末年始には屋根全体を覆うイルミネーション、初夏には30匹あまりの鯉のぼりが上がるなど、個性派銭湯としてその名が知られているなみのゆ。浴室壁面いっぱいに広がるイラスト風のペンキ絵は、2011年に丸山清人と中島盛夫、田中みずき(制作当時は見習い)の共同で描かれた合作で、地平線が4本もある型破りなデザインとなっている。

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神楽坂 熱海湯

神楽坂の石畳の小路に佇む老舗銭湯。創業は1954年で、千鳥破風のある伝統的な宮造り様式を今に残している。開放感のある浴室の正面には、絵師の中島盛夫による富士のペンキ絵が描かれている。松島から望む富士山の絵は男湯と女湯を跨ぐかたちで描かれており、湯船から眺めれば雄大な気持ちを味わえる。鯉や金魚をちりばめたタイル絵も必見だ。間仕切りにはGravityfreeによるペイントも。

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千駄木 ふくの湯

2011年にリニューアルオープンし、温泉街の旅館のような外観が通りがかりの目を引くふくの湯。『弁財天』と『大黒天』の2種類の浴場それぞれの壁に描かれているペンキ絵は改装時に描かれたもので、薬湯の『弁財天』には丸山清人による鮮やかな富士山が、人口ラドン温泉の『大黒天』には中島盛夫による赤富士がそれぞれ描かれている。ペンキ絵の下には、緻密に描かれたタイル絵の松もある。

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要町 山の湯温泉

迷路のように入り組んだ路地の一角にある山の湯温泉は、古き良き木造の銭湯。2014年10月に塗り替えられた真新しいペンキ絵は絵師の丸山清人によるもの。胸のすく凛々しい姿の富士山とともに眺めたいのは、浴室を囲むタイル絵。創業当時に制作されたというヨーロッパ風ののどかな風景画は、サウナルームの中まで続いている。

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銀座 金春湯

創業1863年(文久3年)の金春湯は、現在都内で営業している銭湯の中でも最も歴史のある銭湯の1軒。絵師の中島盛夫による富士のペンキ絵は、海岸から望む富士と赤富士の2種類が男湯と女湯にそれぞれ描かれている。また、壁面には創業当初に作られた錦鯉、春秋花鳥を描いた九谷焼のタイル絵があり、見事な色彩を放っている。

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久が原湯

スーパー銭湯並に充実した設備を誇る久が原湯だが、最大の見所は、創業時に作られた巨大なタイル絵の富士山。改装の際にもタイル絵の壁だけは唯一、昔の姿のままで残された。聞けば、手間も費用もかかるタイル絵をメインの銭湯富士にした例は珍しく、バブル景気だった当時だからできたことだという。ペンキ絵とは異なるダイナミックさは、銭湯富士ファンにはぜひ一度体験してもらいたい。

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テキスト 三木邦洋
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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