2010年03月16日 (火) 掲載
桜の名所は全国各地にあるが、東京ほど桜の存在を感じられる街はない。桜の代表格“ソメイヨシノ”が、江戸時代末期の染井村(現在の山手線、駒込駅付近)で生まれたのもその一因だ。この時期の2週間ほどは、いつもの通勤、通学の車窓が、華やかになる。せいぜい数秒から数10秒、長くても2~3分という短いものだが、それゆえにハッとさせられる車窓を集めてみた。
中央線で東京駅から新宿方面へと向かうと、御茶ノ水から四ッ谷にかけて、江戸城の外堀に沿って走る。飯田橋駅を出たところにある外濠公園という遊歩道は、東京の桜の名所として有名だ。右側は牛込堀、新見附堀と続き、堀をはさんだ反対側の外堀通沿いにも桜は植えられている。2キロ半、およそ3分にわたって左右両側で薄いピンクの並木が続く。付近にあるカナルカフェのボートから桜と電車を愛でるのもいい。東京の桜の開花の基準になる木がある靖国神社も近い。
東京には神田川、目黒川など何本かの川が流れているが、いずれも江戸の水不足解消や洪水による災害を避けるため、人の手によって掘削したり、広げられたりしたものが多い。東京の台地部分の北縁近くを流れる石神井川もそのひとつ。江戸から明治期に改修された川のほとりには桜並木が植えられることが多く、石神井川も20キロ強の流れのほとんどに桜がつきそっている。板橋駅を出た埼京線が渡る石神井川は、コンクリートで護岸された典型的な都市河川だが、桜の花によりこの時期だけは雰囲気を一変させる。川が大きくカーブした場所ということもあり、街中で一瞬だけ体験できる渓谷のような雰囲気すらある。
伊勢崎線の起点、浅草駅はデパートの中にある。出発すると、レールと車輪が軋む音を立てながら右に曲がる急カーブを進む。一気に視界が広がり隅田川をわたると、隅田公園をはじめ、隅田川の両岸を彩る桜が目に飛び込んでくる。薄暗いホームから外に躍り出る感覚と、川に反射する光、そして桜という鮮やかなコントラストを楽しむためには、ぜひ晴れた日に乗ってほしい。
荒川沿いに植えられた『小松川千本桜』は、都内にある雄大な桜の風景のひとつだ。千葉県側から都内へ向かうと、大きな団地が並ぶ船堀駅で地下から地上に出る。高架のまま中川、荒川という大きな川を500メートルほどの鉄橋で渡る際に見える、スーパー堤防沿いのおよそ2キロにわたって植えられた桜は、ソメイヨシノ、オオシマザクラ、ヤマザクラなど10種類100本。2003年に植え終わったばかりという、東京では一番新しい大規模な桜並木だ。
東京都と神奈川県をわける多摩川、その都内側で沿っているのが多摩堤通りだ。とくに東急田園都市線と東急東横線の間の桜並木は、1本1本の木が大きいことで有名。都心部の桜にくらべると、横方向への広がりが大きく、ゴージャスな趣がある。田園都市線側の二子玉川は再開発で桜が減ってしまっているが、東横線側はまだ多く残っている。多摩川駅を出て右側に注目。日当たりがいいぶん、都心部より早く開花する木もある。
川沿い、堀沿いなど水辺に多い車窓の桜だが、ここは山にある桜だ。京浜東北線を東京駅から北に向かって進み、上中里駅を過ぎて王子駅に着く直前の左側にそびえる丘が飛鳥山公園。8代将軍・徳川吉宗によって、江戸の町民の観光地として整備された場所だ。それまではただの丘だったが、娯楽を提供するために桜を植え、酒宴を許可した最初の場所でもある。“花見”といえばそれまでは梅を愛でることだったが、このころから桜を見て楽しむことに変わり始めたという。いまは650本の桜が咲き誇る城北有数の桜の名所になっている。車窓の桜は同じ高さか、見下ろすものが多いが、ここは見上げる形になるのが珍しい。うつむいていると見過ごしてしまうので要注意。
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