タイムアウト東京ブログ

文学に親しみたくなったら、BUNDANへ行こう。

駒場東大前の「日本近代文学館」内にオープンした『BUNDAN』は、さまざまなデザインワークとエディターワークを手がける「東京ピストル」が運営するブックカフェ。もともと入っていた館内の食堂がクローズしたところへ、“文学への入り口を広くする”をコンセプトに新たにスタートした。

たとえば、軽食やコーヒー、ビールやカクテルなどが書かれるメニューには、本好きであればニヤリとしてしまうようなものが並ぶ。村上春樹の「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」に登場する、主人公が最後の朝食として作るストラスブルグ・ソーセージを使った一品や、向田邦子の愛した料理を妹・和子が再現したレシピブック「向田邦子の手料理」に登場するビーフストロガノフなどが、作中の引用文とともにしたためられており、“読み”ながら楽しめるメニューとなっている。こうしたメニュー開発は、同社スタッフと㈱BeautybarでFood Producerを務める寺脇加恵によるもの。今後は、宇野千代の「そぼろカレー」や、池波正太郎の「ホットケーキ」などが加わる予定だ。

こうした料理メニューも魅力的だが、三軒茶屋にあるスペシャルティコーヒー専門店『Obscura』とコラボしたという、コーヒーのセレクトもなかなかユニーク。“鷗外”、“芥川”、“敦”といった文豪の名を冠したコーヒーは、豆の種類やその由来をそれぞれの作家のスタイルや時代背景と結びつけたもの。たとえば、森鷗外とマンデリンの組み合わせは、鷗外らが留学していた当時のヨーロッパでよく飲まれていた「ジャワコーヒー」に着想を得たもので、そのジャワコーヒーが現在スマトラ島で栽培される「マンデリン」へとつながっていくという、コーヒーの系譜を追ったストーリー性のあるものになっている。

また、やわらかな色調でまとめられた内装は、渋谷・神山町のキャンディショップ「パパブブレ」の設計で知られる関祐介氏によるもの。文学への興味をかきたてるようなデザインを意識しており、それが顕著に表れているのが、一見すると石畳のように見える床。実は、木製コンパネを縦に薄く切ったものをタイル状に敷き詰めたものなのだが、ひとつひとつのタイルを“文字”に見立て、その文字を横に並べていくことで“文章”を紡ぎ、それらが集まってひいては文学”となっていく、という見立て。合板ならではの不思議な色調が独特の表情を生み出してもいる、秀逸なアイディアだ。

同店の位置する駒場公園は、旧前田公爵邸跡。レトロな洋館や、こじんまりとしつつも趣味のいい庭園を配した和館は一般公開されており、秋が深まるこれからの季節に、散歩がてら訪れて、文豪へと思いを馳せながらコーヒーを一服、というのもいいだろう。


『村上春樹の朝食セット』は、ストラスブルグ・ソーセージのトマトソース煮込みがメイン。主人公の最後の晩餐(朝食)として作中に登場する


『向田邦子のビーフストロガノフ』


それぞれの料理が作品内で描写されている箇所の引用文も掲載されるメニューは読んでいて楽しい


『寺田寅彦の牛乳コーヒー』とはなんぞや? 気になった方は是非注文してみてください


文豪とコーヒーを紐づけたメニューもまた一読の価値あり


近くで見れば木だと分かるが、遠目には石畳のようにも見える、オリジナリティあふれる仕上げ


店内では、東京ピストルのバイヤーが目利きした、味のある文房具も販売。写真は、築地活字の「新・活字ホルダー」。価格はセットの内容によって18,200〜50,800円までさまざま

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