インタビュー:亀井智英(Tokyo Otaku Mode

海外で圧倒的な人気を誇る日本発メディア「Tokyo Otaku Mode」の全貌

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インタビュー:亀井智英(Tokyo Otaku Mode)

Tokyo Otaku Mode CEO Tomo Kamei

国内より、海外での知名度が高い日本企業は一体どれほどあるのか。 間違いなく、Tokyo Otaku Modeはそのひとつだろう。2011 年3月から日本のオタク文化を海外に発信し、フェイスブックページをはじめとするウェブネットワークを構築、スマートフォン向けアプリのリリース、アニメや漫画に関するあらゆる商品を取り扱うネットストアまで3年という短期間に展開した。タイムアウト東京は、Tokyo Otaku ModeのCEOの亀井智英と、広報を担当する秋山卓哉に取材する機会を得た。会社を始めたきかっけや企業理念、日本のサブカルチャーを海外にアピールするコツなどについて話を聞いた。

まずはじめに、Tokyo Otaku Modeをスタートした経緯を教えてもらえますか?

亀井:サラリーマン時代に、個人的な趣味で海外の企業視察をやっていたんですね。特に、インターネット環境がまだ整っていない東南アジアに行って、その発展してる様子、勢いみたいなものを感じたいと思って。現地で小さなベンチャー企業で働いている人達に、どこの国のサービスを手本にしてやっているのかと聞いたら、日本とアメリカのサービスを手本にしてると聞きました。その時、日本のウェブサービスを現地に持っていって、その国の発展の過程に乗せることができれば上手くいくのではないかと感じました。

一方で、東南アジアの土産屋に行くと、いくつか日本のアニメや漫画を売っているお店があったんですね。そこでは、所謂、コピーDVDが1枚60〜100円ぐらいでたくさん売られていました。その場では、安いなぐらいにしか思ってなかったんです。ただし、よく考えたらコピーして商売している人と、それを現地で買う人の中でしか商売が生まれてなくて、当の作品を制作している側にはお金が入っていない。日本のアニメやマンガの産業は、今後、少子化が進んで人口が減っていくと日本だけでビジネスしていくのがどんどん難しくなる。きちんと海外にも輸出して、海外でもビジネスが成立するような形でないと、漫画とかアニメとかゲームの産業が衰退するだろうと考えて。現状は、そこがうまくいっていないのではないか?そこの問題を自分達で解決するような仕組みが作りたい、海外で発生した利益をきちんと制作者に還元する「エコシステム」みたいなものを成立させたいと思いました。

海外でやりたいって思ってる日本人は大勢いると思うんですけど、実際にはなかなか難しい。前職では電通グループという広告代理店に在籍していたんですけど、そこでフェイスブックを担当することになったんです。企業にフェイスブックページをセットアップしてもらって、日本での商品やブランドのプロモーションにフェイスブックを使いましょうと。要するにフェイスブックを普及させる仕事でした。それが2010年のことで、当時、海外だとすでに5億人がフェイスブックを使っていけれども、日本だとまだ300万人くらいしかユーザーがいませんでした。日本だと人口が少ないので流行っても3000万人くらいにしかならないと思っていましたので、その時点で、海外に5億人のユーザーがいて日本の人口より多くのユーザーがいると考えると、海外の5億人に向けて告知した方がいいんじゃないかって思ったんです。

その頃ですね、アニメや漫画の情報発信をフェイスブックでやっていこうかと考えたのは。最初は、相撲とか日本の伝統工芸でもいいかなと思いました。ただ伝統工芸は、伝えるのがとても難しいんです。漆塗りの技術が向上したとした事実があるとして、文章では伝え切れないし、写真でも何がどう変わったのか見てわかりませんよね。相撲も、力士の名前は変わるけど、技の名前は変わらない。フェイスブックに限らずインターネットでユーザーを集めるためには、情報を定期的に更新することが大事なので、これは厳しいなと思って、情報更新性が高いものってなんだろうって考えた時に、アニメとか漫画があった。コンビニに行けば週に一回クジのキャンペーンがあったり、キャラクターとのタイアップ商品が売り出されたり。テレビでは毎日違うアニメが流れてるし、どんどん新しいアニメ作品や漫画作品が生まれる。秋葉原に行けばそれ以上に情報が溢れていて。それで実際にチームで動き始めて、フェイスブックページを立ち上げたのが2011年3月でした。

311の震災の直後にスタートしたということですか?

