The Hot Seat:鈴木おさむインタビュー

The Hot Seat:鈴木おさむインタビュー

イラストレーション:Haruna Nitadori

『笑っていいとも!』や『SMAP×SMAP』をはじめ、手がけるレギュラーテレビ番組は20本以上。人気放送作家としてだけでなく、そのほか、ラジオ出演や、雑誌、脚本、小説の執筆など、さまざまな分野で“笑い”を爆発させている鈴木おさむ。2011年3月10日には、新書『芸人交換日記 ~イエローハーツの物語~』が出版される。鈴木にとっての“笑い”とは、またその源泉は何か。

『芸人交換日記 ~イエローハーツの物語~』、げらげら笑える本を想像していたんですが……。

鈴木:悲しかったでしょ(笑)。この業界にいると、夢を追いかけている人ってたくさんいますよね。今回の物語は、“夢の諦め方”がテーマなんだけど、僕は、諦めるから次に行けることもあると思うんですよ。

2人の芸人さんが交換日記で交わすやりとりがすごくリアルでした。

鈴木:あれは、ほぼ実話なんですよ。一組のコンビのこととして書いているけど、色んな芸人さんたちの本当の話ばかりです。本当に、ああいう些細なことで言い合っているから、それを世の中に伝えたかった。昔は、芸人は芸人だったけど、今は、テレビをつけると演者のほとんどが芸人さんでしょ。タレントという職業とイコールになってきていて、芸人さんが世の中にあふれている。でも、まだまだ売れてない人はいっぱいいて、それも伝えたかった。

30歳過ぎて、夢を諦めることって、会社の中でもたくさんある。例えば、同期だったのに、どっちかが出世したり。小さいことだけど、誰かが先に出世して、自分だけ才能がないんじゃないかと考え込むような。だけど、才能があっても、売れない人、出世できない人もいて、そういう憤りとか、夢を持っている人に読んでほしいと思いますね。

おさむさんは夢を諦めたことはあるんですか?

鈴木:諦めたこと……この世界に19歳で入って、比較的運が良かったのもあるけど、大きく諦めたことはないかな。だけど、番組を作っていて、夢を持って立ち上げたのに、諦めなきゃいけないことはありましたね。例えば、自分が、演者さんと一緒に魂を込めて作った番組が、視聴率が悪くて、でも、またこれから頑張りたいと思ったときに、終わるっていう電話があったり。そういうことって、僕からしてみたら諦めることのひとつになる。ただ、そういうことが多すぎてマヒしている部分もあるんだけど……でもなんか、そこから生まれたりするものもあるって信じてるんですよ。

来年は20周年ですね。

鈴木:そうなんですよ。臆病だから、目の前のことをとにかくとにかく頑張ってきたという感じですね……。 だから、傷ついたことはたくさんあります。例えば、映画のお話をいただいて、脚本を書き上げて、良いキャストが決まってと、全部決まっていたのに、事情があって映画が作れなくなってしまって、それは、ちょっと悲しかったですね。それこそ夢に向かっているのに、諦めた理由が、あまりにもしょうもないというか。でも、それがまた未来につながっていく気もして。それがダメだったから今があると、ポジティブに思うようにしているんですよね。

交換日記は、もともと奥さんの大島美幸さんとやっていたんですよね?

鈴木:そう。今も続けていて、もう、8冊、9冊目に入りましたね。無駄がないって言ったら失礼だけど、奥さんとそれをやっていたから、今回の本を書ける、っていうのもありますよね。元々は、舞台をやろうとしたんですよ。『ラブレター』ってありますよね。あれの芸人版を作ったら面白いと思って(笑)。作品は同じなんだけど、ロンブーの田村淳さんと千原ジュニアさんのコンビとか、毎回、別のキャストで夢のコンビができたら面白いかな、と。

交換日記は、おさむさんと美幸さん、どちらが書こうと提案したんですか?

鈴木:妻です。それで、何年か前に、うちの奥さんが1回やめようって言ったんですよ。何日かまとめて書いたりしているし、やめようか、って。でも、俺が嫌だって言ったの。何のために交換日記を書いているかと言うと、もうはっきりしていて、死んだ時のためなんですよ。いつ死ぬかわからないけど、どちらかが死んだ時に、1日1ページだけ読んで良いルールとか作ったら、昔のことを思い返せて、1日1個の楽しみになるんじゃないかと思って。だから、そのために俺は書いているんだ、って話したら、奥さんも「それはいい!」って話になって(笑)。1日1ページ読めるって言われたら、楽しみになるでしょ。

一緒に生きてきた分だけ、また生きていけますね。

鈴木:そう。こんなことがあった、あんなことがあったって。

それ、素敵です。手書きの意味もありますね。

鈴木:手書きじゃないとダメなんですよ。ちょっと言い忘れたことって、大きく積もると夫婦の溝になりますからね。言いにくいことも、自分の文字だと意外と書けるんですよ。

それからね、以前、ワタミの渡邉社長と取材で会った時、そのすぐ翌日に、手書きの手紙がちゃんと郵便で届いたんです。時間を考えたら、取材場所を出てすぐに書いたと思うんですよ。出た瞬間に、手書きで書いてポストに入れないと、時間的に間に合わない。人心掌握術というか、すごいな、と思って。

それで、過去に対談した人で、あと2人、松岡修造さんと、草野仁さんが手紙をくれました。やっぱりね、手書きのパワーってすごいですよ。だけど、僕は返事は送らないんですよ。もう、手紙が届いた時点で悔しいから(笑)。

(笑)おさむさんには、“面白い”とか、“楽しい”の定義ってあるんですか?

