TEDxKids@Chiyoda インタビュー(3

アートプロジェクト:タッチー

TEDxKids@Chiyoda インタビュー(3)

未来を作る子どもたちと、子どもの環境を作る大人たちに向け、驚きと発見そして新たな疑問と希望を見出す場を提供する『TEDxKids』が2012年10月28日に開催された。事前インタビューに応じてくれたセカンドハーベスト・ジャパンのチャールズ・マクジルトンや、クリエイティブ・コモンズのドミニク・チェンなど、さまざまな思想家や活動家がアイディアをプレゼンテーションし、アーティストたちによるパフォーマンスが披露された。イベント当日、子どもたちを興奮の渦に巻き込んだのが『TOUCHY(タッチー)』だ。

タッチーは、香港出身のニューメディアアーティスト、エリック・シュウによるアートプロジェクトで、人と人との関係性、相互のインタラクションに注目した実験でもある。エリックが開発したヘルメット型のヒューマンカメラのタッチーは、ただかぶった状態ではシャッターがしまっていて、何も見ることができない。誰かがタッチーに触れた時だけシャッターがあき、物を見る事ができる。そして、誰かが10秒間タッチーに触れ続けると、シャッターがおり、その楽しい瞬間の写真を撮る。タッチーとは何か、まずはこの映像を観てほしい。

―『TEDxKids』でのパフォーマンスはどうでしたか?

エリック:素晴らしかったです。子どもたちはみな興味津々で、すごく興奮して、プロジェクトに対する反応はとっても面白かった。漫画のようにとらえていたのかもしれない。大人たちよりずっとクリエイティブで、肌に触るとシャッターがおりるってわかると、ズボンの裾をめくって足に触れたり、目をつつかれそうになったりもしたよ(笑)大人みたいに遠慮しないのが良いよね。

―子どもの頃、どんな大人になりたかった?

エリック:漫画家になりたかった。ドラゴンボールが大好きで、悟空は僕のアイドルだったよ。アニメーションを学校で学んで、メディアアートスクールにも通ってトレーニングを積んで、その後でデバイスメイキングも勉強した。それら全てが融合されているのが、今の僕のプロジェクトになっているんだよ。タッチーのヒーロー性は、日本の漫画からきているんだ。

―タッチーはどうして生まれたんでしょうか?

エリック:シャイボーイを助けたいんだ(笑)。

―そのシャイボーイは、エリック自身のこと?

エリック:アイディアは、僕自身の経験に基づいているけど、僕自身というより、現代のキャラクターを形容している。僕は2010年9月に東京に来て、もう2年経つけど、日本語ができないからとてもシャイになることもあって、そうすると、PCやモバイルでのコミュニケーションに頼ってしまうことがある。そういう経験が、タッチーのコンセプトを考える上で影響しているのかもしれない。タッチーは、コミュニケーションの手段だからね。

僕は香港出身だけど、香港では「カメラが先に食べる」っていうくらい、皆が食事の時に料理の写真を撮る。それで、フェイスブックとかツイッターにポストする。それは日本でも一緒だよね。だけど、そうしている間に、一緒にご飯を食べている友だちとの時間を失っていると思う。僕はテクノロジーが大好きだし、ソーシャルネットワーキングを否定するつもりは全くない。だけど、現実の世界にいる人とのコミュニケーションは絶対に忘れちゃいけないと思うんだ。テクノロジーを使って、現実にいる人とのコミュニケーションを提案したいと思っている。

―タッチーは日本で生まれたアイディアなんですか?

エリック:東京に来る少し前から、触れることと見ることに関するインスピレーションはあったけど、まだ具体的ではなかった。東京大学に、このプロジェクトでコラボレートしている早川智彦という人がいて、彼と会話を重ねることで、アイディアがかたまっていった。彼らはタッチセンサーの実験がしたかった。僕は、東京で引きこもりの事実を知って、ソーシャルアイソレーションを、テクノロジーで解決したいという思いがあって、コンセプチュアルな部分が具体化した。 だけど、触ってくれると僕は見える、っていうだけでは、僕に触れる理由がない。ギブ&テイクは大事だからね、与えた時に、何が返ってくるかを考える。僕は、思い出をカメラでおさめることができる。タッチーは、触れられると見えるから、触ってくれた人に感謝する。その姿を写真に撮ってみせることで、感謝されるっていう、お互いにパワーを与え合うコミュニケーションをつくり出した。

―開発にはどれくらいの時間がかかったんですか?