秋山:そうですね。3月15日あたりを目標にフェイスブックページを立ち上げようと準備していて、翌週にいざ立ち上げようという時に大震災が起こった。

亀井:震災が起きて15日のローンチは難しいねということで、10日ぐらい延期したんです。

プロジェクトを中断しようとは考えなかったんですか?

亀井:海外のメディアで流れている震災の報道を見ていたら、日本が大変なことになってて日本は終わったと、海外の報道に出ていました。また、自分が好きな漫画の作者が、震災で死んだ?とか噂レベルの情報がフェイスブックに流れていました。だから逆に、正しい情報を海外に伝えなければいけないと思うようになって、震災からおよそ2週間後の3月24日にフェイスブックページをローンチすることにしました。もしかしたら、震災が起こらなければそこまで日本ってことを意識してなかったかもしれないです。ローンチした頃は、日本がまだ元気なんだってことを含めた情報を海外に届けようと、震災後はより意識してやっていました。

Tokyo Otaku Modeのヴィジョン、もしくはご自身が掲げているミッションがあれば教えて下さい。

亀井:スタート時点では、日本を元気に、みたい思いが強かったですが、今は日本の素晴らしいコンテンツを海外に伝えるということをミッションにしています。

秋山:日本って、アニメとか漫画とか、同人文化やコスプレ、さらには独特なファッションといったものを含めて、世界的に見て非常にユニークなコンテンツが生み出されていると思っているんですけど、それをきちんと世界中の人達に届けたい。届け方っていうのは情報だけじゃなくて、Eコマースのような物販などを通じて、日本人ならではの細かいディティールにこだわったフィギュア作品とか商品を、実際手に取ってもらう機会を提供して、日本の文化とか産業を支える役目みたいなのを担えたらいいなと思っています。


フェイスブックのいいね!の数が圧倒的ですよね。

秋山:今、1450万人で99%が海外の方です。

亀井:おもしろい話で、昔、人に「Tokyo Otaku Modeってめちゃくちゃ社員いるんですね」って言われたんですよ。実際、当時6人ぐらいしかいなかったので何でそんなことを言うのか理由を聞いたら、フェイスブックでTokyo Otaku Modeで検索すると、Tokyo Otaku Mode所属って人が100人くらい出て来るよって言われて。それで調べてみたら本当にいたんですよ。「Tokyo Otaku Modeミュージック担当」とか「音楽アカデミー卒業」とか。そんなの存在しないんですよ(笑)あとは、勝手にインドネシア支部が立ち上がっていたり。フィリピンとかフランスとか(PC画面を実際に見ながら)これは僕らが作ってるやつじゃなくて、誰かが勝手にやってるんです。そういうことをされているひとが結構いて。でも、皆に支持されてるのならいいのかなって思ってます。

Tokyo Otaku Modeの市場は、アメリカが1番シェアが大きいのでしょうか?

秋山:最初始めた頃はアメリカのファンが多かったんですけど、最近はアジアや南米の方が増えて来てます。Eコマースのコアなユーザーは、アメリカやオーストラリアの方が多いです。

東南アジアはどうですか?

秋山:ユーザーの数はすごく増えてます。大きなアニメのイベントが開催されている、インドネシアやタイ、シンガポールなんかは特に。

亀井:現地のインターネットの回線が速くなってきているので、みんなインターネットでアニメを見ているという流れなんですよ。だから実際に現地に行ってみると、正にリアルタイムで見てるんだろうなっていうことが分かります。昨年大ヒットしていたアニメ「進撃の巨人」のコスプレをしてる人がいたりとかして。「進撃の巨人」は、10年に1回、20年に1回しか出てこないようなタイトルだと思います。しかもアニメになってからさらに人気が加速して、海外でも大人気です。だから、フェイスブックページやウェブサイトでも「進撃の巨人」に関する記事を投稿すると、ものすごい反応が良いです。

秋山:最近の傾向として、日本とほとんど変わらないタイミングで情報が世界中を駆け巡っている。ファイスブックページを立ち上げた2011年頃だと、情報の伝わり方に多少時差があって、少し古い作品に関する記事の方が僕らも投稿してて反応がいいなっていう感じだったんですけど、去年くらいからほとんどリアルタイム、日本で今流れている情報がそのまま海外に受け入れられているなと感じます。それはやっぱり、ネットがより回線が太くなって、動画を見る人達が増えたんじゃないかなと思いますね。

日本のオタク文化が海外にも通じる魅力とは何だと思います?

