ロングインタビュー:米原康正 Part 2

ストリートの目撃者によるリアルな東京とは?

ロングインタビュー:米原康正 Part 2

Photo by Yasumasa Yonehara

米原康正:ロングインタビュー Part2
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世界中で展覧会をやられていますが、皆さんのリアクションは?
米原:海外のインタビューで一番多い質問は、ファインアートなのか、ドキュメントワークなのかということ。僕自身はドキュメントのフォトグラファーだと思っているけれど、編集者でもあるから「写真の見せ方次第でファインアートになったり、受け止められ方が色々と変化していくんだよ」って答えるようにしている。でも、やっぱりドキュメントは大前提だね。2011年という時代の中華圏で可愛い女の子を撮っているのがその証拠かな。

中国、ホントに面白い。今年の5月、北京でセクシーダンスコンテストを開いてもらって、30人ぐらいのビキニ姿の女の子に取り囲まれている状態だった。僕らからする見慣れたビキニなんだけど、中国人の男の子からすると、とっても興奮するような光景なんだよね。もちろん日本でも同じ様な光景に何度も出会ってるけど(笑)、中国では日本以上にクラブの中でビキニを着ている子たちを取り囲 む状況は実はとても保守的なんだと考えると、これはかなり最先端な表現でもあるよね。そういう子たちをタイムリーに写真に撮れるということはすごく面白いことだし、実際にこれは僕が日本でずっとやってきたこと。例えば、コギャルを撮るとか裏原系の女の子たちを世間に出る前に撮るとか、みたいなね。だから、これはドキュメントであるということの凄く重要な要素なんだと思う。

逆に「そういう格好をしたらウラハラっぽく見える」とか「『smart girls』っぽく見える」みたいに集まってきた人たちを撮り始めてしまうと、それはもうドキュメントでも何でもない。ただのコピーでしかない。でも残念ながら日本のメディアはそっちばっかりしか撮ってない。コギャルが一番面白かった時期に、コギャルを撮っているのは、僕しかいないと思うんだ。そのあとに、外国人たちが面白がって騒いだ後に、はじめて日本のジャーナリズムやファッション業界とかが「コギャルすごいね」って言い始めた。ガリアーノが109に行ったと噂になると「109凄いね!」って話になったりして…(笑)。常に現場の人たちが面白いと言っているものをそのまま記事に出来るようにと思って僕はやっているね。例えばハーフモデルと言われている人たちが、一番面白かった時期は2004~2006年ぐらいだった。それ以降ってハーフモデルは売れるって言うことがオジサンたちに拡がってしまって、言い方変だけどハーフだったら誰でも良いみたいになってしまった。それではダメなんだよね。常に僕はオリジナルを捜したいということなのかもしれない。海外の評価に戻ると、始めて僕の写真を見て、こういう日本人がいるのか!って言われることが多いね。あと、世界中の男子が「アシスタントはいらないですか?」って言ってくる…(笑)。

『egg』以降、女の子はどのように変化して行きましたか?
米原:98年に109の前で100人のコギャルにアンケートしたの。「君は将来何になりたいですか?」って質問したら、60%ぐらいの子が「外人」って答えた。僕が「外国行けば外人になれるじゃん」て言うと英語喋れないからと。そのかわり彼女たちが選択したのは、カラーコンタクトをつけ、日サロで肌を焼き、エクステンションで髪の毛の色を変えるということ。

「なぜ外人になりたいのか?」という根本を突き詰めていくと「外人=自由」といった回答が多かった。彼女たちにとって日本という社会の中で「日本人でいること」はすごく窮屈なことなんだ。そういう窮屈な日本社会の輪の中から外れた人になる為には、外人になればいい。だけど外国に行くと、今の輪、例えば友だち5人の枠からは離れてしまうから、それもやりたくない。超甘甘なんだけど(笑)。カラーコンタクトつけただけで「あれ?外人?!」みたいになっちゃうんだよね。日本人ってそういったなりきりはすごく早い。

ローティーンの雑誌で読者ページのお手紙お兄さんのコーナーを15年間ずっとやってるから、女の子たちからの手紙をいつも読んでいるんだけど、格好を変えることで自分の性格を変える、って内容の手紙がかなり多い。日本人は格好から性格を変えることが出来るんだ。今まで親に対して「はい」って礼儀正しかった子が、ギャルの格好になると「なんだこのクソババア!」って言えるようになる。本当に言うんだよ、ちょっと外見を変えただけで。決して悪い友達とつるんでいるとか、そういうわけではなく、ただその格好になることで今まで言えなかったことが言えるようになっている。不思議ちゃんとかリストカッターとかもね。その手のカッコをすれば出来るようになる。そしてそれがブームになる。

リストカッターがブームなんですか?!
米原:(笑)そうだよ、すごいんだから。多分2,3年前がブームのピークだったと思うけど、今でも沢山いるよ。リストカッターで調べると、同じ音楽を聴いていたりするんだよね。ヴィジュアル系の音楽がすごく多い。ヤンキー系のリストカッターと不思議ちゃん系のタイプがいて、ヤンキー系の場合は昔の根性焼きと同じように根性試しだったりする。不思議ちゃん系の場合は、切った後に友達に電話して「今切ったよ~」みたいにお知らせする(笑)。ヤンキー系は絶対に死のうとは思っていないんだけど、不思議ちゃん系はそうではなく、生死の境を行ったり来たりしてるんだよ。血を見て「自分は生きている」という気持ちになれる。

