インタビュー:Kevin Martin

20年に渡りシーンをリードするダブ界の重鎮、来日直前インタビュー

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インタビュー:Kevin Martin

King Midas Sound: (from left) Kevin Martin, Kiki Hitomi, Roger Robinson

Kevin Martinは決して妥協を許さない。2012年1月、彼はボーカリストRoger RobinsonとKiki Hitomiとのヘヴィーダブのコラボユニット、King Midas Soundとしてロンドンのビショップスゲート・インスティテュートでのライブを予定していた。しかし、ライブ当日、クラシック寄りのコンサートホールであり、アグレッシブなサウンドシステムに不慣れだったヴェニューに音量レベルを抑えるよう告げられた彼らは即座にキャンセルすることを決意した。後に彼らは「中途半端なライブをやるよりキャンセルした方がマシだ」とツイートした。

今日までの彼の歩みを知るものにとっては、これといって驚くような話でもない。1990年代初頭に元Napalm DeathメンバーのJustin Broadrickと組んだインダストリアル・ジャズコアのバンド、GODから痛烈なダブとダンスホール・レゲエプロジェクト、The Bugに至るまで、彼は20年にも渡りイギリスの音楽シーンを支え続けてきている。2008年にリリースされたThe Bugのアルバム、"London Zoo"がその当時、急激に広がりを見せ始めていたダブステップのムーブメントに飲み込まれた際も、彼はメインストリームになることを頑に拒んだ。その翌年、リキッドルームでThe Qemistsのサポートアクトをつとめた際は、演奏を始めてから数分でオーディエンスの半分が出口へと急いだ。

彼の残虐なサウンドがどのように捉えられているかを考えると、2009年にリリースしたKing Midas Soundのデビューアルバム、"Waiting for You"は考えあぐねて制作されたもののように思える。あからさまに攻撃的なサウンドというよりもむしろ、原点である不気味さが込められたものだったからだ。少なくともそのように聴こえるものだった。彼らのライブはというと、より一層圧倒的なものに進化した。ベースはまるで、とあるレビューにあったようにダブ版My Bloody Valentineだ。東京に居るのならば、6月8日(金)に開催されるイベント「HYPERDUB EPISODE 1」をチェックして欲しい。King Midas SoundはHyperdubのレーベルメイトであるKode9、Dean Blunt、Inga Copeland(Hype Williams)やDVAと共演を果たす。

今回、音量レベルについての心配は無用だ。ヴェニュー側は本イベントのために追加のスピーカーを用意する手はずを進めているからだ。


―ここ最近King Midas Soundのライブについてのツイートを追っているのですが、ライブレポートというよりも、むしろ戦地からのレポートのような感じですね。

Kevin Martin:King Midas Soundにいるってのは戦地にいるのと同じようなもんだね。敵がどんどん増えていって、行く先々でやり合ってるような感じ。自ら望んでそうなってる訳じゃないんだけど。自分がどんな環境にしたいか分かってるのにそれを楽しめなかったり、音を聴くって行為を一つの体験として楽しめない奴ら(ヴェニューとかプロモーター)がいけないんだよ。それで、ぐっとこらえて言われた通りにしなきゃいけないんだぜ。

―音量レベルの規制があるからなんでしょうか?

Kevin Martin:フランスではそうだね。他の国では…その国によるかな。俺たちのライブ、全部が全部大惨事って訳じゃないんだよ。大成功のライブも勿論ある。だからこそ、まだ音楽に情熱を抱いてるし。行き当たりばったりだったり、予測できなかったりするから。次にやるライブがどんなものになるかなんて想像つかないだろ。そのカオスを目の当たりにして、そこで何が起こるか見るのが俺の楽しみだね。

―その辺が他のエレクトロニックミュージックのアーティスト達と異なる点だと思いますか?常にでなくても、四六時中でなくても、コントロールはきいた方がきいた方がいいという人もかなり多いと思いますが。

Kevin Martin:そうだね。自分の音をどう表現したいか他の人よりもかなり強いこだわりがあるんだと思う。エレクトロニックミュージックをやってる俺の友人の中には気にしない奴らもいるけど。音楽を作ろうと思った最初のきっかけは攻撃的な音楽を聴いたからだった。そこからの俺の人生が変わったと言ってもいいと思う。もう既にライフスタイルの一部になってしまってるから、今更そのことに言及するのは野暮かもしれないけど。でも、音楽は俺の人生の中心にあるんだ、この世の中でたった一つだけ信用できるものがあるとしたら、それは音楽。

―ではそのあなたの人生を変えた音楽は?

