世界で快進撃、A.MOCHI

東京、そしてテクノシーンの中心ベルリンで活躍する日本人DJ

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世界で快進撃、A.MOCHI

欧州における現在のテクノシーンの中心地となっているベルリン。なかでも最も高い影響力を誇るクラブが、『Berghain』だ。その『Berghain』のレジデントDJでもあるアーティスト、レン・ファキや、ベテランDJ、ルーク・スレイターなど、テクノシーンの重要人物に認められ、作品をリリースし続ける日本人アーティストがいる。A.MOCHI、これまでに海外のレーベルから多数の12インチをリリースし、2010年末にはついにレン・ファキのレーベル『FIGURE』からアルバム『PRIMORDIAL SOUP』をリリースした。「気がついたらこうなっていた」という彼の気負いのない言葉は、同じく世界を視野に入れて活動しようとしている若いアーティストにとって、ひとつヒントになるのではないだろうか。その気負いのない言葉の裏に見え隠れするのは、やはり音を楽しむ姿勢だ。音楽に対する愛とセンスがあればインターネットを介して、世界へと乗り出すことができる。A.MOCHIはそんな現在の状況を、その存在をもって証明しているかのようでもある。

そもそもテクノに出会ったきっかけは?

A.MOCHI:明確な目的があったわけじゃないんだけど、学生の頃、メタリカのコピーとかをやってて、そのときに割とドラムマシンとかはすぐ近くにあったんで、慣れ親しんでたんですよ。ちょうどその頃、90年代後半のクラブが盛り上がりはじめた頃だったんで、詳しい友だちに「こういうところあるよ」って連れて行かれて、なんとなくそれまで自分が知ってたドラムマシンの音と、テクノの音がちょうど合っちゃったんですよ。それでどんどん、そっちに行って。

遊びの延長ではまったわけですね。

A.MOCHI:それからフリーウェアで曲とかを作りはじめて。その後、不定期で友人に誘われてライブハウスのイベントなんかに出たりしてて。2000年超えたぐらいからは、よく遊んでた友だちが『MANIAC LOVE』の平日にはじめたレギュラーパーティに参加させてもらって。あのクラブによく遊びに行ってたので、やっぱりあそこのブースというのは立ってみたい場所だったし。で、それが定期的になって、それからですね。だんだんと、他のイベントなんかにもそのつながりで呼ばれるようになったり。本当に気がついたら毎月やってたというか。まだそのときは曲をリリースするということも考えてなかったですね。

リリースを考えるようになったのは?

A.MOCHI:それも自分で考えてたわけではなくて、そのときのオーガナイザーに「そろそろリリース出来るんじゃない?レコードになったらいいよね」って言われて。それからですね、曲作って、海外のレーベルなんかにデモを送るようになるのは。

単純に自分の楽しみとしてライブなどをやっていただけ、という感じなんですね。それはいつぐらい?

A.MOCHI:それが2003年くらいかな。ちょうどそのときはハードテクノをよく作ってて。で、やっと契約して出せるってなった時期には、『PRIME』(当時テクノなどのレコードを流していた大手のディストリビューター)の倒産の影響が残ってた頃だったんで、そのレーベルからは、「出したいんだけど、流通できないからレーベルの活動をやめる」って言われて。その頃、webでルーク・スレイターがレーベルをはじめるっていうのを見て、デモを送ったらすぐに返事が来て。リリースされたのが2006年とか2007年かな。実はその2、3年前にも(別で)契約が決まってたけど、そのレーベルが無くなってリリースされなかった曲が、2枚連続で別の知らないレーベルから出てたりして(笑)。ディストリビューターから(プロモが)送られて来てはじめて知ったりしたこともありました。

2000年前半はライブで地道に活動、後半は割とリリースのペースも良くなってきますよね。

A.MOCHI:12インチになるのは嬉しいし、せっかく曲作ってるなら続けて出したいなと思ってて。

ここ最近ではベルリンの『FIGURE』からのアルバムリリースがありましたが、主宰のレン・ファキとはどんな風に出会ったんですか?

A.MOCHI:もともとルーク・スレイターのレーベルから、また2枚くらいリリースしようって話があったんだけど、そこもアナログのディストリビューターが倒産して、また話が止まっちゃって(笑)。そのリリースのリミキサーの中に前から好きだったレン・ファキがいて、音源を聴いてみたら、割と自分とテイストが似てる部分があるなと思って、音を送ってみたら「『Ostgut-Ton』からミックスCDと収録曲をセットにした12インチを出すから、それに使いたい」って言われて。それがレン・ファキの『Berghain』シリーズのミックスCDだったんですよ。そのミックスCDは、当初よりもちょっと発売時期が伸びたんで、じゃあ、どうしようかってところで、何曲か加えて『FIGURE』から出せば、他の有名なアーティストに埋もれないし良いって話になって、それから『FIGURE』からリリースすることになりました。

ディストリビューター倒産などの“ピンチ”が良い方にころがってますよね(笑)。2010年秋にはヨーロッパでのツアーをされてましたが、日本との違いは大きいですか?

