77生まれの侍たち、世界を語る

「世界では、日本人であることが武器になるんですよ」

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77生まれの侍たち、世界を語る

7月7日の午後7時7分7秒ちょうどに、レストラン アイで開催された1977生まれの集い。さまざまな分野で活躍する同世代が交流を深め、それぞれが「決してたったひとりで頑張っているわけではない」という思いを持ち、会話は深夜まで続いた。ここで生まれたアイデアは、近い将来、世界を席巻することになるかもしれない。

皆川賢太郎 1977年5月17日生まれ アルペンスキーヤー

僕らの世代は、世界に出て活躍しないといけなかった。僕ら以前の世代は、スポーツでは特に、外に出るより日本の中で活躍するのが基準でした。ようやくそこから脱皮をして、僕らの世代から「海外でどれだけできるのか」となりはじめたと思います。実際、日本だけじゃなくて、アメリカ人やカナダ人も、いろんな国の77世代がスキーの強豪国だったヨーロッパを攻撃し、自分たちもできるという考えを広め始めた。スキーだけじゃなくて、サッカーでも、中田くんとか、宮本くんとか、77生まれはわりと色濃いというか、個性がある。そして、世界を目指すもの同士、お互いに刺激し合うから、モチベーションも高い。これからの課題は、僕らが世界を見て得た発想を、どう日本に持ち帰るのか。僕はスキーを続けてきたので、世界を転戦して、自分が感じたことをしっかり日本で伝えたい。日本は、一応スポーツの先進国にはなっているけど、ルールとかメソッドの分野では、まだまだ海外に比べるとちゃんとしていない面もあるので、きちんと確立するために、力を注いでいきたいと思います。

僕が思う日本人の素晴らしさは、真面目であること。皆どんなに尖った個性があろうとも、石橋をたたいて渡るということには長けていると思います。

川上俊 1977年5月25日生まれ アーティスト

僕は日本で優秀なアートの学校を出たわけでもないし、初めから海外でやってやろう、という気持ちがあった。それで、だんだん海外での仕事やエキシビションが多くなって、それによって逆に僕は日本を勉強しだしました。やっぱり海外に行けば行くほど、自分が日本人だということを感じるようになり、日本人として、世界に出たいという気持ちが、日本の伝統美をテーマにした作品を作り始めたきっかけになりました。非常に単純でシンプルですが、自分の世界を持って世界で活動しよう、ということを今やり始めたところです。

日本の伝統美は素晴らしいです。特に、余白とか間。それから、生け花とか、書道とか、お茶の考え方とか、日本の繊細な美意識は海外にはないし、特別なものだと思います。世界では、日本人であることが武器になるんですよ。余白とか間とか、海外の人には、わからない感覚だから。日本人であるということで、ちょっとしたステイタスになる。言葉ができなかったとしても、海外の人は日本にものすごい興味を持っているし、僕は、日本の美術を世界で表現することで、新しいものができると思う。実は以前は、外国人みたいなデザインで作品を作ったりしていたのだけど、海外の人にはできない作品を作りたいと思ったら、やっぱり自分のアイデンティティに帰ることが一番近道だと思います。でね、シンガポールの人とか、台湾の人とか、自分の国の市場が狭いから、最初から海外を見ている。だから、日本人としゃべっているより、アジア人としゃべっている方が、感覚が似ていておもしろい。それに、海外の人の方が、自分の作品を深く感じようとしてくれる。

僕の目標は、日本代表になること。日本人のデザイナーとして、ぱっと名前があがるようになりたいです。僕は、世界を変えたい、デザインで、アートで。

宇佐美志都 1977年6月26日生まれ 書家

自分の足下を語れなければ、宙に浮いて飛べないと感じる。己を知ること。自分個人だけではなく、自分を宿してくれたルーツを知ることが、世界の中での個人、世界の中での日本を形作れると思う。そこがないと、英語ができても、フランス語ができても、他にどんな言葉ができても、内容がなければ意味がないと思うのです。今では、本当に行ってなくても、インターネットで、表面上の薄っぺらい世界を知ることができる。だけど、本当に自分に染み込ませないと、意味がないと思うのです。日本人として、何かひとつでも、日本を表現できることを持っておくと、コミュニケーションの場を与えられた時も語ることができますよね。私たちって、コミュニケーションをとらなければいけない時代に生きている。今は、私たちが外に出て、外国の人のことを知る機会の方が多いけれど、これからは、外国人のお客様も増えて、日本にいながら、自分たちの国際性を発揮しなければいけないことも増えてくると思う。自己の確立が、国の確立につながっていくかな、と思っています。

私の思う日本人の良さは、柔らかくて強いこと。強いけど、しなやかで、という部分は、男女問わず、持ち続けたいですね。日本の文字も美しいですよね。アルファベットのように、音そのものが言葉になった表音文字とは違い、東アジアでは、意思を形にした表意文字を使う。景色が文字になるし、文字が景色を想像させるんです。だから、私は、生きていることの喜びのひとつとして、文字を書き続けていきたいと思っています。

前田光朝 1977年6月2日生まれ 映像クリエイター

日本というより東京は、日本でも稀な、世界に直結している場所だと思います。すごく近い。東京で背伸びすると、世界でも頭ひとつ出るような感じがします。僕は、vs世界という考えは持ってなくて、自分がおもしろいと思うことをやれば、どこにいても世界中の人たちが見てくれるし、世界中の人たちに刺激を与えられると思っています。競う必要がないし、自分自身のためにやったことが、結果、日本人としての成功になっていれば一番良いですよね。

日本人の良さは、遠慮をするところでしょうか。でも、文化がしっかりある国で良かったと思います。僕は18歳まで沖縄で育ったのですが、先祖崇拝に近いのだけど、目上の人を大事にするとか、隣にいる人を大事にするとか、そういう小さな心配りができることが素晴らしいと思います。ちなみに、浴衣で来たのは、七夕だからですよ。

松嶋啓介 1977年12月20日生まれ フランス料理シェフ

77世代が一堂に集まって、なんか良い空気感がありますね。僕は、日本人の誰もが、縮こまることなく、世界にどんどん出ていけば良いと思います。

日本人の良さは、勤勉なところです。だけど、逆に言うと、そこだけになってしまうことも多いから、ちょっとハメをはずすというか、視線をずらしてみると新しい展開が開けて、世界に認められることも多くなると思いますよね。努力に勝ることはないと思うけど、その努力の仕方に対するディレクションの取り方や、姿勢、方向性を決めた上で努力をすることが大切です。ただ努力をしていれば、何かが実るわけではありません。徹夜する前に、良く戦略を練って努力することが大事。フランスはマーケティングが上手なんですよ。マーケティングというのは、いわゆる戦略です。戦わずして略するということだから、日本人は努力さえしていれば略されると思っているけれど、もう少し自分自身の先を決めて、その上で、そのプラスアルファとして努力していくことをすれば、もう少し良い結果が出るようになると思います。どうも、頑張っていれば良い、という風習があるから、それは良さでもあるけれど、世界の中では弱さにもなるから、そこを見直すべきじゃないかなと思いますね。

僕の次の目標は、日本人を覚醒することです。悲観することなく、挑戦していかないと、日本はダメになっちゃうから!なんか、きっかけになれれば良いと思っていますね。

撮影 道辻麻依
テキスト 東谷彰子
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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