ベルリンのエッジな音楽シーン

ゴールデンウィークに、ベルリンを拠点に活躍するダニエル・ベルが来日

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ベルリンのエッジな音楽シーン

2010年もゴールデン・ウィークに来日を果たす人気テクノ・アーティスト、ダニエル・ベル。カリフォルニア出身の彼は、カナダで学生生活を送った後、刺激的な音楽シーンに魅せられてデトロイトに身を置き、音楽制作を開始した。その後、リッチー・ホウティンらと共にミニマル・テクノの基礎ともいえるスタイルを確立し、DBX名義でも数々の名曲をリリースしてきた。2000年には拠点をベルリンに移し、DJとしても人気を博す。先日、2000年にベルリンのクラブ/レーベル『Tresor』から発表したミックスCD『Globus Mix Vol. 4 - The Button Down Mind Of Daniel Bell』が再発された。そして、5月2日は東京で、DBXとしてのライブツアーの最終公演を行う(現在のハードウエアを使用したセットはこれが最後となるそう)。そんな彼にダンス・ミュージックとベルリンの、2000年と2010年について語ってもらった。

あなたの10年前のミックスCD『Globus Mix Vol. 4 - The Button Down Mind Of Daniel Bell』が先月再発されましたね。作品が10年後に聴かれることについて、どう思いますか?今のオーディエンスも楽しめるものだと思えますか?

ダニエル:僕はそう思えるよ。ダンス・ミュージックというのはとてもトレンドの移り変わりが激しくて、様々なスタイルが流行っては消えて行くけれど、本質的には変わらない部分もある。タイムレスな要素というのかな。それを踏まえていれば、そこまで色褪せることはないと思うんだ。プロダクションの手法は変わるけれど、アイデアはそう大きく変わらない。僕は、このCDに収められている曲の多くは、そういう種類の曲だと思ってる。というか、いま聴かれている音楽と、それほど違わないとさえ思える。今リリースされたとしても、それほどみんな驚かないんじゃないかな。

実は私もそう思ったんです。もし、「これがダニエル・ベルの最新ミックスです」と手渡されていたら、そう信じていただろうと(笑)。今クラブでプレイされているものと、本当にほとんど変わらない。それは素晴らしいことですが、ダンス・ミュージックが10年間進歩していないということにもなりますよね?

ダニエル:全く同感だよ。ちょっと複雑な気持ちだね。

あなたが10年先を行っていたということでしょうか?

ダニエル:どうだろう、実際のところ、2000年からそれほど変化していないんじゃないかな。トレンドが移り変わっているように見えて、実は人々が惑わされているだけで前進していないのかもしれない。僕はそんな印象を受けるな。

今でも『Globus』(ベルリンのテクノ・クラブ『Tresor』内にあるセカンド・フロア)でプレイしていますか?

ダニエル:するよ。でも年に2度ほどかな。今は特にベルリンで定期的にやっているクラブはなくて、複数のクラブでときどきやっているという状態だ。

10年前はTresorでのプレイが最も多かったんですか?

ダニエル:そうだね。あの頃はTresorばかりだった。他のクラブでやった記憶はあまりない。Tresorはデトロイトと特別なコネクションがあったから、僕はたくさんいたデトロイトのレジデントDJのうちのひとりという感じだった。

現在のTresorはどんな場所ですか?

ダニエル:もう完全に確立されたものというか、全ての根源のようなものだよね。僕たちがやってきたことの原点というか、歴史が始まった場所だ。デトロイトとドイツを結びつけたのはTresorだったし、Tresorのおかげで多くのデトロイトのアーティストたちがヨーロッパで活躍出来るようになった。そういう存在だと思っているよ。ここをきっかけに、とても大きな現象が始まった。

あなたがベルリンに引っ越して来たのも2000年だったんですよね?

ダニエル:そう、2000年。もともとは、このCDをサポートするDJツアーをヨーロッパでやるというのがきっかけで、ベルリンにアパートを借りたんだ。ここを拠点に2~3ヶ月かけてヨーロッパを回ろうと思ってね。そして実際に3ヶ月程経ってツアーを終えたときに、「このままいようかな」と思った(笑)。特にデトロイトに戻る理由が思いつかなかったんだ。ここで起こっていることの方が、僕には共感出来た。ある意味、デトロイトでは失われてしまったものがここにはあるように感じられた。デトロイトには素晴らしい作品を作っている優れたプロデューサーはたくさんいたけれど、クラブ・シーンはどんどん衰退していた。でもここでは色んなことが起こっていて、関心の高い人、熱心なクラバーたちがたくさんいた。そこにとても魅力を感じて、「このままいよう」と決めたんだ。そして今も、あのときにその決断をして良かったと思っている。というのも、僕はアメリカ人DJとしてはここに初めて住み着いたうちのひとりだったから、周りはドイツ人ばかりだった。あの頃は、音楽の話が出来るアメリカ人のプロデューサーなんて他にいなかったから、ドイツ人の中に溶け込むしかなかった。今は、外国人が多いからそれぞれのグループを形成しているような感じになってる(笑)。

まさにベルリンは現在、世界のテクノ・キャピタルとなっているわけですが、それはあなたにとって喜ばしいことですか?それとも、大きくなり過ぎてしまったがため、失われたものもあると思いますか?まだこの街に魅力を感じますか?

ダニエル:ああ、確かにこういった音楽においては世界の中心だと思うし、それに異論を唱える人はいないだろう。ここから発信された音楽、トレンドが世界に広がって影響を与えている。その状況が、もうだいぶ長い間続いている。僕にとって少しほろ苦いのは、かつてアメリカの街(ニューヨークやシカゴやデトロイト)がそういう存在だった時代を僕は体験しているから、今ではそうでなくなってしまっていること。でも、今ここにいられることはやはり嬉しいし、素晴らしいのは、こういう環境を作り上げてきた人たちがとてもオープンに僕らのような人間も受け入れてくれること。その懐の深さが現状を作っていると思うし、依然としてベルリンはそのエッジを失っていない。もちろんシーンが大きくなって、変化してきたけど、今でも小さなクラブも無数にあって、アンダーグラウンドなものもたくさんある。だから、街の魅力が損なわれたと思うことは全くないよ。

ダニエル・ベル ライブ
DJ:Daniel Bell(7th City/Elevate)、Yone-ko(Runch/Mussen Project Records)、Masda(Toboggan)、Sackrai(Op.disc/Nrk/Minimood/Archipel)
日程:2010年5月1日(土)
時間:開場/開演23時30分
場所: ユニット(ヴェニューはこちら
料金:3500円、フライヤー持参で3000円

‘Globus Mix Vol. 4 - The Button Down Mind Of Daniel Bell’
2000年5月リリース(Tresor)

By 浅沼優子
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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