「フライジン」と呼ばないで

地震後、東京を去った外国人にインタビュー

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「フライジン」と呼ばないで

一目で“ガイジン”とわかる風貌を持っていたのなら、先週末、東京でおかしな現象に気づいただろう。「あなたまだここにいるの?」、という小さな驚きの表情が向けられたはずだからだ。地震発生から1週間、もろもろの噂や誤報が飛び交ったが、1つだけ消えずに残ったものがある。それが、「日本在住の外国人達は、どうも群れをなして東京から逃げ出したらしい」という噂だ。

東京入国管理局で再入国ビザを取得する人々の長大な列を見て、3月17日のジャパンタイムズは「何千人も入管に殺到」と報じた。その翌日にはウォールストリートジャーナルが「危機が “脱トウキョウ”を引き起こした」と書き立てる。これらのメディアよりさらに保守的である大使館でさえ、とにかく東京を離れることを“考慮”するようにすすめた。結果、出国便を貸し切るほど大勢の外国人が去った。

だんだんと辛辣な空気が満ちていく中、ある利口ぶった人物が、次々に出国していく人達を指して「フライジン」という新語を造った。「フライジン」とは、「飛ぶ」と「ガイジン」を合わせたものである。この言葉の意地悪さ(国難というときに子どもじみたひやかしは相応しくないかもしれない)にぴったりしているのは、その不正確さだけだろう。3月18日午前2時の飛行機でアメリカへと発ったサンドラ・バロンは、「間違いなく、外国人よりも多い数の、たくさんの日本人も東京を離れたわ。どうして議論が、東京から立ち去った人々、ではなくて、東京から立ち去ったガイジン、となってしまうのかよく分からないわ」と語った。

ウェブ通ライターであり、技術論文編集者であるバロンは、最初の地震が起きてから1週間は東京に残り、ツイッターを通じ 貴重な報道や解説を英語で情報提供した。彼女は東京を離れることを考え始めた理由について「最大の理由は取り乱した家族達だったわ」と説明する。

「イギリスの科学アドバイザーによれば原発の20km圏外なら全く心配要らないとのこと、と心配する家族を安心させてから、水曜日は夜遅くに眠りについたわ。翌日起きてみると、危険区域は4倍の80kmになっていて、イギリス大使館は日本を離れることも考慮するようにアドバイスしていたの。それでも、東京では具体的な変化は何もなかった。だけど、その危険区域の変化があまりに突然で重大に思えたから、事態は悪化しているように感じたの」と、続けた。

ジャーナリストのリチャード・スマートも、バロンと同様の展開でもっと早くに恐れを抱いた。3月15日の午後、日本人の妻と共に東京を離れ、新幹線で京都へと向かった。タイムアウトが話した多くの人達のように、彼もまたすでに東京へ戻って来ている。

「大きな地震に備えて決めておいた計画に基づいて行動したんだ。それに、絶え間ない余震と原発に関する不明瞭な状況説明も心配だった。だけど、僕たちにとって一番の理由となったのは、関西でも変わりなく仕事を続けられたことだと思う。もし妻が毎日仕事に行かなければならなかったとしたら、僕が家で仕事をしていなかったとしたら、たぶん東京に残っただろう」と、彼は言う。

他の人達にの決断は、もっと直観的だった。「娘は10才。被曝の脅威のもと東京に娘を置いておくなど、全く考えられなかった。とんでもない」と、ミュージシャンのサム・ベネットは言う。

これらの意見から一つ抜け落ちている点は、パニック感だ。恐れに目を見開いているパニック感があったなら、ただ単に去ることでも「逃げる」と表せるかもしれない。闇雲に一番近い非常出口に駆け込むイメージからほど遠く、「フライジン」と呼ばれた人々は、たいていNHKの穏やかなアナウンス以外の情報源にも注目しており、情報に基づいて意思決定していた。

「日本のメディアは、自らを深く掘り下げることはない。今、外国メディアはパニックを創り出していると、国内報道機関にスケープゴートにされているが、私としては、むしろその反対だと考えている。Fox Newsが伝えた“渋谷エッグマン原発”は聴くに値しないが、規則遵守で平身低頭な日本のメディアは、ずばり真のジャーナリズムの名折れだ」と、ジャーナリストのダニエル・ロブソンは話す。

ロブソンは、3月14日に 日本人の妻と義理の両親と共に大阪へ向かい、1週間後に戻って来た。「あと数ヶ月はかなりストレスの多い時期が続くだろう」と彼は認め、「しかし、今や募金活動となったライブイベントが26日に予定されており、それを前に進めたかった」と続けた。

生活はゆっくりと日常へ戻りながらも、反感は糸を引く。それは「フライジン」のことだけではない。ツイッターやフェイスブックでは、この一週間ずっと“トゲ”のある発言が広がっており、地元のセレブリティも論争に加わってきた。「家に帰りたい外国人は、さっさと帰れ!」元サッカー選手で現在はタレントのラモス瑠偉は3月18日、ブログに日本語でそう書いた。3月20日には、テレビ番組『アッコにおまかせ』で、和田アキ子が「なぜ外国人は、政府の東京が安全だとする説明を受け入れずに、東京から去ったのか」と疑問を表した。

ジェイソン・ジェンキンズは「街を離れた人達に対するあらゆる反感には、がっかりした。慎重になっているだけの人の健全さや知性を疑問視していることにね」と言う。ライターでプロデューサーの彼は、妻と2人の子どもと共に一週間関西へ行っていた。

「最初は、個人的に受け止めたが、気にしないことに決めた。震災で、もう充分世間は緊迫しているからね。振り返って思うことは、余震や停電、縮小された電車のスケジュールから、一週間離れられたのは良かったよ。そのとき東京はそんなに危険ではなかったし、今も危険ではない。でも、不確実な状況の中で、私は決断を下しそれを貫くよ」と、今は首都へ戻って来ている彼は言う。

この街を離れなかった人達においては、ちょっとロンドン大空襲を思い浮かべて、自問してみる価値はある。実際の違いは何?これは本当に勇気の問題だったのか、それとも「家族を失望させない」ことが問題だったのか?

「東京は、甚大な被害を受けたわけじゃない。だから、東京を去った人達は、負傷したり病気になったり、死にそうになって、助けを求めた人達を見捨てたわけじゃない。自身と愛する人達の安全を確保したかっただけ。それが問題だと言うんだったら……うーん、ちょっと、どうしようもないな」と、ベネットは締めくくった。

By ジェイムズ・ハッドフィールド
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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