浜田真理子が伝えたい5

世界に伝えたい日本の名曲100

Read this in English
浜田真理子が伝えたい5曲

浜田真理子

ミュージシャン。学生時代より、生まれ育った松江のバー、クラブ、ホテルのラウンジで、ピアノ弾き語りの仕事をする。1998年に1stアルバム『mariko』をリリース。情念が込められたようなその歌いぶりには、女優の宮沢りえや杏をはじめ、熱心なファンも多い。

高田恭子『みんな夢の中』
歌っているうちに気持ちが高揚していくものは多いけれど、これを歌い始めると逆にどんどんおだやかな気持ちになる。「身も心もあげてしまったけど なんで惜しかろ どうせ夢だもの」。失った恋を淡々と受け入れる潔さがある。諦念というのかな。色即是空の世界かな。「喜びも悲しみも みんな夢の中」。歌っているうちに言葉が静かに体に染みてきて、恋愛だけではすまない何か大きなことを歌っているような気持ちになる。

波多野睦美『城ヶ島の雨』
この歌の前半と後半の展開の変化はおもしろい。「雨はふるふる」と、雨がしとしと降るさまを短調のメロディで静かに歌っていたかと思うと一転、後半の「舟はゆくゆく」からは長調に転調して今度は少し勇ましげに歌われる。大好きだけど、音域が広くとても難しいので「いつかちゃんと歌えるようになりたい歌リスト」の筆頭にある。

童謡『りんごのひとりごと』
「わたしはまっかなりんごです」。町で売られてゆくりんごが主人公の、童話のような歌。もの哀しいメロディに乗せて汽車にゆられていく様子がよく現れている。でもただの短調の曲ということで終わらない。「りんごかわいや」の“ご”の部分で日本の音階がちらりと顔を出すところがたまらなく好きだ。こういうのを作者の遊び心というのではないかしら。

文部省唱歌『旅愁』
「更け行く秋の夜 旅の空の 侘しき思いにひとり悩む」。歌の旅に出てバスの中でなんとなく口をついて出たのだけど、歌いだしたら強烈に家に帰りたくなった。「恋しや ふるさと なつかし父母」。ああ、子供のころのことまで思い出してしまった。けれどこの歌、もとはアメリカの歌曲なのだそうだ。外国から来た曲がゆっくりと浸透してわたしたちの心にかくも豊かな郷愁を呼び起こすようになるなんてとても素敵なことだと思う。

ムード歌謡『長崎は今日も雨だった』
ムード歌謡の魅力や特殊性は簡単には語りきれないが、一番の大きな特色は男性が女言葉で女心を歌うところではないかと思う。慣れているからあまり不思議に思わないけれど、たとえば英語で歌うジャズのスタンダードナンバーは、女性が歌うときと、男性が歌うときでその都度sheとかheなどの代名詞を変化させて歌うことが多い。なぜなら歌っている本人と歌の中の主人公を常に同期させなければならないから。歌手と歌の中の主人公が別人でもすんなり受け止めることのできる日本人には、やっぱり琵琶法師以来の語り部の血が流れているのかなあ。


※掲載されている情報は公開当時のものです。

この記事へのつぶやき

コメント

Copyright © 2014 Time Out Tokyo