小笠原産パッションフルーツのソルベと季節のフルーツ 墨田区吾妻ラムネを注いで
2010年09月07日 (火) 掲載
“どぜう料理”や“もんじゃ焼き”など、東京の名物料理は数々ある。しかし食材に目を向けると、どじょうは大分や福島から取り寄せた養殖もの、もんじゃ焼きに使われるキャベツは千葉県や神奈川県など近隣の県から仕入れている場合が多く、郷土料理というには少々気がひける。なぜなら郷土料理の原則は、その地域の特産物を使い、その地域に古くから伝わる調理方法で作られた料理、であるからだ。では東京の郷土料理とは何か。その問いに新しいスタイルで挑んでいるのが『ザ・ペニンシュラ東京』だ。
東京の象徴である皇居を間近から一望できるホテルが、“東京”にこだわり、期間限定で提供しているのが、東京産の食材を使った『心を潤すランチ・ディナー』だ。最近は食糧自給率やエコの観点から、東京の食材にこだわるレストランも少なくないが、ザ・ペニンシュラ東京の1階にあるコンチネンタルダイニング『ザ・ロビー』の料理はひと味違う。東京軍鶏や千住ネギなど、東京産の食材を使うだけでなく、ホッピーやラムネ、浅草電気ブランなど、東京で生産されている飲料も調理に使い、斬新な料理を提供しているのだ。例えば『東京“黒ホッピー”で煮込んだ国産豚ばら肉と芯取菜のブレゼ サツマイモのピュレ添え』は、1948年から東京で製造販売されているビールテイストの清涼飲料水ホッピーの黒ラベルを使った料理。ブレゼは通常、ワインやブイヨンなどで蒸し煮する調理法だが、ホッピーを使うことによって炭酸が肉を一層柔らかくし、コクと旨みを引き出している。肉にからめるソースもさっぱりとした甘辛テイストで、肉の味に豊かな表情をもたらしている。添えられている芯取菜は東京で古くから生産されている伝統的な野菜“江戸東京野菜”。一時は中国野菜におされ姿を潜めていたが、最近になって再び脚光を浴びている。
デザートも興味深い。『小笠原産パッションフルーツのソルベと季節のフルーツ 墨田区吾妻ラムネを注いで』は、1925年から墨田区吾妻橋で製造されている清涼飲料水のラムネをアクセントにしたデザートだ。美しくデコレーションされたデザート皿にうっとりしていると、サービス担当者が昔懐かしいガラス瓶のラムネを持って登場。目の前でその瓶を傾け、ラムネをデザートに回しかける。これまで目にしたことのないパフォーマンスにテンションが一気に上がると同時に、ラムネの甘い香りがテーブルを満たし幸せな気分になる。酸味のあるソルベと甘いラムネのマリアージュは筆舌に尽くしがたい美味しさだ。ザ・ロビーの料理長である石井順は東京の下町出身。この絶妙な相性に気が付いたのも、東京産の食材や生産品の特徴を知り尽くしているシェフだからと言える。東京はいつの頃からか、世界の料理を手軽に味わえる街になり、料理自体が多様性を帯びている。だから今、東京の食材にこだわった多国籍な調理法による料理を、東京の新しい郷土料理と位置づけてみるのも面白い。ザ・ロビーではこの他にも、八丈島の明日葉や、江戸川区産の小松菜などを使った料理をプリフィクス形式で提供している。また伝統的な広東料理を提供する『ヘイフンテラス』や、インターナショナル・キュイジーヌの『Peter』でも、東京産の食材に注目した心を潤す料理が用意されている。新しいスタイルの郷土料理で、東京の食文化の一端に触れる。これも今の東京を知る手がかりになるに違いない。
期間:2010年12月21日(火)まで
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