写真:都築響一
2012年10月18日 (木) 掲載
最近、東京の街なかを異様な巨大オブジェが走り回っている。迷彩色のハマーが引っ張るトレーラーに、「さあ、いらっしゃい」とばかりに両腕を上げた、女のロボットが2体。それが大通りを、まったく説明のないまま、ただ走りすぎていく……。歌舞伎町にオープンした『ロボットレストラン』の宣伝フリートだ。
新宿・歌舞伎町の超一等地に2012年7月、いきなり姿をあらわしたロボットレストランは、ロボットがサービスしてくれる未来型ハイテク・レストランかと思いきや、実は肌もあらわなセクシー美女たちが踊りまくる「ロボット&ダンスショー」が楽しめる、シアターレストランというかショーパブなのだ。
シアターレストランというと、その最高峰はラスヴェガスとか、パリのクレイジーホースみたいなことになるのだろう。完成されたエロティシズムとしての、オトナのエンターテイメント空間。ロボットレストランはそういう西欧的な官能美学を、まったく目指していない。むしろ手づくりの楽しさ、手の届きそうな、かわいらしいエッチ。そういうゴールがちゃんと見えるプロデュースをしていて、それが僕にはすごく新しく見える。
たとえば中盤ごろに「セクシー鼓笛隊」のコーナーがある。超ミニ・ユニフォームを身につけた鼓笛隊が、実際に楽器を演奏しながらフロアを練り歩くという楽しい趣向だ。このパフォーマンス、実は元ネタがある。イタリアのDJ、アレックス・ガウディーノが、あのクリスタル・「ラ・ダ・ディ~、ラ・ディ・ダ♪」ウォーターズをフィーチャリングした『Destination Calabria』のPVだ。
両方を較べてみれば一目瞭然だが、ガウディーノとロボレスはものすごく似ていて、ものすごくちがう。ガウディーノのPVに出てくるパフォーマーたちは、それは完璧な肉体に完璧なコレオグラフィで、官能的ではあるけれど、ドキドキはしない。
ロボレスの鼓笛隊だってすばらしくフィットした肉体で、かわいくもあるけれど、やっぱり日本人のプロポーションだし、プロのパフォーマーとしてトレーニングを積んできたわけでもないだろうから、PVに出てくる欧米モデルのように完璧じゃない。身長はたぶん20センチぐらいちがうだろう。でも、それが逆に、すごくドキドキする。知り合いのきれいなお姉さんが、汗びっしょりで熱演してるみたいな。
これがもし20年前のバブル時代だったなら、ロボットレストランはまったくちがう形式になっていたはずだ。外国人の振り付け師とダンサーを呼んで、クレイジーホースみたいなダンスをさせて、VIPシートを置いて、シャンパン飲ませて……というような。
でも、2012年のロボットレストランはそんなふうにならなかった。席は小さなスツールでキツキツ。弁当はコンビニレベル。でも、料金はたったの4,000円。おいしいもの食べたかったり飲みたかったり、女の子と一対一で遊びたかったら、外にいくらでも店はあるのだし。そういうポスト・バブル的な環境を見据えた、「手の届きそうな極楽」という経営戦略が、すごく現代的というか、現代日本的に思える。
真空保存された「伝統舞踊」でもなく、とっくの昔に大衆から遊離してしまった「現代舞踏」でもない。いま日本に生きるキッズたちの、ストリート・レベルのパワフルなパフォーマンスを見たければ、僕はこのロボットレストラン以上にふさわしい場所を思いつかない。どんなクラブよりも、ダンスフェスティバルよりも。そしてもちろん、歌舞伎座や能楽堂なんかよりも、はるかに。
・都築響一オフィシャルサイト www.roadsiders.com/
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