中国でも同じようなことはありますか?
米原:リストカッターはそんなにいないかも。日本人って、みんな周囲 を気にして、まわりが良いと思うことを良いと思う。リスカは言葉のない人たちの表現手段。中国の子はまず言葉ありきだからね。自己主張が激しいから、強いヤツは周囲とは違う格好をする感じだね。でも日本そうじゃなくて、凄い怖そうな格好をした人がとっても優しかったりする(笑)。ある意味、強いヤツもそうでないヤツも真ん中に寄って同じようになっているというか。

ライブで怖そうなバンドが優しかったりするんですよね(笑)
米原:そうそう。パンクバンドで「ファッキュー」って怖そうな顔してる人たちが、ライブが終わったら「おつかれっしたー!」みたいな感じだよね(笑)。「ステージに立つと「ファッキュー」って言わなくちゃいけないんだ」みたいな感覚は日本人独特。”なりきる”という部分が日本人なんだろうな。それを裏返すと、もともとの自分がどこにあるのか、自分では分からないっていうことでもある。

米原康正の最新作品集『HARAJUKU KAWAii!!!! girls』(ゲインムック)より



そういう中で米原さんはリアルな日本の今をドキュメントしているわけなので責任は重いですよね
米原:そうなんだよ。本物を見せられて本物の要素を真似しようって思ってくれる部分が大切。でも、ニセモノばかりを見せられてしまうと、日本人の性格として、ニセモノをコピーしていってしまう。ストリートなまま、セクシーなまま、街にいるそのまんまをちゃんと記事として出せるようにしないとダメだと思うね。

これからの予定は?
米原:北京で大きい展覧会をやる予定。景気が悪い中、アジア圏の消費にどう絡んでいくかを考えていかないと、今の日本は本当に危ないと思う。日本人の性格として、イメージをずっと追いかけてきて、リアルを避けてきたことが今の日本の結果に繋がっているんじゃないのかな。足下が全然見えていなくてさ。ちょっとおかしなぐらい自分たちを西洋人だと思っている節のある国だと思うんだけど、どう見たって、東洋人なわけじゃん。日本人は格好いいと思ってコピーに英語をよく使うけど、実は誰もそんなの読んでる人なんていないんだよね。どんなスローガンが書かれていようとも、日本人は見た目のイメージで決めてしまうから、内容なんて気にしていない。それは、日本語を使わずに英語でタイトルをつけてきた僕たち大人の責任なんだよね。逆に中国では、グラフィティを筆で書いているやつとかいるわけ。自分で何をメッセージとして伝えるのかということを考えると、その方が自然で当たり前なんだよね。昔の暴走族の「○○参上!」が日本の本当のグラフィティだと思うわけよ。漢字でちゃんと「夜露死苦」って書いていたわけじゃん。伝わるでしょ(笑)。でも、そのかわりFUCK YOUとか書いてあってもさ、それなんかで喧嘩にはならないからね。だから、イメージ的なことに走りすぎないように、僕は常にリアルなことを題材にして発信していこうかなと思っている。

最後に、米原さんのおすすめスポットはどこですか?
米原:僕の事務所は原宿にあって、やっぱり生活している圏内が面白いと思うよね。韓国料理の『nabi』って店も美味しいし、郵便局の道をずっと行くと香港の本場のお粥が食べられる『香港ロジ』があるね。事務所のすぐそばにはメキシコ料理屋の『フォンダ・デ・ラ・マドゥルガーダ』があって、そこも美味しい。コース料理が5000円ぐらいするから、メキシコ料理なのにそんなに高いのかよって思うけど(笑)。和食を食べるときは、今『SUPREME』がある通りの小さな一軒家の2階が実は『じゃんがら』って渋い和食店。そこがちょっとオススメ。そこは女子を連れていくと、バカウケ(笑)。

米原さんはチェキをいくつ持っているんですか?
米原:ずっと使っていると壊れたりするので常に5個ぐらいは持ち歩いているね。今までにだいぶ壊してきたんじゃないかな。チェキもこれほど働かされるとは思ってないと思うよ(笑)。今主に使ってる新しいピアノブラックは、Instax mini 50sというモデル。その50sとInstax mini 25が好んで使ってる機種。初号機のInstax mini10も好きだったんだけどね。


米原康正の愛用するチェキの最新モデルInstax mini50s。ピアノブラックが美しい。

チェキというのは、もともとサラリーマンが名刺代わりに撮影して渡せるようにと考え出されたものをギャルが転用しているという話を聞いてびっくりしました
米原:そう、ギャルが黒人文化と同じだなと考えることがあって、自分で何かを発明することはできないけど、あるものを全然違うものに変えていくということは、黒人もギャルもすごく得意なわけよ。黒人がターンテーブルをスクラッチで使うようになったことも、ギャルのケータイのカスタマイズとかもそう。プリクラだってもともとはサラリーマン用だったわけだし。そういった部分で、ギャルを例にとっても日本人の編集作業というのは、まだまだ捨てたものではないって僕は思うよね。

オール原宿ロケで、きゃりーぱみゅぱみゅや武智志穂、田中里奈など人気読者モデル20人を米原の代名詞である『チェキ』で全編撮り下ろした『HARAJUKU KAWAii!!!! girls』(ゲインムック)が絶賛発売中


続きはこちら 米原康正:ロングインタビュー Part1

米原康正:ロングインタビュー Part2
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インタビュー ジェイムズ・ハッドフィールド
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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