2012年10月26日 (金) 掲載
世界をリードする思想家や活動家が今情熱を傾けている事柄についてのアイディアをプレゼンテーションするイベント『TED』。そのコンセプトを継承して創設されたカンファレンスプログラムのひとつで、子ども達にフォーカスしているのが『TEDxKids』だ。同イベントは、未来を作る子ども達と子どもの環境を作る大人達に向け、驚きと発見そして新たな疑問と希望を見出す場を提供する目的で2011年にスタート。2回目となる今年は、10月28日(日)に「”関係性の再構築”」をテーマにして、アーツ千代田3331で開催される。同イベントに登壇する注目のスピーカーに話を聞いた。
品質に問題ないものの一般流通されない廃棄予定の食品を活用して、食のセーフティーネット作りを目指す民間のフードバンク団体『セカンドハーベスト・ジャパン』が設立10年目を迎えた。代表を務めるアメリカ・ミネソタ州出身のチャールズ・マクジルトンは活動の意図について、「この国のコミュニティーで暮らす住人として、目の前の問題に対して『Respond=応答』すること」と言う。2011年3月11日の東日本大震災以降、日本人の公共心、他者との関わり方があらためて問い直される中、米国人でありながら日本社会の問題と真摯に向き合い続けてきたチャールズの言葉には、たくさんのヒントが溢れている。
―最初にセカンドハーベスト・ジャパンの活動内容を教えてください。
チャールズ:まずは前提として日本では食べ物が余っています。賞味期限や品質に問題がないのにもかかわらずパッケージや形状、規格などの問題から廃棄されている食品は500~900万トンとも言われています。その一方でOECD(経済協力開発機構)の調査によれば、日本の貧困率は15%を超えて世界第2位となり、かつて経済大国と呼ばれたこの国で食べ物に困る人たちは、母子家庭や高齢者らを中心に最低でも78万人に上るとみられています。この状況に対して私たちは2002年にセカンドハーベスト・ジャパンを立ち上げ、メーカーなどの企業から廃棄予定の食品の提供を受けて生活困窮者たちに配給する『フードバンク』と呼ばれる活動をしています。
―廃棄されている食品の量にしても、日本の貧困率が米国に次ぐ世界第2位であるということも、私たち日本人にとっては衝撃的な事実です。日本初のフードバンク団体として設立10年目を迎え、活動の近況はいかがですか?
チャールズ:今年上半期で集めた食品は1400トンで、今年の総量は2500トンに達すると予想しています。これは2010年の813トン、昨年の1689トンと比べれば格段に増えていますが、廃棄されている食品の量を考えればまだまだ十分ではないと思っています。ただ、2011年3月の東日本大震災以降、協力企業も増えていますし、寄付金に関しては我々の予算規模以上の金額が集まり、一時は受付を停止したほどです。そういう意味では日本人の社会意識や公共心に変化が出てきた感じはしています。
―米国人であるチャールズさんが日本の社会問題に取り組むモチベーションはどこにあるのでしょうか?
チャールズ:国籍がどこでであろうと、私たちはこの国の住人として生きているわけですから、自分たちが暮らしているコミュニティーの問題に関心を持つことは自然なことでしょう。フードバンクの活動は、目の前にある問題に対する私たちなりの「Respond=応答」だと思っています。また、勘違いしてほしくないのは、私たちはボランティア精神で活動をしているわけではないということです。まずはフードバンクの活動を純粋に面白いと思ってやっている。自分たちがやり甲斐を持って取り組める仕事があり、なおかつその成果をコミュニティーに還元できるのなら、そこに情熱を傾けることはさほど難しいことではありません。
―国籍以前にコミュニティーの住人であるという意識にはとても共感が持てます。
チャールズ:これから先は、人の移動が国境を越えてもっと流動化していくだろうし、そういう時代になればその時々で暮らしているコミュニティーに対して帰属意識を持つことが当たり前になってくると思いますよ。
―現在の活動における課題は何かありますか?
チャールズ:そうですね… 課題は色々あるとは思いますが、やはり日本にはまだNPO(特定非営利活動法人)の文化が根付いていない部分が大きいです。NPOと聞くと何か怪しい活動をしている団体に見られたり、寄付や物資目当てと思われて対等に扱ってくれないことがとても多い。だから私たちはNPOという言葉を使って団体を説明することは避けていますし、メーカーなどの企業と交渉する時はまずは信頼関係を作ってフードバンクの活動に対して理解ある、対等の立場で提携することをなにより重視しています。企業にとっても食品を廃棄するには費用もかかるし、品質に問題がないのに捨ててしまうのはもったいないという気持ちもあるでしょう。フードバンクの活動はそうした企業にもメリットがあるわけです。だからこそ企業にもこうした社会問題への理解を深めてもらい、私たちと共同で事業を行う感覚を持ってくれる企業としか提携はしないようにしています。
―NPO文化が根付くまではまだ時間がかかるかもしれませんが、特に震災以降は社会的な活動に積極的な若い世代も出てきていると思います。いずれにしても自分とは違う境遇に置かれた他者の問題に対して、いかに気持ちを寄せられるかということが重要な気がします。
チャールズ:そうですね。私の場合は東京・山谷のホームレスたちと1年3カ月間、生活を共にしたことがフードバンクの活動を始めるきっかけになりました。実際に彼らと同じ環境の中で生活をし、話を聞き、語り合ったことで、彼らの抱えている問題に対してある種の当事者感覚を持つことができました。人間は誰しも完璧ではないし、大切なのは決して彼らのことを「かわいそうな人たち」と思わないこと。彼らは自ら助けを求めるようなことはしませんから、私たちが食品を持っていく時も「必要ならばどうぞ、必要ないなら構いません」というスタンスで接しています。みな自分の生活が大事ですから他人の境遇に対して心を寄せることは難しい時代なのかもしれませんが、より良い社会を作ることは結局まわりまわって自分のためになることですから、目の前の問題に対してどういう応答ができるのか、実際に現場に行って話を聞いたりすることで見えてくる部分もあると思いますよ。
―最後にこれからの目標を教えてください。
チャールズ:食は電気や水道などと同じようにライフラインであるという認識を持ってさらに活動を広めていきたいですね。そして最終的には各地にフードバンクのセンターを作り、緊急時にも対応できるような食のセーフティーネットを構築したいと思っています。またNPOの認知度を高め、地位向上を図ることも大切です。国ができることは限られていますから、これからの日本社会の在り方を考えても、民間が「公共」を支えていく必要性はますます高まっていくと思います。
・チャールズ・マクジルトンが、登壇する『TEDxKids@Chiyoda』
・セカンドハーベスト・ジャパン公式サイト
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