東京でベルリンのナイトライフ

『OSTGUT-TON』、テクノ/ハウスのベルリン“最深”サウンド

東京でベルリンのナイトライフ

いまやテクノ、そしてヨーロッパのハウスシーンのなかで、最も大きな影響力を持つ都市となっているベルリン。その源泉は、強烈にエネルギッシュなナイト・ライフの充実にあると言われている。そこで多くのアーティストたちや、気合いの入ったナイト・ライフの住人たちから支持を集めているのが『Berghain / Panorama Bar』である。テクノ寄りの前者とハウス寄りの後者、ふたつのフロアを持つこの場所は、撮影や取材を一切拒否し続けながらも、多くの人々を魅了してやまない。ゲイ・クラブということもあり、エネルギッシュなフロアを評して、80年代のニューヨークで伝説となったクラブ『パラダイス・ガレージ』の現代版と呼ぶ人すらいる。その評価には、多くのクラウドが押し寄せるであろうゲスト・アクトの充実ぶりはもちろんのこと、レジデントDJたちの充実ぷりも大きく影響している。

そしてこの『Berghain / Panorama Bar』を母体としたレーベルとして、これらのレジデント・アクトたちの作品を世界に送り出しているのが、レーベル『OSTGUT-TON』である。ここでリリースされるサウンドは、ある意味では現地に行けない人々が『Berghain / Panorama Bar』を垣間みられる唯一の手段でもある。そのクオリティは言うまでもないが、素晴らしく高い。

そして2010年8月13日(金)、14日(土)、『OSTGUT-TON presents Sound of Berghain / Panorama Bar』として、西麻布の『eleven』にて、この『OSTGUT-TON』のショーケース的なパーティが開かれる。『OSTGUT-TON』とパーティの紹介を通して、現在のベルリンの刺激的なシーンの一端を垣間みるため、レーベル・マネージャーであり、『Panorama Bar』のレジデントDJでもあるニック・ホップナー(リー・ジョーンズとのMy My名義でも活動)のインタビュー、そして8月14日(土)に出演するシェドにメールにてインタビューを試みた。特にシェドは2008年のファースト・アルバム『Shedding The Past』でUKの最新潮流であるダブステップと、ベルリンのテクノ・サウンドをミックスしてみせた新たな才能で、今後リリースされるセカンド・アルバム『The Traveller』への期待が高まっているアーティストだ。まずは、ニック・ホップナーに話を聞いた。


『OSTGUT-TON』のレーベル・ポリシーを教えて下さい。

ニック:そうですね、正直なところポリシーというほどのものはありません。約5年前にレーベルをはじめたのは、アンドレ・ガルッツィの『Berghain 01』というミックスCDを出すためだけでした。その数ヶ月後にマルセル・デットマンとベン・クロックが自分たちの楽曲を持ってきてくれたのですが、それが優れた作品だったのでレコードとして出したらいいのではないかと考えたのです。そこから、(クラブの)レジデントの作品を出すという考えが次第に固まってきました。それは今も変わっていません。

レーベルのリリースに関しては、そこまで多作ではなく、長いスパンで高い評価を得る作品を慎重に出していると思うのですが、実際のところはどうでしょうか?

ニック:最初の頃は、どのようなレーベルにするか、という目標も特になかったので、あまり深く考えていませんでした。ただ、レジデントのアーティストたちが持ち込むものを、そのまま出していたんです。ですから、自然の成り行きとして最初の2年間はリリース量も少なかったんです。でも今は少し変わりました。1年に5つのビッグ・プロジェクト(アーティスト・アルバムやミックスCD)を出していますし、12インチも1ヶ月に1~2枚のペースで出しています。量よりも質を重んじる姿勢は変わっていませんが、楽曲を制作するレジデントが増えたのです。その分、選択肢も多くなりました。シュテフィ(Steffi)も曲を持ってきましたし、アンディ・バウメカー(nd_baumecker)もサム・バーカー(aka Voltek)と共作した初EPを完成させたところです。

レーベル、そして関係の深い『Berghain』と『Panorama Bar』にしても、ベルリンのアンダーグラウンドなゲイ・シーンが大きな原動力になっていると思うのですが、この意見に関してはどう思いますか?

ニック:クラブ『Berghain / Panorama Bar』はもともとゲイ・クラブでした。ですから、クラブにとっては当然、ゲイ・コミュニティは重要なものですし、これからもそうあり続けるでしょう。一般的にも、ベルリンのナイトライフにおけるゲイの影響はとても大きいです。ここはそういう街なんです。ジェンダーやアーティスト、ミュージシャンといった区別は、ベルリンでは他の街よりも流動的なのです。他の街と比べると、その事実があからさまに表れているとも言えるでしょう。

あなたがたはクラブのレジデントを紹介するミックスCDを出してますが、昨今ウェブ上で溢れてるいるポッドキャストなどのミックス音源の配布について意見をお聞かせ下さい。

ニック:プラスにもマイナスにもなり得るものですね。もちろんポッドキャストはDJやレーベルを宣伝するのにとても役立ちます。その一方で、ミックスCDを作品としてリリースすることの意味がなくなってきています。少なくとも数年前と比べると確実にそうなっているでしょう。誰もが著作権侵害やそれにまつわる問題に、実際に直面するようになって来ています。ですが、プラスの効果の方に目を向けると、レコードのモノとしての価値が上がり、レーベルはより品質管理に厳しく、パッケージなどにも気を使うようになっています。DJに使い捨てされるような曲はデジタルだけで発表されるようになりましたから、石油の無駄遣いが減りましたね(笑)。私は、今は多くの人がダンス・ミュージックをより真剣に、アートフォームとして受け止めるようになってきたと思っています。より多くの人が大胆なことに挑戦し、タフなスタンスでリスクを負いながら取り組んでいます。

日本のアーティストに関して、興味はありますか?

