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2013年11月8日、渋谷駅の渋谷マークシティコンコースにある岡本太郎作『明日の神話』の年一回のすす払いが行われた。
『明日の神話』は、1968年〜1969年、『太陽の塔』と同時期に制作された、縦5.5メートル、横30メートルの巨大壁画。メキシコの事業家からの依頼で、新築ホテルのロビーを飾る為に依頼されたが、ホテルの建設が途中で中止になり、作品も行方不明になっていた。2003年にメキシコシティ郊外の資材置き場で発見され、大幅な修復作業を経て、2008年11月17日より現在の場所に恒久設置されている。
すす払いは 、設置翌年の2009年からはじまり、今年で5回目。NPO法人明日の神話保全継承機構の会員を中心に行われている。
作業が行われるのは、京王井の頭線の最終電車を見送ってから。そこから始発が動き出すまでの間に足場を組み、作業し、撤収までしなければならないので、実際にすす払いができるのは実質2時間程度、そのため4日間に分けて進められる。
作品をパネルの切れ目に沿い、横を14、縦を上中下の3つにブロックに分け、作業を行う。
記者が参加したこの日は3日目で、作品の左端、1、2ブロックが中心。
すす払いに用いるはけ。作品を傷付けないよう柔らかい毛が使われている。
遠目では分からないが、近くで見るとびっしりと埃が付着しているのが分かる。この埃はほとんどがここを通行する人の衣類から出た化学繊維だという。井の頭線の渋谷駅の利用客は1日に30万人というから、年間1億人以上が作品の前を通っていることになる。
光を当て、埃を浮かびあがらせながら、作業をする。片手にはけ、もう片方に掃除機を持ち埃を吸い取っていく。
吸い取った埃の中に万一絵の具が混ざっていても、どこの箇所のものか特定出来るよう、掃除機の紙パックはエリア毎に回収し、番号をつけておく。作業後すべてのほこりをチェックするという。
午前3時30分、この日の作業が終了し、参加者で記念撮影。
『明日の神話』の修復チームのリーダーで、すす払いの指導を行っている絵画修復家の吉村絵美留氏は、「『明日の神話』は、もともとホテルのロビーという人が行き交う場所の為に描かれたもの。渋谷駅は作品保全の場所としてはとても良いとは言えないが、美術館に飾られ、誰も観に来なくなってしまう作品が多くあるなかで、人々の目に触れつづけることができるのはとても良いこと」と話してくれた。
11月9日深夜で全作業が終了し、11月10日からは綺麗になった『明日の神話』を観ることができる。埃を落とすことで色彩が蘇り、特に赤は、鮮やかさがかなり違うという。見慣れてしまった人も多いと思うが、この機会に是非足を止め、じっくりと作品を眺めてみて欲しい。
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