インタビュー:鈴木寛

オリンピック招致活動から見る東京の未来 ーエコノミックアニマルからの脱出

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インタビュー:鈴木寛

2020年のオリンピック・パラリンピック競技大会への立候補を表明し、現在、招致活動真っ只中の東京。3月4日から7日まで、IOC(国際オリンピック委員会)の評価委員による東京視察を前に、2月24日に開催された「東京マラソン2013」でも、さまざまなイベント会場にアスリートが登場して、大々的にPR活動が行われていた。 東京都だけで約1兆6700億円、全国では約2兆9600億円の経済波及効果、約15万人の雇用増も予想されるということで、さまざまなメディアに「経済効果3兆円」の文字が踊っているが、実際、街はどのように変化し、人々の生活にどのように影響するのか、具体的なイメージがなかなか伝わってこない。 少年時代はサッカーに熱中し、現在はオリンピック・パラリンピック招致委員会の評議員、招致議員連盟事務局長などをつとめ、生涯一スポーツプロデューサーとして尽力する、参議院議員の鈴木寛を訪ね、そのプランについて話を聞いた。2020年の東京でのオリンピック・パラリンピックの実現によって、何が起こるのか。


—今回の東京のエコなオリンピック構想は、日本人の国民性をとても表していますね。

鈴木:まさに、コンパクトに、神は細部に宿るというか、日本人って本当にきめ細やかで、そこに想いを込めていくのが得意ですよね。今回は、1960年に出来た霞が丘にある国立競技場の建て替えをするのですが、その時のコンセプトが「ザ・パーク」。あのあたりは神宮外苑、明治神宮のお庭なわけですね。日本人というのは、水と緑というか、森と切っても、切れないというか。明治神宮の代々木の森は、100年前、野原に全国からの色んな青年たちが木を持ちあって、その中で循環ができる森なんですよ。緑を大切にしながら、エコというのを中心に据えて、これを世界に発信していこうと思っています。


それから、国立競技場は、8万5千人ほどが入るものを新しく作るのですが、皇居から車で5分という都会のど真ん中に、それだけ大きな規模のパーク・スタジアムができるというのは、世界でも初めてなんですよ。しかも、自然との共生しながらも、次世代スタジアムとして、相当なAVとICTのレボリューション起きると思います。例えば、スタジアムには300台近くのカメラが設置される予定です。360度から撮ったものを合成映像にすれば、ひとりの選手を追いかけ、それをあらゆる角度から見ることができる。かつ、日本にはスパコン京があります。北海道大学から九州大学まで大学が10台、国立研究所が20台、合わせて30台ほどありますが、全てネットワークでつなげます。これは、世界最大のスパコンネットワークインフラで、HPCI(ハイパーパフォーマンスコンピューターインフラ)と言います。国立競技場でおさえた膨大な映像データをリアルタイムでインターネットに配信ができ、これを世界中に流してパブリックビューイングをすることもできる。フィールドの下にはプロジェクターを何百台も埋め込んで、そこから透写すると、ディズニーランドのホーンテッドマンションのようにヴァーチャルな映像が見られるようにもなる。これができるのは、日本だけですよ。それから、スポーツ以外にも、エンタメで使えるようになっていて、ボタンひとつでコンサート仕様、陸上競技仕様、サッカー仕様になるようにできる。これこそ、クールジャパンですよね。


—今までは、「我が国もオリンピックができるようになりました!」という発表会的な一面があったと思うのですが、経済の先をゆく技術や精神性を見せていけますね。

鈴木: 2008年は北京で、まさに先進国の仲間入り。2012年のロンドンは2回目の開催で文明を引っ張って、近代を卒業するというか、目に見えない価値を感じさせた。次がリオデジャネイロで、まさにBRICsの一員ですね。中国、ロシアのソチ、ブラジルときたら、残るはインドってことになると思うんですけど(笑)。そういうオリンピックも素晴らしいけれど、やはり、20世紀のオリンピックムーブメントと21世紀のオリンピックムーブメントは違うと思います。オリンピックムーブメント自体が進化していかなければならない。そういう点でも、ロンドンは素晴らしかった。単に近代化という訳では無くて、「絆」というか、音楽文化の深さ、そして豊かなコミュニケーションをおこなう素晴らしさ、集まれる事のありがたさがあらわれていました。オリンピックとか、ワールドカップって、世界平和サミットなんですよね。G20とかには、20カ国の元首しか集まらないけれど、オリンピックの開会式には、何十カ国の総理元首が集まる。利害の対立とかあるかもしれないけど、その期間はスポーツを通じて皆がつながって、世界がひとつになる。そこにさらに、東京の場合は、自然との共存という日本のアイデンティティを発信していきたいと思いますね。