亀井:日本人の私には、はっきりとはわからないんですが……日本の周りって全部海じゃないですか。あんま他国の影響を受けていない。ヨーロッパとかアメリカのアニメは、勧善懲悪がわかりやすく描かれていたりとか、ファミリーものになると思うんですが、若い時の葛藤をひたすら描いている日本のようなアニメって、あんまりないと思うんですよ。そこらへんが、日本という島国の中で作られたということが影響が大きいのかなと思います。

秋山:特にアメリカだと、所謂アニメって子供が観るもので、大人になってから観るっていう機会はあまりないようで。でも、日本って大人になっても漫画を読んで、アニメを観る人達がいて、そういう人達に合ったテーマでストーリーとかコンテンツが作り上げられていく。海外の人も、大人になってもアニメは好きなんだけど、たまたま自分が観るコンテンツが自国になかったってだけなのかもしれない。

日本政府もいわゆる文化輸出とかに取り組んでいますが、それについてはどう思います?

亀井:すごく良いことだと思いますよ。安倍政権に変わって、クールジャパンという言葉が首相の口から出てきていますし。そして2020年東京オリンピック開催が決まった。海外の人が日本を意識するきっかけができますし、海外に出ていこうっていう日本の気運も高まるんで、僕達のやってる方向としては後押しされている感じが出てきているかなと思っています。

メディアの新しい展開、将来に向けてのプランニングがあれば教えて下さい。

亀井:今、一番力入れてるのが広告モデルとEコマースなんですけど。Eコマースに関しては特に力を入れていて、ホビー商品買うんだったらTokyo Otaku Modeで買おうみたいなイメージ作りを、海外に対してイメージ付けたいなと思っていて。あと、自分たちが意識してなかったことで、ロゴマークが割と良いねと言ってもらえることが多いんですよ。業界関係者の人達からも、Tシャツが欲しいと言われたり。少しづつ、ブランディング的な動き方もしてみて、日本でも新しいアプローチができるようになるともっと面白いですよね。

今後、リアルイベントを開催する予定はないんですか?

亀井:リアルのイベントは、いずれやってみたいなと思ってます。実現できるかどうかっていうのは、僕達の意思だけで動けるわけじゃないのでどうなるかわからないんですけど。ひとつづつしっかりと形にして、みなさんに見てもらえるようなものを出していきたいなとは思っています。実際、一昨年に自分達のユーザのペルソナってどんな人達なのかを探しに行こう、とサンフランシスコのアニメイベントに行きました。そこにいたお客さんに「Tokyo Otaku Modeって知ってますか」って言ったら「知ってます」って言われて、僕らもびっくりしたんですけど、聞かれたお客さんもすごいびっくりしてて。Tokyo Otaku Modeって実在したんだ、みたいな(笑)一緒に写真撮って下さいとまで言われたり。同じことがシンガポールでもありました。その時は、認知は広がってると思うと同時に、これからどんどんブランドを拡大、拡散していかなきゃならないと明確に考えるようになりました。

最後に、次に海外でブレイクしそうな日本のオタク文化やコンテンツがあったら教えてもらえますか?

秋山:色々な業界の人と話している中で感じるのが、音楽業界の方達が非常に海外を意識し始めたのかなと感じます。最初から海外進出を前提として、アーティストをデビューさせようとする人達も出てきてますし。日本ではあまり有名じゃないんだけど、海外ではすごく人気な日本のアイドルとか、アーティストっていうのが今後、出てくるかもしれませんね。

亀井:実際にね、ONE OK ROCKっていう『るろうに剣心』の映画の主題歌を歌っているバンドがいます。日本でも人気なのですが、海外でもたいへん人気がある。マーケットの大きさを考えると、日本だけではなく、グローバルマーケットを最初から意識しているようです。アーティストだけでなく、僕らが力を入れているEコマースでも同じような可能性があって、先日、お客さんから「こういう商品があるんだけど、偽物が出回りすぎちゃってて、どれが本物かわからないんでTokyo Otaku Modeで扱ってくれませんか?」というような問い合わせが来たんですよ。それで、その商品を製造しているメーカーに話に行ったら、海外でも人気があるという話はなんとなく知っていたけど、爆発的な人気というのは全然知らなかったって仰っていて。正規品を正しく海外に販売していくことで、海外でもブレイクする商品やキャラクターが生まれたらいいなと、そういう部分を確立させていきたいと考えていますね。

インタビュー Ili Saarinen
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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