インタビュー:猪瀬直樹 東京都知事

「僕は自分で自分自身を政治家ではなく、首都の責任者だと思っています」

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インタビュー:猪瀬直樹 東京都知事


来る2013年9月7日、2020年のオリンピック・パラリンピック競技大会の開催地がいよいよ決定する。今年7月に、スイスのローザンヌで投票権を持つIOC=国際オリンピック委員会のほぼ全員を前に、いかに東京がオリンピック開催国として魅力的な土地であるかをアピールし、手ごたえを感じているという猪瀬直樹都知事に、タイムアウト東京は直に話しを伺う機会を得た。東京マラソン2013では42.195キロを完走し、ランナーや沿道に集う人々から、祝祭に賑わう熱い気持ちを感じたという猪瀬都知事。自らが、オリンピック・パラリンピック開催への大きなアピールに尽力する心境を聞いた。


今までのプレゼンテーションを経て、いかがですか。

猪瀬都知事:ロンドンオリンピックは、ひとつの弾みになったと思います。やはり、先進国だからこそできる確実性みたいなものが今、一番ポイントになると思っています。我々は、確実に実現する力があると。当たり前だけど、確実っていうのは、すごいことですからね。オリンピックの歴史は100年以上あるわけで、新大陸、新大陸と言ってもひと回りしますし、ロンドンは3回目でしたし、2回目というところが出てくるのは当然です。東京は、1964年にアジアで初めて開催して以来、50年が経つ。無理して新しいところを探すのではなく、確実にやれること、そしてそのレガシーが50年ほど続き、オリンピックの歴史もこの先、200年、300年と積み上げていかれるわけです。なんで東京なのか? って意見もあるけど、だから東京なんですよ、と。

北京の時も、今回のリオもそうですが、招致が決まるところまではすごく期待感が高いんですが、その後ぎりぎりになって、本当に間に合うの? っていうような話が良く出てきます。

猪瀬都知事:サンクトペテルブルクでプレゼンテーションをしたときには、キャッシュの話を2つしました。まず、日本では財布を落としても、キャッシュと一緒に戻ってくるという話。実際、年に30億が戻ってきている。もうひとつは、45億ドルの資金を持っているということ。これは、予算ではなく、リーマンショック前の税収の多いときに、オリンピックのためにとっておいたもので、行政改革をやってきちっと浮かせた大事なお金です。それを、他の目的に使用せず、オリンピックに使うという理解、承認を得て、基金としてとってある。予算としてこれから手配するのではなく、もう銀行にあるんですよ、と。どちらの話も大きな拍手でした。それから、ロンドンのときも、エリアが固まっていて、コンパクトにやっていると思いましたけど、東京では半径8キロ圏内に、85%の施設が集まっていて、20分以内での移動が可能ですと話しました。プレゼンテーションではさらに、僕は『ミカドの肖像』の著者ですから、東京の中心は緑なんですよと。無、ゼロという空間があって、その周りに、モダニズムとテクノロジーがものすごいスピードで駆け巡っているという話もしてきました。静寂、モダニズム、テクノロジーがひとつの調和になっていて、我々のホスピタリティをつくり出している。人々は清潔で、時間に正確で、犯罪が少なくて。

タイムアウトでは、年に1回、世界各国から編集長やパブリッシャーが集まる会議がありますが、毎回お互いに、次はどの都市に行きたいか、という話をします。東京に行きたいという人はとても多いです。先日、タイムアウトテルアビブのパブリッシャーが初めて東京に遊びに来て、1週間ほど滞在したのですが、「東京は妖精の街」だと言うんです。中国とも他のアジアともまったく違う、それでいて、欧米ともまったく違う進化をした国。街を行き交う人々や交通機関が非常にオーガナイズされていて、人々の親切心に触れ、この国は、まったく違うカタチで、それもかなり進んだ社会であることを肌で感じたと。

猪瀬都知事:そこなんですよね。正にそう。独特の東洋と西洋のミックスされたそれをどう説明するのかなんですよ。3月の評価委員会では、ハーバードの教授をしていたサミュエル・ハンティントンの文明論にある、世界は7つの文明に分かれている、という話をしました。彼は、日本は、7つのうちのひとつで、中国、韓国の儒教文明とは違う文明だという位置づけをしています。これは、しばらく東京にいればわかることなんですが、訪れたことのない人たちに説明するのは難しい。IOCの委員はなんらかの形で来日しているから、長くいる人にはわかる。でも、1日や2日で帰ってしまうとなかなかわからない。