それから、世界のヒントになるようなことを2020年でパイロット的にやろうと思っているんです。新しいオリンピックムーブメントの中には、まさにコンペティションじゃなくて、共生という時代にふさわしいパラリンピックとオリンピックのもっとシンクロナイズしたイベントをやりたいですよね。あと、これは僕が言い始めたことではなくて、東北の中学生たちが言っていることなんですが、2031年にユースオリンピックを東北でやりたいと思っているんです。2011年に生まれた子が、2031年に20歳になるんですよね。世界にいろいろ提案しながら、パラリンピアンとオリンピアンの融合と、ユースの次世代育成とスポーツに挑戦したいと思っていますね。


—1964年のオリンピックの時にも、街の様子がガラッと変わりましたが、2020年までにはどのような変化があるのでしょうか。

鈴木: 僕は実は、1964年生まれなんですよ。2050年くらいに、僕らの孫の世代が振り返った時に、施設は古くなりますが、2020年のオリンピックをきっかけに作りたいものがあります。それは、スポーツコミュニティです。今までは会社とか、そういう所に人が集まってきました。これからは、皆の居場所があって、そこでスポーツを通じて、健康で文化的な人生を送るためのコミュニティに参加しているという社会を作りたいと思っています。20世紀って、我が社という精神が強すぎたんですよ。我が社が我が街、我が渋谷、我が表参道になっていかなければいけない。これは、明確なアンケート結果が出ているのですが、相互型スポーツクラブに入っている人と居ない人では、地元への愛着心が全然違うんですよ。その地域に住んでいる我が友と一緒に街作りをしている感じがないとダメなんですよね。「My Life, Our Life」を考えていけるようになりたい。My EconomyやOur Economyについては考えられて、経済が自己目的化してしまっていることが問題です。GDPが3位になってしまって自信喪失しているのは、経済以外に誇れるものがないからです。


昨年、アドビ システムズ社が、世界5カ国(英仏独米日)におけるクリエイティビティ(創造性)に関する調査をやりまして、日本は世界で最もクリエイティブな国に、東京は世界で最もクリエイティブな都市にランクされましたが、残念なことに、大半の日本人は自らをクリエイティブであるとは考えませんでした。あるいは、BBCがおこなった「世界で最も良い影響を与えている国はどこですか?」という調査でも日本が選ばれています。日本人以外は、日本や東京についてものすごく評価してくれている。だから、未来の東京を自分たちでデザインして、自分たちでクリエーションしていきたい。それが、庶民でなく市民なんです。都市というのは、市民がつくった街であって、静かな市民革命というか……そういう歴史をつくりたい。


—社会全体を新しいバージョンにアップデートするのに、オリンピックを活用していこうということですね。

鈴木: ロンドンは、オリンピックをテコに、この10年間「Rebranding Britain」に取り組んできて、結果、それをやり遂げたなという感じがする。僕は東京をクリエーションのためのオープンプラットフォームにしたい。これは、なかなかおもしろがってくれる人がいないんだけど、国立競技場のイスひとつにしても、若いデザイナーが提案してくれて「designed by…」となっているとか。壁にドネーションしてくれた人の名前を刻むとか。小さなドアノブでも、誰かが考えたドアノブで、それがこれから世界で流行っていくみたいなことがあると良いですね。商業主義になるとデザイン料がとかいう話になるけれど、そんなことより、世界の歴史をつくる一部になるんだと。若手にはチャンスがくるし、新しいソーシャルビジネスが出来る気もする。目に見える経済効果は下がるかもしれないけれど、結果、10年後、20年後の経済にかえってくると思います。


鈴木寛プロフィール
1964年生まれ。灘中学、高校を経て、東京大学法学部公法学科を卒業。大学卒業後の1986年に通商産業省に入省。Jリーグ創立、2002年サッカー日韓ワールドカップ招致、IT政策、電子高取引、情報教育などに従事するかたわら、中央大学や慶応義塾大学などで教鞭もとる。2001年、参議院議員通常選挙東京選挙区で当選し、議員となる。 趣味人としても知られ、高校時代には高校サッカー神戸市一部リーグで優勝。一方、一時はオペラ歌手も目指した音楽好き青年でもあり、大学時代には東京六大学合唱連盟理事や駒場小劇場ミュージカル劇団音楽監督などをつとめた。1999年には六本木男性合唱団を作曲家の三枝成彰とともに立ち上げ、自らのバンド「すずかんレボリューション」は2007年にアルバムもリリースしている。

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