東京の鉄道で冬季五輪を体感する

バンクーバーオリンピックの興奮を鉄道で感じる

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東京の鉄道で冬季五輪を体感する

いよいよバンクーバー・オリンピックが開幕する。スキージャンプやスピードスケートなど、挑戦できる機会が少ない競技も多いが、この氷上の競技を、東京で、普段着のまま、“疑似体験”できる場所がある。2010年2月12日の開幕前に体験し、オリンピックに備えてほしい。

スキークロス

バンクーバー・オリンピックから正式種目となったスキークロス。4人から6人の選手が一斉にスタートを切り、ジャンプやバンクなどの障害をクリアしつつ、一番最初にゴールした選手が勝ち、という素人目にもわかりやすい競技だ。

次々と現れる障害を抜きつ、抜かれつしながらクリアしていく選手の気分を味わえる……かもしれないのが、京浜東北線、山手線の田町駅から田端駅間だ。
この区間は複々線といい、同じ方向へ進む路線が2線以上ある。通常の複々線では片方は快速、片方は各駅停車といったように、同方向でも停車駅が異なることから最初から勝負にならないことが多いが、ここは違う。
田町駅をほぼ同時に発車した場合、かなりの確率でしばらくの間、抜きつ抜かれつの勝負が繰り広げられるのだ。実際のスキークロスでは、選手同士のコースの取りあいなども見どころになるが、さすがにそこまでのデッドヒートはない。勝負を決める大きな要素は、乗客の乗り降りの時間だ。停車するホームも同じため、反対側に止まった電車の動きが気になる。
発車すると数メートルの距離まで電車同士が近づき、それぞれの乗客(ライバル?)の表情まではっきりと見える。あまりにも近すぎるため、目が合って気まずくなるほどだ。勝負はスキークロスのおよそ10倍の10キロ、20分近くにわたって続く。
山手線は進行方向の左側、京浜東北線は右側のドアに位置を取ると、この駆け引きをよりリアルに味わえることだろう。ただし午前10時半頃から午後3時半頃までは京浜東北線が快速運転を行い、まったく勝負にならないため要注意。

スピードスケート

氷と金属という低い摩擦係数の組み合わせが生み出すドラマ、アイススケート。特に最高速度が時速60キロに達するスピードスケートは、道具や重力に頼らず二本の足だけで達成できる最速の競技といえる。ちなみにスピードだけで見ると、冬季オリンピックで一番速いのは、アルペンスキーの滑降で時速160キロ。これは東海道新幹線が東京と神奈川の境目、多摩川を渡るころのスピードに匹敵する。

都内を走る通勤路線の最高速度はさまざまである。そこでスピードスケートと同じ速度を体感できる路線を探してみた。
ひとつは東京メトロ・銀座線。1927年に開業した日本で一番古い地下鉄で、浅草駅から渋谷駅間の14.3キロを、およそ30分で結んでいる。最高速度は時速65キロで、東京を走る13本の地下鉄の中で一番遅い。渋谷駅付近では地上を走るが、ほぼ全線が地下のため、時速65キロが遅いのか速いのかを実感できないのが難点かもしれない。
もうひとつは東京臨海新交通臨海線、『ゆりかもめ』である。コンクリートの路面をゴムタイヤで進むため、厳密には“鉄の車輪と鉄のレール”という鉄道ではなく、それに準ずる軌道に分類される。最高速度は時速60キロ、新橋駅から豊洲駅間の14.7キロを、およそ30分で結ぶ。芝浦ふ頭駅とお台場海浜公園駅の間では、レインボーブリッジを渡るため、まるでフィギュアスケートのループのように、コースが360度ぐるりと回転する。海面から50メートルという高さのレインボーブリッジから見る街は、東京の公共交通機関屈指の眺めといってよいだろう。

ジャンプ

スキーのジャンプ台の角度は30度前後。数字だけで判断するとそれほどの角度には感じないが、実際上に立つと、断崖かと錯覚するほどの急傾斜だ。これはスキーやスノーボード初心者の誰もが抱く気持ちだろう。

高尾山を縦走するケーブルカーは、普段着のままジャンパー気分を体験できる乗り物だ。全長1020メートル、高低差271メートルを所要6分で結ぶ。ジャンパーになるのであれば、“下り”に乗るべきだ。高尾山駅のホームで出発を待つ車両に乗ると、すぐにトンネルが控えている。線路は目の前ですこし盛り上がっているかのように見える。まるでローラーコースターの頂点手前にいるかのように、線路が盛り上がって見えるのだ。発車してトンネルを抜けると、目の前の盛り上がりは消え、一気に底へ。ここが高尾山ケーブルカーの最も急な31度の勾配だ。ケーブルカーにおける日本一の急勾配の地点でもある。その急傾斜を高尾山ケーブルカーは降りていく。慎重に、安全に。1分間の急勾配を過ぎれば、勾配は緩み穏やかな眺めになる。路線の途中で勾配の角度が変わるため、座席に座っていると発車時点では普通のすわり心地、次第にリクライニングするような感じになり、下側の駅、清滝に着くと少しのけぞっているかのような気さえする。
ちなみにケーブルカーにほぼ並行するリフトは、全長872メートル、所要時間12分で観光リフトとしては日本最長である。どちらも2010年1月22日から、PASMO、Suicaの利用が可能になった。

テキスト 西澤史朗
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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