音で楽しむ東京の鉄道

ホームで、電車内で、景色を見るより音を聞け

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音で楽しむ東京の鉄道

日本の鉄道を特徴づけるものとして、定時運行率、冷房などの快適装備、そしていまや各駅で聞かれるようになった発車メロディが挙げられる。駅や車内など、ともすればうるさく思えるほど音声案内の多い日本の鉄道だが、“音”はこれほど多くの利用者を、事故なく定刻で運行するため、さばくために必要不可欠といっても過言ではない。

世界で鉄道を利用する人は、一日あたりおよそ1億6000万人。そのうち日本の鉄道利用者数は6000万人を超える。つまり日本は世界の鉄道利用者数のうち3分の1を占める超鉄道大国なのだ。東京都の人口はおよそ1200万人だが、日中の人口は1500万人を超える。毎日300万人以上の人々が郊外から東京へとやってくるのだ。そしてそのほとんどは鉄道を利用する。

日常風景のひとつでしかない通勤電車も、感じ方を変えれば非日常へのスイッチになる。ここでは乗るだけではなく、音で楽しめる東京の鉄道を紹介する。

ホームの発車メロディで楽しむ

ジリジリジリ……というベルの音だったホームの発車合図は、やがて電子ブザーになり、電子メロディに代わった。東京圏ではJR東日本が1989年から新宿駅、渋谷駅で電子音によるメロディを採用するようになった。当初はハープや鈴といった楽器の単音が多かったが、現在では数小節のメロディが主流で、駅によっては地域ゆかりの楽曲をアレンジしているところもある。

たとえば都心を移動するのに不可欠といえるJR山手線。高田馬場駅では日本アニメーション界の父といえる手塚治虫の仕事場があったことから、『鉄腕アトム』のメロディが流れる。駒込駅は日本の国花・サクラを代表する品種ソメイヨシノの生まれた地であることから『さくらさくら』のメロディが採用されている。29駅ある山手線の駅のうち、発車メロディが使われていないのは上野駅と新大久保駅だけだ。前述の駅のほか、以下の駅でもメロディを楽しむことができる。

恵比寿駅のJR山手線ホーム
エビスビールCMソングの『第三の男のテーマ』
品川駅の東海道線ホーム
最初に鉄道が開通した区間ということから『鉄道唱歌』
蒲田駅の京浜東北線ホーム
『蒲田行進曲』
八王子駅の中央線ホーム
作曲者が八王子出身のため『夕焼け小焼け』
青梅駅の青梅線ホーム
赤塚不二夫会館があることから『ひみつのアッコちゃんのテーマ』

警笛で楽しむ

国外から日本に到着し、東京へ向かおうとするとき、成田空港の駅でオルゴールのようなメロディを耳にしたことはないだろうか。都心と成田空港を結ぶ、JR東日本の成田エクスプレスが発する警笛の音だ。この警笛は、『ミュージック・ホーン』ともいわれ、古くは1950年代、新宿と箱根を結ぶ小田急電鉄の特急ロマンスカーに採用されたのが始まりだ。当時、踏切に遮断機や警報機は少なく、高速で走るロマンスカーは、周囲に警戒を呼びかける必要があった。常に鳴らすために汽笛やクラクションのような音ではうるさすぎる、ということで採用されたのが『ミュージック・ホーン』である。その後、同様のものは全国で採用されるようになったが、騒音問題を避けるため本家の小田急電鉄では1980年代になると使用されなくなり、新型車両に装備されることもなくなった。しかし2005年にデビューしたロマンスカーVSE形では、古きよきロマンスカーの旅を体験してもらうべく、『ミュージックホーン』が復活した。いま現在では運転中ずっと鳴らし続けるわけにはいかないが、駅を発車するとき、駅に到着するときにその音色を聴くことができる。JR東日本では、前述の成田エクスプレスや、房総、伊豆、信州方面に向かう特急電車が採用している。

忙しく通勤電車が行きかう駅で、観光地へ向かう特急列車だけが鳴らすことができる警笛。この音を聴くと旅に出たくなる、そう思うようになったら、じゅうぶんに楽しむ資格を持っているといえよう。

モーター音で楽しむ

東京圏の鉄道は、そのほとんどが電気で動く“電車”である。加減速力に優れ、騒音も比較的静かな特性を持つ電車ではあるが、注意深く聴いてみると、モーター音、ブレーキ音、ドアの開閉音などが、鉄道会社や車両の新旧でずいぶん違うことに気づく。

中でも特徴的な音を聞かせるもののひとつが、京浜急行の2100形だ。

先頭部に“2100”という数字が大きく書いてあるこの車両は1998年に登場、主に泉岳寺・品川と神奈川県の三崎口を結ぶ快速特急に使われている。ドアが閉まり発車すると、床下からまるでテレビアニメで魔法をかけるときに使われるようなメロディが聞こえる。これはモーターの出力を変えていく“VVVF”という装置が発する音である。

京浜急行はJR東海道本線や横須賀線といったライバル路線に沿っているため、伝統的に加速、減速能力の高い車両を採用し、ライバルに対し時間的に優位に立つようにつとめてきた。2100形もその方針から外れることはなく、発車の際の加速はしっかりと足を踏ん張らないといけないほど鋭い。国産部品が多く使われる鉄道車両の中で、2100形のVVVFを製造したのはドイツ・シーメンス社。モーター出力を変化させるときに発生する音色は“ファソラシドレミファ”と聴こえる。ドイツ製ということも相まって、鉄道ファンの間では“ハーメルンの笛吹き”とも言われている。音楽バンド・くるりの『赤い電車』とは京浜急行のことであり、曲中でもサンプリングされたこの音が使われている。

テキスト 西澤史朗
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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