東京近郊、紅葉狩り電車

青梅線、秩父鉄道、小湊鉄道、水郡線、小海線、紅葉の見頃に電車の旅

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東京近郊、紅葉狩り電車

紅葉前線が日本列島を南下している。あの猛暑を記憶の片隅に押しやるほどの涼しい毎日、木々が色づくシーズンが到来した。厳しい暑さは紅葉の色を鮮やかにするというだけに、今年の紅葉には期待が高まる。ここでは、キップ1枚で、車窓から楽しめる紅葉シーンを5つ選んだ。時間をみつけ、ぜひ足を運んでほしい。()内はモミジの見頃となっている。

青梅線(11月上旬から)

中央線の青梅特快で都心から1時間半ほどで青梅に着く。東京の水源である多摩川はこの街で広い平野に踊り出るが、きれいな紅葉はここから遡ったところにある。奥多摩行きの電車に乗り換えて進むと“青梅”の名の通り、多摩川が削った段丘に沿う梅林がいくつも見えてくる。短いトンネルをくぐれば、車窓左側に多摩川がぐっと近づく。軍畑(いくさばた)駅を過ぎれば渓谷の様相が深まってくる。ここから御嶽(みたけ)駅までの10分弱は『御岳渓谷』と呼ばれるゾーンで、狭い谷あいに青梅線の線路、道路が2本走っている。遊歩道も設置されているので、のんびりと歩きながら紅葉を楽しむのもよい。御岳渓谷には東京で最も大きな醸造所『小澤酒造』があり、見学やきき酒ができる。青梅線はさらに狭い谷を進み、鳩ノ巣渓谷を過ぎれば終点、奥多摩駅。青梅から20キロメートル、35分ほどの紅葉電車の旅。一駅ごとに遊歩道や日帰り温泉もあり、行きに気になる区間をチェックして、帰りに途中下車して歩くというのもよいだろう。

秩父鉄道(11月上旬から)

埼玉県の北部を東西に貫く秩父鉄道。紅葉が特に映えるのはその西側部分だ。ここでは、秩父山地に割り入る寄居(よりい)駅からの車窓を紹介する。池袋から東武東上線で1時間半ほどの寄居は、荒川が若々しい表情からややゆったりした大人びた風景に変わる街だ。秩父鉄道に乗り換え、三峰口(みつみねぐち)方面へ進むと、すぐ両側に山が迫ってくる。およそ15分、車窓左側で濃い緑色をたたえた荒川の水面が白くせわしくなってくると、関東有数の景勝地・長瀞(ながとろ)だ。ここから隣駅・上長瀞(かみながとろ)まではぜひ歩いてほしい。5分ほど歩けば、ゴツゴツとした岩の河原、その名も“岩畳”が広がる。その黒々とした岩畳を縁取るようにモミジやカエデが映える。水と岩と緑、盆栽を現実に持ってきたような風景を楽しんでいると、30分ほどで上長瀞駅に到着。駅近くには天然氷と天然素材のシロップが有名なかき氷店『阿佐美冷蔵』もある。上長瀞から進んで秩父から先ではさらに山深さが増し、紅葉のスケールも一気に大きくなる。休日にはSL列車も走るのでタイミングを合わせて乗ってみるのも、写真を撮るのもよいだろう。また、1日乗り放題のキップ(1400円)もある。山間の終着駅、三峰口駅前にある『柴崎製菓』の草もちはヨモギの香りが素晴らしいが、数に限りがあるので早い者勝ち。

小湊鉄道(11月中旬から)

