建築的観点から考える東日本大震災

既存建築物の80%を再利用して設計する建築家、青木茂に聞く

Read this in English
建築的観点から考える東日本大震災

未曾有の被害を生んだ東日本大震災を、建築の専門家はどう見たのだろうか。建築物もリサイクルする時代に入ったという発想から、独自に研究をすすめ、既存建築物の80%を再利用して、まったく新しい顔と用途を持った建物へと再生する“リファイン建築”の設計活動を続けてきた、建築家で、首都大学東京戦略研究センター教授、青木茂に話を聞いた。

地震のあった日はどちらにいらしたんですか?
青木:僕はあの日、昼間まで仕事で浜松にいて、その後、新幹線に乗って九州に帰る途中の広島で地震のニュースを聞いたんです。なかなか東京のオフィスと連絡がとれなくて、大変でしたね。

実際にニュースで地震や津波の被害を見て、どう思いましたか?
青木:すごい、絶望感に襲われましたね。人間は、自然の前では無力であると思うと同時に、ただやっぱり、そう思いながらも、やることはやらないと、進化がないと思うんですね。これは建築の話ではなくて、土木のジャンルになりますが、消波ブロックっていうのがあって、それの巨大なものができてくると思います。瞬間的に頭に浮かんだイメージがあるんですが、巨大な板状のものを、海に面して何枚かドミノのように並べて、波の威力を消していくというのができるのではないか。例えばこれが、通常は、波による発電装置になるとか、そういうことに応用されると、普段は人間のためになって、いざとなると災害予防のためになるような装置が開発されてくるんじゃないかと思うんですよ。

そういう板状のもので日本を囲んでしまう?
青木:囲むというより、津波がくる場所はだいたいわかりますから、そういう場所に立てておくと、原子力に変わるようなものになるイメージがあるんですよね。波を消す作用と、それがエネルギーに変わるような開発をしていければ良いと思うんです。

もともと津波が多い地域で、しっかりした防波堤があったにもかかわらず、何も残さずに津波がさらっていってしまった映像を見ました。
青木:結局、防波堤は、波を止める役割をするもの。だから、それではダメだということがわかったわけです。消すとか、弱める方法に切り替えないと、たぶん、限界があるんだと思います。手前で弱め、力を拡散する作用を持つもの。でも、そういう津波の被害にあった場所にも、所々に残っている建物があって、これから、それがどうして残ったのかという調査が行われていきますよね。なぜ残ったのかを調べることも、消波装置の開発につながっていくと思います。

今まで、そういう研究はされてきたんですか?
青木:知っている限りではないです。やはり、今までは、止めようと思ってきたんですよ。これからは、かわす、というしなやかさがないと、無理じゃないかと。それに、それ単体では莫大な予算がかかってしまうから、先にも言ったように、ほかの役割も持たせるのが良いですよね。

個人で備える、できることはありますか?
青木:建物の再生という仕事で、古い建物の耐震補強をしているわけですが、長期的に使えて、安全なものにしていかなきゃいけないんです。そういう意味で見ると、津波に対しては、ものすごい無力ですね。土木は、建築の何倍もの力を持っている。それが、あれだけ簡単に破壊されてしまうというのは、本当に、人類史上最大の災害だったんですよね。あんなに大きな、3つの県をまたぐような断層ができるなんて、想像もしなかったですよ。

私が、テレビの報道などを見ていて不思議だったのは、日本では最大級の地震で、津波もあったわけですが、世界的に見ると、4番目に大きな地震だったんですよね。日本のさまざまな建物が、マグニチュード8.0までは対応していたけれど、どうして、世界最大級のものに合わせた強度にしなかったんでしょうか。
青木:それは、日本の意思決定の曖昧さが露呈されていますよね。たぶん、僕はリファイニング建築をやっていますが、他の人がそれをできないのは、どこまでの強度にするか、決定するリスクを負いたくないからなんです。それがたぶん、8.0という数字を導き出した。これではダメだと、誰かが言えば、8.5にしよう、9にしようという意見が出てくる。安全性のリターンと経済性の兼ね合いをどうとるか。なんとなく合議制、平均をとってきたことが、いかに甘かったかということが、震災を経ての教訓だと思います。

青木さんのリファイン建築というのは、どのように建物の強度を強めるものなんですか?
青木:僕がやっているリファイン建築、再生の方法というのは、バランスをとるんですよ。バランスを整えることで、耐震を強める。形態的に、左右のバランスを良くしていくんです。

なぜそういう考えにいきついたんですか?
青木:僕ね、若い頃に、少林寺拳法をやっていたんですよ。整体って、右半身、左半身の身体を整えて、ひとつの身体をバランス良くしていくわけだけど、そこからたくさんのことを学んだんだと思います。人間の身体も、建物も、同じようなものじゃないかと。今のところ、建物というのは、重いほど弱いんです。だから、ひとつには、“減築”というのをやっていて、建物の重量を減らすんですよ。いらない贅肉を落とし、そこに、あらたに必要な筋肉をつけて強化していくイメージです。そこが、他の人と考えが違っているんだと思います。ただ単に、上から重ねて、強くしていくわけではないんです。
まぁだけど、やればやるほど、この耐震というのはキリがないので、折り合いをどこでつけるかの判断が必要ですよね。

自分の家の耐震強度はどうなのか、知りたい人はどうすれば良いんですか?
青木:専門家が家の図面を見れば、わかりますから。ただ、3日経っても答えが出せない人は、あんまり信用しない方が良いですね。基本的には、昭和58年に建築基準法が変わって、その後に作られた建物は、比較的安定していますよ。それと、もう1点、建物の中で人間が被害を受けるのは、家具なんですよ。つっぱり棒で支えたりとか、テレビを固定することも大切ですよね。それから、食器棚は、引き出しにするか、ロックがかかるものが良いですね。

テキスト 東谷彰子
※掲載されている情報は公開当時のものです。

タグ:

この記事へのつぶやき

コメント

Copyright © 2014 Time Out Tokyo