東京の名もなき支援者たち

小澤弘視(39) 僕らはベッドを持ってる、人が集まるところには情報が集まる

東京の名もなき支援者たち

小澤弘視 カオサントーキョー エグゼクティブディレクター

外国人バックパッカーに向けた宿、カオサントーキョーのエグゼクティブディレクター・小澤弘視。地震の発生から現在まで、その現場はどのような状況だったのだろうか。そして、地震発生後に立ち上げたプロジェクト、smile japanについて、小澤に話を聞いた。

いま、カオサン東京の予約状況はどのようになっているのでしょうか。

小澤:東京だけで300弱ほどベッドがあるんですが、半分ぐらいが毎日入れ代わるんです。通常だと90%ぐらいの稼働率なんですが、今は20%ぐらい。つまり、キャンセルが多いんです。その理由は色々あるんですが、なかには、「君たちは政府にだまされているから早く逃げなさい」とか、「東京でもまだ生きている人がいるんですか」とか言ってくださる方もいて(笑)。

海外からの問い合わせなども多いのですか。

小澤:3日前ぐらいにイギリスの新聞社から電話があって、うちに滞在しているイギリス人のゲストから話が聞きたいと。向こうもだいぶ混乱しているみたいでしたね。でもあとから考えてみると、誰が正しい情報を発信しているのかなんて分からないんですけどね。これから日本へ来ようとしている人も、いま滞在しているゲストの方も、そしてうちのスタッフだって混乱していましたからね。

smile japanプロジェクトを立ち上げられましたが、その目的はどこにあるのでしょうか。

小澤:大きくわけると2つあります。まず、正確な情報を出していきたい。キャンセルこそ増えていますが、今でも様々な方がこの宿を訪れてくれています。地震を経験したことなどなかった方から、スマトラ島沖地震で津波の経験をしたインドネシアの方まで。現実には、報道されているよりも多様な世界があるんです。そして、この状況を知ることができたため、安心してキャンセルをとりやめた方もいらっしゃいます。

もうひとつは?

小澤:安否確認ですね。うちのお客さんには、ツアー客があまりいないんですよ。なので受け皿がないので、安否確認が遅れてしまいがちなんですよね。そういった方々のために“安心”を届けたいという思いがあります。こういう状況なので、「東京は安全です」とまで言うつもりはないんですよね。僕らができるのは、お客さんが帰るところまで。せめて笑顔で送り出してあげたい。

では、国内のゲストハウスの現状はどのようなものなのでしょうか。

小澤:僕らみたいな外国人向けのところは壊滅的ですね。どれだけの数が1年持ちこたえられるかわからない。でもやれることは残ってると思うんですよ。宿屋としての選択は2つ。流れてくるお客さんのためにあけ続けるか、自分たちの生活のために閉めるか。ただ、まだこれからだと思うんです。国内にいらっしゃる外国人の方が、帰国するまでに滞在する場所も必要だろうし。うちはバックパッカー宿なので2段ベッドなんですが、体育館で雑魚寝よりはいいだろう、と(笑)。スタッフはみんな英語が話せるし。

ではこれから、この先にのためにはどのようなことができるのでしょうか。

小澤:これから風評被害などでますます大変になるでしょうが、一番の味方になってくれるのは、いま目の前にいるお客さんだと思うんですよね。このお客さんをケアして、無事帰るところまで送り届けてあげること、それが全てだと思うんですよ。

そうすることで、いつか帰ってきてくれる、ということでしょうか。

小澤:旅人の情報ってとても早く伝わるんですよ。FacebookやTwitterなんかなかった時代からそうなんです。宿屋にはノートがあってそれを媒介に人から人へと情報が伝わる。動いている人達ですから、それがネットワークなんですよ。宿はというと、情報が集まるハブですね。そういうことが上手にできる人たちだと思っているので、彼らにまかせたい。それが、宿屋としても近道だと思うんですよ。そのために、大事に送り届けてあげたい。

日本人として、何かできることはありますか。

小澤:外国人の方は、言葉が通じない上に、地震が初めてという方も多いんです。いわば、アウェイなんですよね。でもそんなアウェイの彼らがこんなにも落ち着いているということを知ってほしい。この人たちがこんなに笑ってるんだから、みんな落ち着こうよ、と(笑)。みなさんはいわばホームなわけじゃないですか。どこに行ったら何が買えてとか、避難場所ははどこだとか、分かってる状況じゃないですか。ちょっと食べ物なくなったからってあせらなくても大丈夫ですよ。落ち着いて下さい、と言いたいですね(笑)。

旅慣れている方は、そもそもこういった状況に強いんですかね。

小澤:旅をしていると、まず泊まるところを見つけなければならないんです。そして食べ物を見つけて、次に情報を集める。だからバックパッカーは強いですよ。

smile japan プロジェクトのこれからの展開を教えて下さい。

小澤:僕らはベッドを持ってるんで、人が集まるところには情報が集まる。キャンセル内容からも情報が得られる。“ハコ”としてやってますけど、半分はウェブビジネスなんですよね。コミュニティサイトとしての側面があるんです。だから、オン・オフとの接点として、目の前にいる人たちの姿をオンにのっけていきたいです。ただ、あんまりお客さんが減りすぎると、さすがに困ってしまいますけどね(笑)。


smile japan プロジェクト

このプロジェクトは、日本各地の宿泊施設から外国人観光客の笑顔を届けることで、正確な情報の届きづらい海外に向けて、外国人観光客の安否と日本の状況について正しく伝えていきたいという思いで運営されている。

Facebook:www.facebook.com/smilejapanproject
Twitter:twitter.com/keep_smile_jp

インタビュー Takeshi Tojo
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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