鈴木:面白いと楽しいって、違うんですよ。イコールのように見えて、違う。最近、世の中に求められることって、楽しいことなんですよ。“面白い”と“楽しい”で線をひいていることは、その現場に入って、一緒にやってみたいかどうかですね。

昔、『ねるとん紅鯨団』を観ていて、自分も出たくて出たくて仕方がなかった。テレビの基本は、なんか楽しそう、ってことがすごく大事。今日は家がすごくさみしいけど、テレビのワイワイしているところに行きたい、そこに入ってみたいという感じを出せるかどうかが、自分のテーマだと思っています。例えば、『帰れま10』とかそうでしょ。あれは、合コンゲームの極致だと思う。

それから、『お願い!ランキング』という番組で、ADの中尾さんが、“ちょい足し”って言って、食べ物に何かを加えて食べているんだけど、マネしたくなるでしょ。そういうのを、すごく意識しますね。前は、面白いか面白くないかを意識していたけど、今は、それが楽しそうかどうかを意識します。

アイデアはどこから生まれてくるんですか?

鈴木:すごいたくさん人に会うのと、それこそ芸人さんと一緒に飲みに行ったり、映画を観たり、舞台を観たり。僕は、好奇心が昔からもともとすごく強いんです。アイデアを生み出すために行こうと思うわけではないけど、色んなものを観たり、色んなことをするのが一番かもしれない。それから、すごくたくさんの仕事をやらせてもらっているから、何かの仕事をする時が、別の仕事のアイディアになったりもする。だからよく、それだけ仕事をして、アイデア出すの大変でしょう、って言われるんだけど、仕事している方が浮かぶんですよね。家で考えている時が一番、何も思い浮かばない。

煮詰まった時はどうするんですか?

鈴木:三軒茶屋のTSUTAYAに行くの。三茶は昔から好きで、朝4時までやっているんだけど、ワンフロアに、本とCDとDVDがあるんですよ。渋谷だと、大きすぎて、階段上がらないといけない。だけど、三茶のTSUTAYAの広さとか、配置の仕方が、僕の脳みそにフィットするんですよ。店内を歩いているとリフレッシュするのと、どんどん情報が入ってくるから、ものすごく脳みそが整理される感じがするんですよ。帰り道にマクドナルドもあるし(笑)。三茶にしかない空気があって、東京なのに、下町っぽさが残っているのも好きですね。

人と会ったり、色んな場所に出掛けたり、時間のやりくりはどうしているんですか?

鈴木:天狗と言われてしまうかもしれないけど、まわりの皆が優しくて、僕が時間を割いてどこかに行くことで、また新しいことを考えてくるんだろうな、って期待してくれる部分があるんですよ。だから、お正月に11日間休んでアフリカに行った時も、皆が気を遣ってくれているのももちろんあるけど、帰ってきたら、またこの人は面白いことを考えてくれるに違いない、っていう風に思ってくれているのかもしれないですね。まぁ、その分、その前後につめて働くし。会議に出てても、結局、一番面白いことを考えているのは僕だな、っていう自負がありますから(笑)。

アフリカはどうでしたか?

鈴木:説明しがたいんだけど、まず思ったのは、動物を近くで見るなら動物園の方が見易い(笑)。でも、何がすごいって、風景の中に動物がいること。それと、生まれて初めて地球が丸いと感じました。そのくらい遠くが見えるんですよ。

海で地平線が丸く見えるのとは違うんですか?

鈴木:違う違う。全然違う。もう、ずーっとまっすぐ遠くまで見渡せ過ぎて、地面と雲がくっついちゃってるんですよ。だけど、アフリカでずっと原稿書いてたの(笑)。もう、エネルギーが出まくっちゃって。今年は夏くらいまでものすごく忙しいんだけど、俺は今年39歳で、サンキューイヤーって名付けているんだけど、後で振り返った時に、働いたなー!って思おうと思って。

忙しくないとダメなんですか?もう、一生笑って暮らせるくらい稼いだんじゃないですか?

鈴木:(笑)。いや、たぶん暇でも大丈夫なんですよ。だけどね、20代前半の時に、車の免許を取りに行ったの。すっごく忙しい時期で、仮免で時間切れになっちゃって。それから、25歳くらいに、『SMAP×SMAP』が始まったころにもう1回通いはじめたら、当時50歳くらいだった欽ちゃんファミリーにいた大先輩の作家さんに呼び出されたの。「おい、おさむ、お前、今、免許取りに行ってるんだろ?」って。それで、「行くな」って言うの。「お前な、俺の年になったら、絶対に仕事が減るから」って。そういうことってあんまり言わないじゃない。

はい。

鈴木:だけど、「絶対に仕事が減るから大丈夫」だと。「俺は、50歳を過ぎて、バイクの免許を取りに行ってるんだよ」って。「50を過ぎて、若者にまじって免許を取るなんて、キツいと思うだろ?でも楽しいんだよ。同世代が、出世だなんだってしている時に、免許取りに行くのって楽しいよ。今やっていることはお前しかできないから、他の人ができることは、将来のためにとっておきな」って言われたの。

今も、免許は持ってないんですか?

鈴木:持ってないよ。

これからまだまだやることたくさんありますね。

鈴木:そう。たくさんあります(笑)。


『芸人交換日記 ~イエローハーツの物語~』


1365円(税込)
2011年3月10日発売

テキスト 東谷彰子
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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