インタビュー:DJ KENTARO

日本が世界に誇るターンテーブリストがニューアルバムを引っさげ戻ってくる

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インタビュー:DJ KENTARO

2002年、ターンテーブリズムのシーンでは最高の栄誉である、DMC世界大会で優勝を勝ち取ったのは仙台出身の若干20歳の青年、DJ KENTAROだった。彼はアジア人初の優勝者であり、満点で優勝するという大会始まって以来初となる快挙を成し遂げ、その躍進は留まることを知らない。その後の優勝者である、Dopey、ie.MERGやNetikのように今となっては忘れられがちであるDJとは異なり、DJ KENTAROはスターダムにのし上がったのだ。

DMC世界大会優勝から10年、DJ KENTAROは現在、日本での大箱のクラブや音楽フェスティバルのフロアを賑わせている。今週末はageHaでのイベントのヘッドライナーをつとめ、来月末から開催されるフジロックフェスティバルではホワイトステージへの出演が決定している。彼の大きな魅力は、他のDJと違い、ターンテーブリズムのルーティーンである3分間を超えても十分楽しめるところだ。DJ時もライブ時もDJ KENTAROはテクニックをひけらかすだけの自己満足に終わることなく、オーディエンスを楽しませることを最優先する。

2005年、DJ KENTAROはイギリスのNinja Tuneとアーティスト契約を交わす。テンポの良いデビュー作、"ENTER"に続くセカンドソロアルバム、"Contrast"を今週、“ホーム”とも呼べるそのNinja Tuneよりリリースする。今作もデビュー作のスピリットをしっかりと引き継いだもので、Kid KoalaやD-Stylesとのスクラッチオフから、グライムとの絡み(Foreign Beggarsとのコラボ、Step In)、ドラムンベース(NORTH SOUTH EAST WEST)やダブステップ(Higher)に至るまでを網羅している。更に今回はアトモスフェリックなトラック、KIKKAKEを共同プロデュースした、DJ KENTAROが尊敬するシーンの大先輩である、DJ KRUSHと作業する機会に恵まれた。

―ファーストアルバムから5年という長いブランクを経てのセカンドアルバムのリリースということですが、いかがですか?

DJ KENTARO:そうですね、長いですね。やっとできたなっていう。その間ミックスCDとか、コンピレーションなんかは出してたんですけど、オリジナルアルバムは5年ぶりです。オリジナルアルバムって一曲一曲作らなきゃいけないからやっぱりすごく時間がかかる。だからサードアルバムも5年後かなって(笑)。

ファーストアルバムの"ENTER"が完成した直後は、セカンドもあまり期間をおかずリリースする予定でしたか?

DJ KENTARO:いや、考えてなかったです。ファーストもすごく時間かかったので。それのツアーをまわったり、ミックスCDを出さなきゃいけないって思って、'TUFF CUTS'ってレゲエのやつやったりとか、Ninja Tuneの20th Anniversaryとかちょこちょこトラックは作ってたんだけど、やっぱり全体的に一曲のストーリーとしてコンパイルするのは凄い時間がかかりました。それで2年前ぐらいから本格的に作り始めたので、「やっとできた!」って感じですね。

お疲れさまでした。アルバムの中で初めに手がけられたのはどの曲ですか?

DJ KENTARO:DJ KRUSHがやった'KIKKAKE'です。KRUSHさんが家に遊びに来て、デモを2トラック聴かせてくれたんですけどそれがかっこ良くて…どっちがいいかと聞かれて、選んだ方を元にビートを作って、シンセサイザーを入れて、あと鐘とか鈴の音とかパーカションとかいろいろ足してて、じっくりあたためて作っていきました。一番時間かけたのがこの'KIKKAKE'ですね。それで最後、KRUSHさんにチェックしてもらいました。最初の50%をKRUSHさんが作って、あとの50%を俺が作ったって感じですね。

では一番早く完成したトラックは?

DJ KENTARO:'BIG TIMER'かな?この曲はXLIIっていうアーティストと長野の白馬のスタジオで作って、2日ぐらいで仕上げました。とにかく1日でワッとある程度まで仕上げて、次の日、起きて作業を続けて、2日目でベーシックが出来たんです。これにラガMC入れたいと思ってたら、XLIIが「いいヤツいますよ」と。MC ZULUってシカゴのラガMCでメロディーも入れてて、すごくかっこいいヤツなんですよ。それで彼に音源を送ったらすぐ録音してくれるって言ってくれて、1ヶ月以内で仕上げてきてくれた。

今回のアルバムは"ENTER"と比べると、サウンドをかなり変えられてますね。初めから、「このようなアルバムを作りたい」という明確なビジョンはあったのでしょうか?