江戸時代とか、明治維新の頃に日本に来た外国人が、庶民のちょっとした日常のお茶碗とか、そういうものにすごく美的センスがあるのに驚いたという話を読んだことがあります。

猪瀬都知事:19世紀には、陶器はチャイナ、漆はジャパンって呼んでいたんですよ。幕末のころにロンドン大博覧会があって、日本が出品するものは刀みたいなのもあるけど、主に漆器だった。陶器はチャイナで、漆器はジャパン。漆器は日本にしかない。それから、先日NHKの『八重の桜』を観ていたら、戦争のシーンで鎧を着ているんだけど、あれも漆なんですよ。西洋の、上から下まで鉄でつくったのがあるけれど、あれに比べたら、江戸時代は平和だったから、奇麗で軽い、防護的じゃないけど、アートで戦っていたわけです。だから、ある種の成熟した平和をつくっていたんですよね。ただね、成熟って英語にはないんです。成熟っていうと"mature"になってしまうが、それは全然意味が違う。"sophisticate"を深くした意味なんです。成熟っていう言葉が日本にはあるけれど、英語にはない。洗練された姿、っていうのを伝えるのが難しいです。

クールジャパンも一生懸命プロモーションをしていますが、なかなかその言葉が浸透していかないですし、今、知事のお話を聞いていてもわかるように、なかなか日本文化への深い理解を得るのは難しいですよね。このあたり、どう伝えていけば良いか、知事のお考えはありますか?

猪瀬都知事:まずは、僕自身がプレゼンテーションすることに意味がある。僕自身が自分で表現すると、あ、こういう知事がいるんだ、って思ってもらえる。イギリスのコンサルの人が、政治家の発言はつまらないけど、僕のはおもしろいと言っていた。それで良いと思う。僕は自分で自分自身を政治家ではなく、首都の責任者だと思っています。それはやっぱり、東京という、これだけの都市をみるには、作家的なインスピレーションがないとダメだし、実務ができないといけない。それと、他の文明との比較をきちんと言えなくてはいけない。日本に1週間いればわかることを、短いプレゼンテーションの中で説明しきることはなかなかできない。でもそれは、ひとりひとりに話したりしながら、わかっていただくんだと思います。もちろんメディアでの発信も大切です。

たくさんの外国人の方が東京に来ています。地下鉄の中で携帯が使えるようになったり、バスの24時間化を考えていらしたり、街のハード面が充実してきていますが、ソフト面の充実についてはどうお考えでしょうか。

猪瀬都知事:ハードとソフトは重なってきます。今、渋谷と六本木間のバスを24時間にすると提案していて、12月には始まりますが、大事なことは、電車の時間が正確であるということ。僕は昭和5年の時刻表を持っていますが、1930年に、山手線はすでに夜1時近くまで運営しています。朝5時に4分間隔で始まり、深夜まで。つまり、その時代に現在のダイヤが完成しているわけです。明治の初期にイギリスから蒸気機関車を買ってきて、その後は、どんどん日本がダイヤを組むというソフトの部分をつくってきた。だから正確で、ものすごく緻密です。ハードもつくったけれど、ソフトも完成させた。例えば、ロンドンオリンピックの選手村に行く車両は、日立の車両でした。ところが、ソフトの面は、1930年に完成させたままになっているわけですから、まだまだやれるはずなんです。1930年につくりあげた社会を固定化してしまったら、貧弱なライフスタイルになってしまいます。アートとか、スポーツとか、アフターファイブの中で、時間の市場を開拓すれば、もっと充実した自由な消費生活ができる。1990年からこの20年間余、GDPが500兆円のままです。アベノミクスでちょっと上向きになってきたけど、安倍さんがお札を刷っても、我々が使わないとインフレーションにはならない。終電にしばられて、終電から逆算するものの考え方をやめて、時間は自由であるという当たり前のところに戻し、それと同時に正確な時間は刻まれている。そうすれば、消費生活は変わってくるし、もっと自由な職業と生きた時間を考える、そういうライフスタイル革命をおこさないといけないと考えています。心のデフレも、2020年のオリンピック、パラリンピック開催をひとつの目標に向かっていきたいですね。心のデフレを取払いながら、消費生活をより多彩にしていくことで、もっと新しい世界が開かれていくと思います。


インタビュー 東谷彰子
撮影 外山
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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