関東でも温暖な、千葉・房総半島でも紅葉は楽しめる。都心から総武線、内房線で1時間ほど、京葉工業地帯の中心にある五井(ごい)駅から出ている、全長40キロメートルほどの私鉄・小湊鉄道。海のイメージが強い房総半島でも、山の雰囲気を味わわせてくれる路線だ。サイクリングが好きな方は休日の利用をおすすめする。朝夕に、自転車を追加料金なしにそのまま載せることができる“サイクルトレイン”が運転されているのだ。五井から20分ほどはいくつもの丘に広がる住宅地、ゴルフ場の合間を縫うようにして進む。上総牛久(かずさうしく)をからは房総山地を源にする養老川に沿うようになる。上総鶴舞(かずさつるまい)、里見(さとみ)、飯給(いたぶ)と続く駅は小さな木造で、鉄道や地元の人によって大切に整備されているのが伝わってくる。古きよき鉄道の情景は多くの映画やドラマのロケ地としてもおなじみだ。養老川の水面を紅葉した木々が覆うようになってくると、終点のひとつ手前、養老渓谷(ようろうけいこく)駅。ここには無料の足湯もあってリラックスできる。短いトンネルを抜けると終着、上総中野(かずさなかの)駅。ここで自転車を下ろし登ってきた緩い坂道を下りつつ、沿線の紅葉サイクリングを楽しんでほしい。徒歩の場合は養老渓谷で降りて遊歩道を散歩することをおすすめする。

水郡線(10月下旬から)

上野駅からJRの特急ひたち号で1時間ほどの水戸から出ている水郡線。郡山までの150キロメートルを3時間半ほどかけて結んでいる路線だ。田畑や住宅地、雑木林といった里山の風景を進み、水戸から30分ほどの常陸大宮(ひたちおおみや)を過ぎると、車窓右側に久慈川の流れが近づいてくる。川を挟む谷あいの紅葉はもちろんだが、河原、渓谷、小さな滝とさまざまな表情を見せる久慈川を眺めるのも楽しい。線路と川はもつれ合うように進む。水戸から1時間少々で袋田駅。日本有数の規模を誇る、高さ120メートル、幅70メートルの4段という袋田の滝の最寄り駅だが、ひとつ先の常陸大子(ひたちだいご)駅まで進んでしまおう。常陸大子には無料のレンタサイクルがあるのだ。滝まではおよそ30分の道のり。アップダウンはきつくないので快適なサイクリングが楽しめるはず。滝を十分に堪能したら、袋田温泉で疲れを癒やすのもよいだろう。水郡線は2時間に1本ほどというローカル線だが、そのスローなペースが生み出す、人の手があまり入っていない紅葉を楽しめるはずだ。

小海線(10月中旬以降)

純粋に雄大な景色を楽しみたい方にオススメするのが小海線。行き返りで違う風景を楽しんでもらうため、ループ型のコースをおすすめしよう。東京から長野新幹線で佐久平(さくだいら)駅までおよそ1時間。ここから山越えの旅が始まる。東の空には長い裾野が特徴の浅間山がそびえる。活火山ゆえに頂上からは噴煙が見えることも多い。浅間山を背にして八ヶ岳の東端を越えていく小海線は、八ヶ岳高原線とも呼ばれている。スタートからすでに標高600メートル前後だが、そこからさらに登り続け、40分ほどで1000メートルを超える。ふもとはモミジやカエデが広がるが、1000メートル前後になると紅葉というより黄葉の白樺林の中を走り抜けるようになる。こうした高原の環境を守るために、JR東日本では世界にほとんど例がない、ディーゼルで発電してモーターで動力を得るハイブリッド型車両を走らせている。上り勾配が緩くなるとそこは日本の鉄道で最も高い駅、標高1375メートルの野辺山(のべやま)だ。日本の鉄道駅で標高の高い駅の9位までが小海線に存在する。高原リゾートで有名な清里を過ぎると、今度はダイナミックなカーブの連続で下っていく。天気のいいときは富士山を望みながら、紅葉した八ヶ岳の裾野を滑り降りていく感覚は、小海線ならではの日本離れした雄大な風景だ。終点小淵沢からは、中央本線の特急あずさ号で、新宿まで2時間ほどだ。

テキスト / 撮影 西澤史朗
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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