インタビュー:ジルダ&マサヤ

「日本にはトレンドなんてないんだよ」とKitsuneの創始者たちは語る

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インタビュー:ジルダ&マサヤ

Photo by Bastien Lattanzio

「どうして新しいブランドを作るのかい?」と尋ねるのは、研ぎすまされたレトリックを流暢に話すジルダ・ロアエック。「なんで新しい音楽レーベルを作るのかって?」Kitsuneの創始者の一人として、きっと今まで何度もこんな質問を繰り返してきたのだろう。ジルダと建築家の学生だったマサヤ・ クロキが2002年にKitsunéを開始してから、このフランスの音楽&ファッションのブランドはとてもユニークな道のりを歩んできている(ちなみに彼らはファーストネームだけで呼ばれるのが好みのようだ)。彼らの音楽活動に関して言えば、ロックとダンスのジャンルをオーバーするアクトで高く評価され、Simian Mobile Disco やTwo Door Cinema Clubがヒットナンバーとなったほど。ファッションでの活動では、カシミア好きのクラブで踊ることに情熱を燃やす人たちにアピールするような成熟したイメージのスタイルで地位を獲得している。え?ちょっと混乱してきたって?ちょうどageHaでのライブの為に来日していた彼らに時間をもらい、ジルダとマサヤにじっと座ってもらい、 Kitsunéの作り上げた壮大な世界について、じっくり説明してもらった。

Kitsuneの最新コンピレーションアルバムは『The Indie-Dance Issue』とサブタイトルがつけられていますが、 インディーダンスという意味では、数年前のKlaxonsが既にそういう感じでしたよね?
ジルダ: わからないな。それって ハッピー・マンデーズ が前にやったのと同じようなこと?

おそらくそういった周期がどんどん早くなっているんでしょうね
ジルダ: きっともうそこには周期なんてないんだよ。日本なんて、全くトレンドなんて存在していない。全てのスタイルがそこには存在し得る。月曜にはロックに扮して、火曜はヒップホップ、水曜にはプレッピーを身にまとう。そこにはサイクルなんてないんだ。

(マサヤに対して)デザイナーとして、同じように感じていますか?
マサヤ: メディアやマガジンが多すぎることがひとつの問題なんだと思う。日本では、ファッションや音楽に興味のある若者がどのような格好をしているかについて、過剰にコミュニケートされている。日本に存在する雑誌なんて、そんな感じだよ。「ほら男の子たち、これを見なさい。女の子はこれを見なさい」みたいな感じで。平たく言えば、別にそんな集団に入る為の仕事やスタイルや服装なら、あんまり欲しいとは思わないということ。今日はヒップホップ、明日はヘヴィメタだなんて、そこにはアイデンティティなんてないし、それはちょっと悲しいことだよね。

Kitsuneを始められたとき、日本からもインスピレーションを得ていたと思いますか?今でも日本からインスピレーションを得られますか?
マサヤ: ああ、それは変わったけどね。それはとても速いともいえるし、とても遅いとも言うことができる。ぼく個人にとっては、8年前に日本に来たときと比べると、お店なんかもつまらなくなっているかな。

ジルダ: 日本人はコンセプトストアを初めて作ったんだけど、それぞれの店で違った雰囲気があって、違った商品が扱われていたり、カフェや本屋やレコードショップが併設されていたこともあった。昔はそういうのが“新鮮”だったんだけどね。

Kitsuneが東京にお店を開く計画を立てているというのは本当ですか?
ジルダ: 今、2012年1月のオープンに向けて準備中だよ。

そのお店はどのようになる予定ですか?
ジルダ: 今までみた中で一番素敵なお店になるはずだよ(笑)。

マサヤ: 表参道と青山通りの交差点で、青山よりの所に出来る予定。そのエリアが僕らは好きだからね。ショッピングのお客でごった返しているけど、それでもちゃんと居住地区もある。オールドスクールの匂いもあるし。

日本に来たときにはどんなクラブに行くのか、興味があります。日本には、Kitsuneと同じようにして、音楽とファッションの世界を繋げたアーティストもいます。例えば、中田ヤスタカとかVERBALとかマドモアゼル・ユリアとか…。