A.MOCHI:お客さんは日本で目立って騒いでいるような人たちが集まってるという感じで(笑)。あとは何時間でも黙々と踊り続けるひととか、日本で言うと『WOMB ADVENTURE』ぐらいの規模の、フランスのフェスにも出たんですけど、セキュリティに羽交い締めにされてつまみ出される人もたくさんいたりとか(笑)。でもどこもライブへの反応はすごくよかったです。

『Berghain』はどうでしたか?

A.MOCHI:普通に楽しかったです。でも、その前の週のフェスで、エイフェックス・ツイン、アダム・ベイヤー、クリス・リービングと来て、自分の出番、次が最後のレン・ファキっていうことがあって、しかも、その1万人規模の観客の前でライブをやったので、それに比べると『Berghain』はリラックスしてやれました。

そのフェスの並びはすごいですね。

A.MOCHI:『Berghain』では、DJが誰とか曲が何とか関係なく、ただ楽しんで踊ってる人ばっかりだったから。日本の大箱で目立って騒いでる人たちを集めたという感じで(笑)。基本的にはやりやすかったですね。そういえば、海外のクラブはお客さんが、ブースの方を向いてないって話が良くあると思うんですけど、わりとみんなこっち(ブース)の方向いてるじゃん、と思って。

ライブアクトというのもあるんじゃないですか?

A.MOCHI:いや、普通にDJでもそんな感じでしたよ。特にブースがちゃんとしている、ある程度大きいクラブだとわりとDJのほう向いて踊るんだなと思って。

海外での活動の後に日本に帰ってくると、なにか「やっぱり東京はここがおもしろいな、変わってるな」というような、改めて気づいたことってありますか?

A.MOCHI:24時間、気軽にコンビニとか、時間とか関係なく買い物できるのがすごいなと思って。郊外にいてもコンビニがあるし。それは改めてすごいなと思いますよね。

シーンのトップクリエイターの方のレーベルでリリースされてますが、彼らとの交流は?

A.MOCHI:レン・ファキとルーク・スレイターは、来日したときに会ってるんだけど、フランソワ(ケヴォーキアン)は、彼がいろんな人と握手してる中のひとりという感じでしかなくて(笑)。スヴェン・ヴァスもダブファイヤーも会ったことないんですよ。メールのやりとりしかしてなかったり。狙ってこうなろう!っていうのはなかったんですけど、自分のできる事をただ続けていたらこうやってリリースできてたってだけで、本当、気がついたらこうなってたという感じですね。

ちなみに、2010年末リリースされた、キャリア初のアルバムに関しては、作るときになにかテーマみたいなものは考えてました?

A.MOCHI:何曲か貯まったなかから選べれば良いなって考えてたぐらいで。ただこれを作ってたとき、曲の好みが変わってくる時期で、これまでとこれからの感じがアルバムには入ってますね。アルバムの1曲目のやつとかは、今後の作品に近いかもしれません。ごく普通のハードテクノというか。

ちなみにこのタイミングで出されたのは?

A.MOCHI:もともと、『FIGURE』でリリースした後に、ヨーロッパツアーをやるから次のリリースをしようって言われて。それから何度かヨーロッパツアーの話は出てたんだけど、上がったり消えたりして、やっぱりヨーロッパツアーをリリースツアーにする説得力を持たせるためにアルバムを作ろうって話になって。最終的にホームリスニング的な曲もなかったので、12インチ2枚組みの予定が12インチ3枚に分けてリリースすることになりました。

そういうダンスものとは全然違う曲調の曲も作るんですか?

A.MOCHI:いや、そういう曲を作ると途端にクオリティが下がるんで。

やはり人に出せるほど自身がある曲というと、こうなると。

A.MOCHI:そうですね。

今後は?

A.MOCHI:『FIGURE』から出たアルバムのリミックスが春に出る予定ですね。リミキサーはまだ秘密なんですけど、レン・ファキとかレーベルの周辺のアーティストがやってくれるようですよ。


『PRIMORDIAL SOUP』
A.MOCHI
発売中
価格:2310円
オフィシャルサイト:amochi.re-sound.jp/

出演情報
1月28日(金) LIVE 『Abend』@Trigram
2月 4日(金) LIVE 『Booze up presents Tech Grove』@eleven
2月11日(金) DJ 『ignite』@UNIT/SALOON

テキスト 河村祐介
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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