Kevin Martin:まずはポストパンクを聴き始めて音楽を作るようになった。Joy Division, The Birthday Party, Crass, Throbbing Gristle, 23 Skidooら辺を聴いてたな。その後、Public Enemyのファーストアルバムを聴いた瞬間ぶっ飛んだね。ぶっ飛びすぎて頭が痛くなったくらいだ。「マジどうなってんだよ、これ?!」って。奴らのバックグラウンドとか、音楽的な知識が全くなかったから何をラップしてるのか分かんなかった。一聴して、「何だこれ?」って言うあの忘れ難い瞬間が必ずある音楽が、今まで聴いてきていいと思ったものに共通してることなんだよな。King Midas内でもそのことについてはよく話すんだよ。俺たちのライブに来てくれた人たちが「何だこれ?」って思うのは意図通りでかなり嬉しい。で、驚愕して少しだけその場を離れてくれたら更にいいね。俺にとって、音楽的に最高な瞬間ってそういうもんだから。




―初めてKing Midas Soundのアルバムを聴かせて頂いたのですが、まさか内蔵まで響き渡るようなライブ経験になるとは予想すらしませんでした。

Kevin Martin:俺たちもまさかそうなるとは思わなかったよ。

―実際そうなったのは驚きに値することなのでしょうか?

Kevin Martin:間違いないね。初めに何回かライブやって、すごく順調に行ったんだけど、それは俺たちのやりたいことじゃないって話をしてたんだ。場所的に音が散らばり過ぎてる感があったし、ただただ居心地がいいってだけで。ライブ会場を後にする人たちがプラスなこともマイナスなことも併せて話題にしてくれればいいと思ってた。何かしら忘れ難い印象を焼き付けたいなって。

―元々やろうとしていらっしゃったことと相反する結果になったような気がしないでもないですね。

Kevin Martin:確かに(笑)まさにそう。そもそも、このアルバムは親密性だとか、メランコリーとか喪失感がテーマだったんだけど、ライブはその真逆で強烈で圧倒されるも のだからね。圧倒されると言っても、張りつめた感情によるものなんだけど。それは全く質の違う衝撃だ。

―今回の来日時のラインナップを拝見しましたが、かなりいいですね。

Kevin Martin:クレイジーなツアーになりそうだな。俺たちと同じ位イカれてて妥協は決してしないHype Williamsと来日するからね。奴らと冗談でお互いのファンクラブを作ろうって話になってね。どっちがオーディエンスを驚愕させるか勝負しようとしてるんだ。Hype Williamsの奴らはさ、俺たちからPAも、照明も、反骨精神も全部いい意味で盗んでったけど、やっぱり最高のグループだよ。今回はKode9と Scratcha DVAも一緒だから楽しみだ。音楽的にもバックグラウンド的にもいい具合にミックスされた集団で。実際お笑いグループのツアーって言ってもおかしくないけどね。

―そもそもHyperdubのヘッド、Kode9とはどのようにして知り合われたのですか?

Kevin Martin:スティーブとはアルバム、"Pressure"をリリースしたくらいに出会って、アメリカの音楽雑誌、XLR8R向けにインタビューをしてくれた。すごく仲良くなってね、その当時オープンしたてのクラブ、FWD>>に連れてってくれたんだ。行った時は20人くらいしか人がいなくて、しかも客は ゼロで全員プロデューサーだったって状況。その中にSkream、Mala、Loefah、Bengaなんかもいて、そこで彼らとも出会ったんだ。全てはスティーブのお陰だね。

―このシーンがここまで盛り上がったのは興味深いですね。当初からいた面々と比べると、後からシーンに入ってきた人たちというのはあまり新風を吹き込んだようには見受けられませんが、その辺どうでしょう?

Kevin Martin:どのジャンルでも同じだよな。例えば、ジャングルからドラムンベースの流れだとか、ヒップホップが結局、ヒップホップ自身を食ってしまった流れのように、そのジャンルが進化すれば必然的にそういうことになる。最初に始めた奴らは色んなところからいいものをかき集めて、新しいサウンドを作り出す。その後に湧いて出るのはそれにたかるだけの寄生虫だ。




―The Bugのアルバム制作にかなりの時間を費やされてますね。コラボレーターのリストの中にポートランドのドローン・アーティストのGrouperがいたのは 意外でした。つい最近彼女のライブを観たのですが、The Bug+Grouperでどのような音になるのか全く想像がつかないのです。

Kevin Martin:そうなんだよ、彼女とは知り合いでも何でもなかったんだけど、偶然にもエージェントが同じだったんだ。それで、「Yo、俺The Bugやってんだけど、これがビデオのリンクだ。コラボしないか?」なんてメールを送ったんだ。返事は全く期待してなかったんだけど、クレイジーなメールが返ってきた。前の週に自分の母親に俺の'Skeng'って曲を聴かせたって言うんだよ。「ヤバい、この子はかなりアツい…」って思って、彼女宛にThe Bugっぽいリディムを7つ程書いたんだ。"Pressure"とか"London Zoo"を聴いてもらえば分かると思うけど、全部が全部ガツンと来る曲じゃないだろ。だからそんなスタイルをイメージしてもらえばいいと思う。でももっと スペイシーな感じ。タイトルは"Angels and Devils"で、攻撃的なサウンドとスペイシーなサウンドの違いとか、極端なサウンドとかやり方が聴いて取れるアルバムだと思う。

―とはいえ、あなたと彼女のライブセットにはまだかなりの隔たりがあるように思えますが…

Kevin Martin:彼女ってすごく繊細だよね。彼女のやることにある種の親密性を感じるんだ。真の感受性を持ってると言うか。素晴らしいよね。最近ロンドンで初めて彼女のライブを観たんだけど、全く妥協をしないところに衝撃を受けたよ。ものすごい静寂なんだけど、それは彼女が望んだものなんだ。対極にいた極端なことをやる二 人が出会うべくして出会ったって感じで、超クールだろ?自分と全くジャンルの違うことをやってる誰かと出会うのは楽しいし、それと同時に人の期待を裏切る のも楽しい。音楽業界にいると、面白くもない、深みもない漫画のキャラか何かのように仕立てあげられがちなんだけど、俺は絶対そんな風にはなりたくない。

―数年前のAdrian Sherwoodとのコラボが話題になりましたね。その後リリースされたと言う話は聞きませんが、その後進展はありましたか?