ジルダ: ああ、もちろん彼らのことは良く知っている。僕らのやっていることとは違うけど。僕らの作っているファッションや音楽は、必ずしもターゲットが同じではないんだ。確かにKitsuneの洋服を好きな人が僕らのコンピレーションアルバムを好きになってくれることも多いけど、両方を同じように好きになってもらう為に作っているわけではない。音楽レーベルに関して言えば、フレッシュで子供っぽくてスポーティーでストリートでフィット感のあるものを扱う方がいいんだけど、洋服のラインについていうと、音楽レーベルで扱っている商業的なものよりはずっと深みを持たせている。音楽側が単純に商業的だと言っているわけじゃないけど…。

ではその2つを同じKitsuneの下でやるメリットは何でしょうか?
マサヤ: それらから得られる恩恵というのはこの瞬間ではなく、未来にあるんだと思う。音楽サイドを気に入ってくれている人たちは15歳から20歳よりちょっと上の子供たちで、それから4、5年経てばもっとお金を持つようになり、値段よりもクオリティを意識し始めるようになる。だからそうやって成長した彼らも、僕らの大事なお客さんになり得るわけ。若い人たちはファッション側にはあまりやっては来ないけど、そこにもちゃんと可能性はあるんだよ。その可能性の扉は開けてあるんだ。

ファッション側と音楽側では、どちらのほうがより広く受け入れられていると?
ジルダ:こんなことはいうべきではないかもしれないけど、みんな25歳や30歳になったら、音楽を聴くことをやめてしまうんだ。新しいものにも興味がなくなってしまう。だから音楽側は13歳から30歳ぐらいまで、ファッション側は25歳から55歳ぐらいまでだと思っているよ。

あなた自身も年を重ねていますが、若いキッズたちに合わせていくのは難しくありませんか?
ジルダ: ああ、そうなんだよね。そしてキッズも更に若くなってるし。歳を取れば、シーンで何が起きているのかについてちゃんと繋がっていくことが難しくなる。ちょっと自惚れて聞こえるかもしれないけど、時々僕らが今のシーンを作っているんだと感じることがあるんだ。

マサヤ: 僕らはいつも自分たちに正直でいようとしているから。

ジルダ: 音楽レーベルのA&Rのひとつとして、本当に本当に大事なことは、どんな音楽を作っていているか、ということ。もしもその音楽が素晴らしくて、本当に意味のあるものだったら、それが90年代でも70年代でも80年代でも、どんなスタイルだったとしても、それは最後には良い音楽としてちゃんと伝わるんだ。それこそ、僕がまず探していることなんだ。

ではこの先目指していることは何でしょうか?この先のゴールは何でしょうか?
ジルダ: 80年代のパリにはアニエス・ベーがいて、90年代にはA.P.C.がいて、イザベル・マランとヴァネッサ・ブリューノが2000年代を象徴している。2010年代のパリになると、そんなに沢山のブランドが存在しているわけじゃない。Kitsune以外はね。とても競争の激しいマーケットの中で新しいブランドを大きくしていくことは挑戦しがいがあるし、とても面白いよ。どうして新しいブランドを作るのか?どうして音楽レーベルを作るのか?10回以上もすでに作られてきたアルバムをどうしてリリースするのか?いまだ歌われたことのない音楽なんてあるのかい?僕らはただ、続けていくことによっていくつかの小さな挑戦を見つけているんだよ。

そこには何か新しいことがあると思いますか?
ジルダ: 何が新しいのかい?さっき(スタイルが変わる)周期がどんどんを短くなっていると言っていたけど、そこにはそんな周期なんてものさえ、ないのかもしれないよ。

(マサヤに対して)その意見に賛成しますか?
ジルダ: まあ、どの場所(どの領域)にいるかによって変わってくるけどね。

マサヤ: それを一般化することは難しいね。

ジルダ: 僕は10年前ローマにいたけど、彼らは70年代で止まったままだった。男性は70年代っぽい服とサングラスを身につけた70年代の先生みたいなファッションをしていた。逆にオーストラリアに行ってみると、今度は彼らが80年代で止まっていることがよくわかる。韓国に行くと、今度はまた変な格好をしていて…。

マサヤ: …10年前の日本みたいだよね。

ジルダ: ちょっと話し過ぎちゃったかな、ごめん(笑)。

マサヤ: 大丈夫だよ(笑)。


ジルダは8月27日(土)にageHaで開催されるKITSUNE CLUB NIGHTに出演予定

Interview by ジェイムズ・ハッドフィールド
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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