エリック:コンセプトディベロップメントが終わって、スケッチやデザインを始めたのが2011年の1月。実際にタッチーが出来上がったのは、2012年の9月だよ。出会いにも恵まれて、このプロジェクトをリードしてくれるアーシャ・スクビシュが加入してくれて、9月に完成して早々に『HARAJUKU KAWAII!!!!』や『TEDxKids』でパフォーマンスさせてもらった。次に行きたいのは老人ホーム。こういうコミュニケーションって、年老いた方々にも良いんじゃないかと思っている。もう、他者のためにできることは何もないと思っている人がいるかもしれないけど、まだまだ人のためにできることはある、自分自身にまだまだ価値を感じてほしいし、孤独を感じている人に、もっと外に出てほしいと思うんだ。例えば、スーパーマーケットに一緒に行きたい。タッチーはひとりでは何も見えないから、年老いた手で僕に触れて、きれいに並んだ野菜や果物を見せてほしい。そして、人の心にどういう変化があるかを見たいんだ。


―実際にタッチーに触れた人の反応はどうですか?

エリック:ユーモアがあるガジェットを発表するには、日本は最高の場所だよ。すごく好意的に受け止めてくれる。日本では人に馴れ馴れしく触れるのがタブーとされているって聞いたんだけど、そういう文化の中で、人に触れる楽しみを提供してもらえることが嬉しいって言ってもらえたことがとても良かったよ。あと、アイコンタクトも。日本人は、話す時に人の目を見ない人がとても多いから、そういう面でも、感謝されることが多い。 来年は、上海や、台北のミュージアム・オブ・コンテンポラリーアートでやろうと思っていて、どんな反応があるか、とても楽しみだよ。

―海外での活動の他に、これからしたいことはありますか?

エリック:さまざまなメディアとミックスして、広い層にアプローチしていきたいと思っているよ。ゴールは、3つある。まず、タッチーを商品化したい。いまは、僕がかぶっているひとつしかないけど、もっと増やして、あちこちにタッチーがいるようにしたい。触れる理由ができるから、合コンにも向いているかもしれないよ(笑)。 それから、ストーリーをどんどんつくって、タッチーのアニメーションを増やしていきたい。プロデューサーのアーシャがストーリーを考えて、僕が絵を描く。実は今、タッチーのほかに、マーガレット タッチャーというキャラクターがいるんだけど、マーガレットはアーシャが演じている。タッチーがシャイだっていう話はさっきも話したけど、マーガレットは、とっても好奇心旺盛で、いろんな事を見て聞いたりするのが大好き。型にはまらない沢山のアイディアで、彼女はいつも忙しいんだ。でも、ひとりで世界を見るより、誰かと分かち合えた方が楽しいって気づく。そんな時に出会ったのが、ひとりでは何も見えないタッチーだ。シェアする喜びを知って、ふたりが仲良くなるのに、理由はいらないよね。 もちろん、マーガレット タッチャーも一緒にライブパフォーマンスもし続けたい。ソーシャルリサーチにもなるし、その経験がリアルなアニメーションになっていくと思う。 ヒーローはファンタジーでイマジネーションだけど、タッチーはそういうヒーローではない。タッチーはリアルな世界に存在して、リアルから生まれたことがとても大切だと思うんだ。僕はね、アートは、リプロデューサブルであってはならないと思っている。リアルな経験や思い出は、再現されない、その時だけのもので、リプロデューサブルではないでしょ。これって、桜にも似た感覚だと思うんだよ。



タッチーのアニメーション

インタビュー・テキスト 東谷彰子
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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