DJ KENTARO:そう、最初はダブステップだけのCDを作ろうとは思ってなくて…ダブステップ好きだし、ドラムステップもドラムンベースも好きだし、スクラッチというかターンテーブリズムぽいのとか、Kid Koalaとも一緒に作りたかった。最初50曲ぐらいになったから、そこから絞って15、16曲になったかな。それからフィーチャリングの人、Foreign Beggarsとかいろんな人に渡して…最初から「こういうアルバム」と決めていたというより、出来ていくうちにパズルがいろいろ組み合わさったという感じ。"Contrast"っていうタイトルも最後の最後に決めたし。だから、最初からコンセプトというのはあんまりなかった。

アルバム制作時はどのような音楽を聴いてましたか。

DJ KENTARO:4ツ打ちも聴いたし、ダブステップも聴いた。ラウンジミュージックとか、バンドも好きだし。最近ハワイに行ってて、そこのスーパーマーケットで買ったジャック・ジョンソンのコクアフェスティバルCDがめちゃくちゃ良かった。ハワイでやってるフェスで、ジャック・ジョンソンとか、ジギー・マーリーとか、そういうシンガーがいっぱい出てて、それもチョー良かった。でもこれを作ってるとき、多分、他の曲をそんなに聴いてない。ひたすら集中してたから。

確かにジャック・ジョンソン風というより、もっとアーバンなサウンドに仕上がっていますね。

DJ KENTARO:そうですね。クラブミュージックというのもあるし、ダンスミュージックというのもある。ベースミュージックだけって感じでもないし。でも、ダンスミュージックに括られるのかな。前半ベースが強いし後半はスクラッチだから、なんのジャンルなのか自分でも全然分かんない(笑)。

UKサウンドに影響を受けられていると聞きました。今回のアルバムの特に前半部にそれが聴いて取れます。どのようにグライムやダブステップを取り入れ、ご自分のものにされているのでしょうか?

DJ KENTARO:例えば'KIKKAKE'は、BPM70でダブステップとの同じぐらいです。三味線や鈴の音とかの“和の音”を入れたりして、面白く作った。この曲はけっこうアブストラクトになったな。ダブステップというよりもコラージュアートっていうか。気に入ってますね。あと、この'NORTH SOUTH EAST WEST'もMATRIX & FUTUREBOUNDをフィーチャリングして、ドラムンベースと俺のスクラッチをいろいろ混ぜ合わせて、これもすごくいい曲になった。FUTUREBOUNDはWOMBにDJしに来てて、俺も遊びに行ったんですけど、「ああ、久しぶり」ってなって。その2日後には家に来て、3日間集中して作業しましたね。FUTUREBOUNDのブレンダンはすごいナイスガイで仲良くなしました。MATRIXさんはイギリスにいたので彼にそのトラックを送って、ミックスダウンしてもらって、最後のスクラッチを足して完成しました。

テクノロジーの進化は素晴らしいものですね。

DJ KENTARO:本当にそうです、メールだけで何でもできますね。

以前にインタビューさせて頂いた際、まだSERATO等のテクノロジーがまだ演奏できるまでには進化してないとおっしゃっていたのを覚えています。それからだいぶ変わったと思いますか?

DJ KENTARO:変わりましたね。一つ大きいのは、海外を廻るようになってレコードを一箱以上持って行けなくなったこと。2004年のヨーロッパツアーは、気合い入れて4箱を持って行ったんですけど、成田空港で35万円かかるって言われました。それじゃヨーロッパツアー行けなくなっちゃうんで、それは無理だと(笑)。宅急便で送り返してもいいと言われたので、箱を全部開けて、どのレコードを使うか選びました。3箱位を東京の家に送り返して、一箱半位に絞ったんですけど、それでも5万円かかった。それで痛い目にあったんで、それからは一箱でやるしかないと。SERATOは荷物少なくできるので、そこもやっぱり理由にありますね。SERATOとアナログを両方使うようになって、50-50からだんだんデジタルが多くなって70-30になって、今はほとんどSERATOでやってアナログはほとんど自分でやってるルーティーンだけです。

去年のコーチェラ・フェスティバルはどのようなきっかけで出演されたのですか?

DJ KENTARO:コーチェラは急にメールが来たんです。ニュージーランドかどっかのフェスティバルに行ってて、リハーサルやってたら兄貴が「オッ!」って。「どうしたの?」って聞いたら「コーチェラからメール来たよ」って。俺知らなかったから、「何それ、美味しいの?」とか答えて(笑)。「あー、コーチェラね!」って分かって、やることに決めた。カニエ・ウェストも、デュラン・デュランも、スクリレックスも出るし、すごいフェスだから。いろんなショウも観れたし、お客さんとして楽しかった。俺もいつも通り自分のセットやって、すごい盛り上がった。初めてだし、「こういうことやってまーす」みたいなノリで、特別違うことはやらなかった。フライング・ロータスとスクリレックスもずっと俺のステージを横で見ててくれて。俺知らなかったんだけど、終わったら「スクリレックスもフライング・ロータスも見てたよ」って言われて。わざわざ違うステージから歩いてきてくれてすごく嬉しかった。フライング・ロータスもLAのブレインフィーダーっていうビックシーンに残ってる。彼とは会うと喋るし。ブレインフィーダーは今のLAシーンでかなりアツい。