ニック:本当に正直なことを言うと、ごく少数の例外を除いて、ベルリンにおいて日本のアーティストのプレゼンスはほとんどありません。特に、私たちのフィールドであるテクノ、ハウスにおいては。でも、私自身は日本の人たちの音楽に対する考え方にはとても興味を持っています。

東京という街についての感想、良いところ、驚いたところなどをお聞かせ下さい。

ニック:ベルリナーにとって東京を訪れることは様々な次元において、驚くべき体験です。どこから話せばいいかわかりません。私は2度日本を訪れていますが、素晴らしく楽しい時間を過ごしました。私はお客さんの、音楽に対する関心、好奇心がとても強いという印象を受けました。耳が肥えていますよね。それに、日本人のディテールへの配慮ともてなしは、信じられないくらい素晴らしいです。


さらに、Shedへのインタビューも行った。

はじめに衝撃を受けたテクノのアーティストは誰ですか?その出会い方、理由も教えて下さい。

シェド:テクノはラジオを聴いて好きになった。うちの家系にミュージシャンはいないんだ。

あなたの音楽はダブの影響も強いと思うのですが、はじめに衝撃を受けたダブ(ルーツ・ダブでもリズム&サウンドのようなエレクトロニックなものでも)は誰ですか?こちらもその出会い方をお教え下さい。

シェド:厳密なダブではないかもしれないけど、ベーシック・チャンネルは大好きで彼らの別名義を含めて全て好きだよ。彼らからはとても影響を受けた。

『OSTGUT-TON』とはどういう経緯で関わるようになったんですか? 実際に一緒に仕事をしてみてどうですか?

シェド:何度か『Berghain』でプレイしたことがあったのと、『Hard Wax』(ベルリンの老舗のダンス・ミュージック専門のレコード店)で同僚だったのでマルセル・デットマンとも仲良くなったんだ。彼がファースト・アルバムを『OSTGUT-TON』に持って行ってみたらどうかと提案してきて、『Berghain』の(オーナーの)ミハエルに話をしてくれたんだ。当初はそれがいいアイディアなのかどうかよくわからなかったけど、今はあのときそうして良かったと思う。彼らの方から、(Ostgutの)ブッキング・エージェンシーに加わるよう誘ってくれたから。それは全て理にかなっていたし、色んなことが楽になった。

あなたの新作『The Traveller』は、かなりストレートだった前作のデビューアルバム『Shedding The Past』よりも、明らかにカラフルで、サウンドもリズムも幅が広がっていますよね。意図的にそうしたんですか?

シェド:ああ、そうだね。僕の考えるアルバムは、こうあるべきなんだ。バリエーションが豊かなもの。ストレートにひとつの音楽をやるよりもね。それはつまらないから。

『44A (Hardwax Forever!)』という曲はどんな意味があるんですか?『Hard Wax』はあなたがつい最近まで働いていたレコード屋ですよね。

シェド:彼らに捧げる曲を作ろうと思っただけだよ。『Hard Wax』は重要な場所で、僕がダンス・ミュージックを聴きはじめたときから、とても重要な存在だった。

ベルリンという街は、あなたの作る音楽にとってどれほど重要ですか?

シェド:それほど重要じゃないな。ここに住んで、必要なものが常に周りにある状態はクールだ。でも、音楽を作ることにおいてはそこまで重要じゃない。逆にベルリンが邪魔をすることもある。常に色んなことが起こっているからね。

東京という街についての感想、良いところ、驚いたところなどをお聞かせ下さい。

シェド:一度しか行ったことないんだけど、巨大。僕にはちょっと人が多すぎる(笑)。そして、とても遠い場所。

8月14日の『eleven』でのライブはどのようなものになりそうですか?

シェド:4つ打ちでやるよ。ストレートなテクノ・トラックをプレイする。(彼の別名義である)WAXやEQDのスタイルだ。

Ostgut-Ton presents Sound of Panorama Bar / Berghain

『OSTGUT-TON』がレーベル所属アーティストでもある『Berghain / Panorama Bar』のレジデントDJ/アーティストを引き連れ、西麻布『eleven』にてショーケース・イベントを行う。1日目は8月13日(金)のProsumer、Tama Sumoを招いての『Sound of Panorama Bar』。こちらは彼の地のディープ・ハウス・サイドにフォーカス。そして8月14日(土)は『Sound of Berghain』と題してMarcel DettmannとライブにShed、そして『Berghain』の出演経験もあるDJ NOBUが登場する。

Ostgut-Ton presents Sound of Panorama Bar
日程:2010年8月13日(金)
ジャンル:ハウス
出演:[DJ]Prosumer、Tama Sumo、Chack(ANALSTATION/MISERY)、DSKE、Miyabi
場所:eleven(地図などの詳細はこちら
時間:22時00分オープン
料金:3500円 フライヤー持参3000円(ともに1ドリンク付き)

Ostgut-Ton presents Sound of Berghain
2010年8月14日(土)
ジャンル:テクノ
出演:[DJ]Marcel Dettmann、DJ NOBU、[LIVE]Shed
場所:eleven(地図などの詳細はこちら
時間:22時00分オープン
料金:3500円 フライヤー持参3000円(ともに1ドリンク付き)

テキスト 浅沼優子
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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