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フランソワ・バンコンの描く、電気自動車のある世界

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日産は2010年度後半に電気自動車『日産 リーフ』を発売する。リーフはゼロ・エミッションカーとして、ガソリンではなく、リチウムイオンバッテリー内の電力を使ってモーターを動かし、走行時にCO2を出さないよう環境に配慮している車だ。ゼロ・エミッションとは、自然界への排出をゼロにするシステムを構築する、もしくは構築を目指すこと。この概念をより深く理解できるようにと、日産のゼロ・エミッション事業本部マーケティング&コミュニケーショングループ部長兼商品戦略・グループ部長 フランソワ・バンコンがプロデュースしたウェブサイト『Journey to zero』が公開された。バンコンは、ボルドーで数学、工学を学んだ後、パリのファインアートスクールでファインアートと美術史の学位を取得。フリーのグラフィックデザイナー、広告コンセプター、メディアコンサルタントとして活躍した後、ルノーに入社し、日産には、1999年から勤務している。

ウェブサイト『Journey to zero』について、バンコンは、「これは、車に関するサイトではない。ライフスタイルに関わるものだ。購買行動を引き起こすことより、生活者のインテリジェンスを求めている。いろんなことを学んだり、発見したり、感動したりを大切にしてほしい。何が起きているのかを知ってほしい。我々にも、消費者にも変化が必要だ」と語る。このサイトの監修はTEDカンファランスの創立者であり、情報デザインの大家であるリチャード・ソール・ワーマンが担当。建築家やデザイナー、芸術家たちとのコラボレーションを通して、ゼロ・エミッションへの理解と共感、そしてアクションを促して行く。

では、従来のガソリン自動車と電気自動車は何が違うのだろうか。「電気自動車は、人と車との新しい関係を作るもの。見た目は ガソリン車に近いが、中身は全然違う。もちろん、外見をニッチ狙いにすることも考えたが、我々はたくさんの人に乗ってもらえる大量生産車を作りたい。だから、地球上の誰もが日常的に使える、現在の“車の概念”を使って作った」とバンコン。見た目は私たちのよく知るガソリン自動車に意図的に似せているが、電気自動車は”全く異なるもの”という位置づけのようだ。では、気になる燃料補給(=充電)の方はどうだろうか。「日本では、満充電をしても連続運転できる距離が短いという指摘がある。ヨーロッパでは国境を超えて移動することが多いが、日本での平均的な走行距離は、1日35キロ。日産 リーフはフルで充電したら160キロ走れますから、何の問題もない」。

燃料の補給は問題なさそうだが、量産についてはどうだろう。ここ最近の若年層の車離れは深刻だ。こういった課題にはどのように対応していくのか。「東京の若者には、デジタル世代が多い。電気自動車は、IT的な要素を持っているので、彼らに対してもつながっていけるツールだと思っている。iPhoneのような、“iCar”を作るイメージだ。しかも、電気自動車 はスカイラインと同じくらい速く、GT-Rと同じくらい楽しい車だ。車好きのための車と言っても良い。我々は、車が好きなことに誇りを持っている」。つまり、電気自動車は、iPhoneが携帯電話でありながら携帯電話という概念を越えて私たちの生活にこれまでなかった経験価値を提供しているように、これまでのガソリン自動車では提供し得なかった新たな価値を提供すると同時に、従来のガソリン車が持っていた“車の魅力”を十二分に兼ね備えているということ。そして、それらは当然、デジタルテクノロジーをベースに作られているので、今の若者層とも相性が良いとバンコンは見ているようだ。

若者の車離れがこれで解決出来るのかはわからないが、バンコンの描く電気自動車のある世界は、少なくともこれまでの車社会のあり方とは異なる提案となっており、広がれば、私たちの生活環境は変わり、これまでの人と車との付き合い方にも変化を促すに違いない。車に似た、環境に優しく、そしてドライブする楽しさを体験できる新たなヴィークルに、将来、若者たちが夢中になる可能性は否定できない。

街には、街の一部となるようデザインされた急速充電ステーションが設置され、ステーションでは、車を充電している間に携帯電話やパソコンの充電を行い、さらに、ドリンクやエンターテイメント情報を楽しめるようにする、という構想もあるそうだ。

電気自動車は、そして、ゼロ・エミッション・モビリティは、これまで体験したことのない新しい経験を私たちの生活に提供し、社会をどのように変えていくのか。彼らの挑戦を今後も興味をもって追ってみたい。

テキスト 東谷彰子
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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