Photo by Yuki Owada
2009年09月01日 (火) 掲載
1960年代のサイケなポスターアートから、江戸時代の商いで使われていた活字体を扱う大冊などを閲覧、購入できるおそらく世界唯一の書店、 東塔堂。 5月より営業中のこの書店ではアート、デザイン、写真、建築に関する古書を取り扱う。そのコンパクトな店内は、友達の家にふらりと立ち寄る感覚に近いものがある。ビンテージのデザイン雑誌や、今では忘れ去られた日本が見られる写真集などに異常なほどの知識と愛着心を持ち合わせたその"友達"こそがオーナーの大和田悠樹、30歳。店内に並ぶ約3000冊の中から訪れる人のテイストに合う本を持ってきてくれる。店内にはページをめくる音と、大和田のiPodからシャッフルで選曲された音楽が漂う。先日訪れたときはロバート・ワイアット、キャット・パワー、細野晴臣が流れていた。また、新鋭の芸術家をサポートするために併設された小さなギャラリーには地元の若手アーティストの作品が並ぶ。
「ここを訪れるのはほとんどがクリエイティブ業界で働く若手やフリーランスの方々です。」と大和田は言う。「近くにデザインオフィスも幾つかあり、昼休みなどの合間に覗きにきてくれたりします。高い年齢層のコレクターにも来て頂いてます。」
東塔堂は必然的に大和田の経歴が反映されている。大阪で育ち、大学で写真を学んだ大和田は20代前半に東京に移り、本の街-神保町でアート系の書物を扱う店で働いた後、メールオーダーで本を扱う事業に3年ほど携わる。そして現在、渋谷と恵比寿の間の住宅街にひっそりと佇む東塔堂に至るわけである。
「ネット上で本を探すのは限られてくるんですよね。」と以前やっていた事業と比べて語る大和田。「お店だと実際に好きな本を手に取ってながめることができます。特に古書は質感の違う紙でできてたり、印刷の手法が違ったりします。オンラインショッピングだとそういったことを実感するのは不可能ですよね」。
現在この書店で一番の高額は、土門拳と東松照明の写真集『hiroshima-nagasaki document 1961』。広島と長崎の、原爆投下後の町の様子をとらえたこの作品集は100万円以上の価格がついている。しかし、実質書店に並ぶほとんどは1000円あたりで販売されており、特に昭和時代を写し出す現実派写真家に関する本のコレクションに特化している。取り扱いの約40%は英語の書物で、フランス語やドイツ語の本も手に入れる事ができる。
個人経営の店によく見受けられるように、大和田もその拍子抜けするくらいに穏やかなキャラクターを、店全体に醸し出している。「ここにくる友達に言われるんです。この店、自分そのものみたいだって。ここは心のオアシスなんです。静かにじっくり本をながめられる空間をつくるよう、心がけています」。 大和田の理想とする場所がここ東塔堂で実現されている。アート、デザイン通ならばだれもがここのメンバ−になりたいはず。
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