Kevin Martin:いや、結局やらないことにしたんだ。エイドリアンとは何度も話し合ったし、準備も進めてたし、一緒にやるはずだった。でも、近しい友人にそのことを相談して、「エイドリアンとのコラボ、"Bug in Dub"アルバムか、新曲素材、どっちが聴きたいか」って聞いた奴ら全員が即答で新曲素材って言ってきたから、コラボの話はやめにしたんだ。

―他のプロジェクトでのコラボは考えられたことはありますか?

Kevin Martin:エイドリアンと?そうだね、ものすごく腕のいいプロデューサーだからまた何か一緒に出来たらいいと思ってる。そうだ、それで思い出したけど、俺がインスピレーションを受けてる人は他にもいて、初期のOn-U SoundとかAfrican Head Chargeは最高だね。初期のOn-U Soundには心を持ってかれた。彼らの音楽がなければThe Bugは存在すらしなかった。

―"Pressure"と"London Zoo"を比較すると、かなり顕著な音質の変化が見られますね。次のアルバムでも同じような感じでしょうか?

Kevin Martin:King Midasに相当の時間を費やしたのは、The Bugからしばらく離れたかったからなんだ。The Bug自体、手に負えないモンスターのような存在になりつつあったし、ダブステップの流れにどんどんはまっていってたから。時間をかけて自分探しをして、 自分が一体本当に何をしたいのかを深く考えた。その結果、俺が好きなアーティスト達はやってることに対して継続性があるってことに気づいたんだ。いつもの俺の習性で、「そんなんクソ食らえ」って真逆のこともやろう思えば簡単に出来ただろうけど、それをやってしまってたら結果的に自分を騙すことになってたと 思う。"London Zoo"の出来にはかなり満足してる。自分の過ちはいつも把握してるし、次はそれを正したいって気持ちはあるんだけど、胸を張っていいと言えるトラックや、もっと進化させたいと思うサウンドがあのアルバムにはあるんだ。だから強いて言うなら、次のアルバムは"London Zoo"の限界を超えて、醜いものはアホらしいくらいに醜く、美しいものはより一層魅惑的にって感じだろうな。最終的にどうなるかは分からないけど、一応それがプラン。

―どのプロジェクトにおいても、作業を止めるポイントというのは、ご自身が100%満足されたときなのでしょうか?

Kevin Martin:何かに対して100%満足したことなんてないよ(笑)そんなこと不可能だろ。満足の追求、それが人生ってもんだと思う。何のこだわりも持ってない奴らから してみれば、こんなことどうでもいいんだろうけど、俺にとって音楽は気がふれた修道士の瞑想みたいなもんなんだ。パラレルワールドだ。窓の外の世界は完璧に狂ってるから、自分だけのパラレルワールドを作って物事を理解しようとしてる。俺が信じることが出来るのは音楽だけ。

―過去の作品を振り返って、今なら異なる手法でよりいいものが出来たと思うことはありますか?

Kevin Martin:(笑)あるある。自分でボーカルはやっちゃダメだな。それに気づくのにしばらくかかったよ。音程が全く取れないんだよな。ああ、もっと前にその事実に気づいてれば自分で自分を辱めることなんてしなくてよかったのに。でもここだけの話、俺が作った音楽を聴く奴らをイラつかせるのが当初の目的だった。俺自身のセラピーのためというか。今思うとあれは衝動でしかなかったな。何に対しても憎悪むき出しで、俺が作ったものを気に入ってくれるかどうかなんてどうでもよ かったから。だから、アルバムを出すたびに聴いてくれる人たちに対してどう意味合いを持たせるかがその後の俺への試練だった。

―その試練は乗り越えられたと思いますか?

Kevin Martin:(笑)いやぁ、分かんないな。今でもそれなりに好き放題やってるし。以前のように全てのものに対して敵意むき出しじゃないけど。うまい具合にバランスが取れて、悪いものと同じくらいの度合いでいいものがあるって気づくことができたならそれでいいんじゃないか?こんなこと誰かに打ち明けるのは多分初めてだと思うけど、もしかしたら俺はポジティブな人間になりつつあるんじゃないかって気がしてきたよ。ま、今日だけかもしれないけど。


※King Midas Sound は6月8日(金)、代官山UNITで開催されるHYPERDUB EPISODE 1に出演する

インタビュー ジェイムズ・ハッドフィールド
翻訳 さいとうしょうこ
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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