スクリレックスは売れてしまったことで、最近かなりバッシングされているようですね。

DJ KENTARO:ちょっと飽きてきたよね…音いいし、最初は「スゲェやつが来た!」って思ったけど、少し飽きてきた。(スクリレックスのサウンドの真似する)あれは最初良かったけど、後からでもtoo muchになっちゃった。俺は大丈夫だけど、ベースミュージックあまり好きじゃない人は30分も聴けないと思う。俺はぜんぜん嫌いじゃないですけどね。

オーディエンスの盛り上げ方を良くご存知なのがライブを観て分かります。そのようなスタイルを昔から貫き通していらっしゃるのでしょうか?

DJ KENTARO:本当に若い頃、13~15歳くらいの頃は、ビデオとかテレビでスクラッチを見て練習してて、その後高校生になって“昼パー”っていうデイパーティーを開きました。未成年だから夜はダメだったので、昼間や日曜日にクラブを借りて、自分でチケット1000枚作って、高校生に売りまくったら、800人来てすごい盛り上がったんです。150万、200万が全部1000円札で積まれて、「DJって儲かる!」って思いましたね、高校生だから。で、パーティー終わったあと、「みんなで飲みに行くぞ!」って金をバラまいて。そんなピンプなことをやって、一旦はバトルDJを辞めて全然練習しないときもありました。昼パーの方が面白い、皆盛り上がってお金儲けてみたいな感じが。でもやっぱりそれは最初しか続かなくて、だんだんお客さんも減っていって、みんなDJも辞めてたりして、なんか違うなぁと。その時DJバトルのビデオ観て「すごい、やっぱりこっちのほうがかっけーじゃん」みたいな感じになりました。それから一気にターンテーブリズムにシフトし行って、すごい練習しました。最初クラブDJを目指してやって、その途中からターンテーブリズムにのめり込みました。キャリアをスタートしてからはずっと変わらないスタイルでやってるかもしれない。

ターンテーブリズムのシーンが小さすぎると感じたことはありますか?

DJ KENTARO:ターンテーブリズムはまだシーンが小さいです。ポップミュージックやハウスミュージック、例えばテクノなんかはヨーロッパですごくビッグシーンじゃないですか。ベースミュージック・シーンって日本の中でまだまだこれから成長していく感じだし。これからシーンをでかくしたいというのもちろんあるけど、やってる人も少ないっていうのもあって、ターンテーブリズムっていうのは意外と難しい。他のシーンが大きくなっても小さくなっても、自分のスタイルとしてはもう定着したから、俺はずっと続けていこうかな、と。RED BULLの大会とか、Thre3Styleという新しい大会も始まった。ああいう新しい動きはあるから、DJバトルというのはこれからも続いていくと思います。

では、ターンテーブリズム自体あまり重要視しなくなってしまったということでしょうか?

DJ KENTARO:いや、そんな事もない。今回のアルバムの曲も、ライブで例えば2枚使いしたり、スクラッチやったり、リミックスもできるし。新しいことを何かやっていきたいなと思ってる。例えば、後半の曲は全部スクラッチ入ってるし。Kid Koalaのやつとか。

今週末のageHaのイベントではLEDスクリーンを使われると聞きました。

DJ KENTARO:そう、LEDを入れてもらった。俺もKRUSHさんもみんな同じステージで、セッションもやるし、コラボレーションもやる。Fire Ballとか、Foreign Beggarsも来るし。Foreign Beggarsは初来日。Mighty Crownは初めてダブステップ・セットやる。ちょっとレゲエっぽいダブステップ。あとは全員女の子でDJやるステージ。ダブステップってやっぱりちょっと男っぽいから、そこに女の子DJを入れて、女の子のお客さん入れてやったりするのも面白いなぁと思って。お祭りというかフェスティバルっぽくしたいなぁと思った。

最後に、ちょっと変なことをお聞きしますが、憧れのKRUSHさんと初めて会われたときはやはり緊張しました?

DJ KENTARO:ライジングサンで一緒でした。僕が終わって、KRUSHさんがやってたんですけど、ステージ上で「僕あんまりしゃべんないけど、喋っちゃうかな」って急にマイクを持って話し始めて…チョー高い声で「DJ KENTARO、RESPECT」って(笑)。それが終わった後に、俺が楽屋で話しかけたんです。緊張した、確かに(笑)。


DJ KENTAROは、6月30日(土)、新木場 ageHaにて開催されるBasscamp 2012に出演する。セカンドアルバム、"Contrast"は6月27日(水)にBeat Records / Ninja Tuneよりリリースされる。

By ジェイムズ・ハッドフィールド
編集・翻訳 さいとうしょうこ
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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