学芸大学『SON OF THE CHEESE』と仲間たち

東京ネイバーズ:東京を楽しくする、ユニーク&ローカルなクリエイティヴコミュニティたち

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偶然と必然、“目黒区学芸大”というエリアのもつエネルギー

目黒通りと駒沢通りに挟まれたこのエリアは、ホテル CLASKAを始め、さまざまなカルチャースポットが密集しているユニークな街。閑静な町並みを歩いていると、突然個性的なカフェや店を見つけることもあり、“住”と“遊”の感覚が共存している。だからこそ、魅力的なクリエイターたちが集まってくるのかもしれない。そんな学芸大学エリアを象徴するようなコミュニティのひとつが、今回取材をした『SON OF THE CHEESE』である。


『SON OF THE CHEESE』のエントランス。まるで秘密基地みたいな入り口を入ると…。

スケーターによる、自由過ぎるほど自由な空間『SON OF THE CHEESE』

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目黒通り沿いにあるその“秘密基地”は、一見しただけでは、駐車場なのか、アンティークショップの倉庫なのか、謎のまま。しかし、一度ゲートを開けて中に入ってみると、そこにはスケーターのカイトが作り上げたクリエイティブな仲間たちの為のカフェ&スケートプールがあることが分かる。

1970年代のアメリカ西海岸で一つの社会現象を引き起こした“ドッグタウン”カルチャーの匂いがムンムン漂ってくる『SON OF THE CHEESE』には、トニー・アルバやジェイ・アダムス、ステイシー・ペラルタなど、かつてのZ-BOYSたちでさえも羨ましくなるような、自由な空気が満ちている。

それは偶然、学芸大学エリアだったのかもしれないし、この街でないと生まれなかったのかもしれない。カイトというスケーターが描いた夢の世界に、昔からの仲間から近所のクリエイティブマインズまで賛同し、協力しあい、いつしか、日本でも他に例のないような、ユニークな場所が誕生していたのだ。

サンドイッチからビールまで、カフェ機能もちゃんと動いてます。

後ろに見えるプールでスケートをする日もあれば、水を張って泳ぐ日も…羨まし過ぎる…。

自然と仲間が集まってくる。夜の19時ぐらいまではいつもにぎやかだ。

スケーター、カイトによるひとつの答え:『SON OF THE CHEESE』

スケーターとして活躍しているカイトが、これまでに何十年と滑ってきたスケートパークの経験、そして仲間たちと最高の時間を過ごす為にどうしたらいいのかを考え、さまざまなクリエイターたちの力を借りて完成したのがこの場所である。ありがちな「キドニー型(腎臓型)」でもカプセルでもなく両方の要素を取り入れた変形プールで、素人には滑ることが難しく、コアなスケーターでも十分に楽しめる設計になっているにも関わらず、「滑ることよりも、ゆったりと時間を過ごす方が、正解です」と語る。「自分のための、ライフスタイル」としてのスケートボード。そして、そのための贅沢な時間を演出してくれる自由な空間。それを彼はここに作り出したのかもしれない。



『SON OF THE CHEESE』の仲間たち&ご近所たち

スケートパーク作りのプロフェッショナルから、昔からの仲間たち、新しく出会った人たちまで、『SON OF THE CHEESE』を作り、一緒に盛り上げている人たちには魅力的な人が多いようだ。ちょうど取材の日に遊びにきていた彼らに話を聞いた。






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大場康司/スケートボード/ランプ製作、建築『大場組』

「世田谷公園にカイト君がよく遊びにきていて、彼の“遊び場”のアイデアを見せられたんです」
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大場組は、どういった経緯で活動をされているんですか?
大場:4年ほど前に『Wooden Toy』というスケートボードをつくる会社を最初に始めたんです。もともと宮大工として建築の基礎を学んでいたので、主にリフォームなどの建築仕事が多いです。何となくうまくいったので、そこから独立したかたちでスケートボードセクションをまとめて『大場組』という会社にしました。ここから15分くらいのところに工場を構えています。

ランプ形式と、こういったプール形式のスケートパークは違うものですよね?
大場:僕らは、主に木造のランプを作っていますが、もちろんどちらも出来ます。コーピングと呼ばれるコンクリートで出来た特殊な縁石も、すべて工場でゼロから作っているんです。

コーピングと呼ばれるコンクリートで出来た特殊な縁石。これも手作り。


他にも同じようなプール形式のスケートパークを作っている人はいないんですか?
大場:プールのあるスケートパークも有りますが、個人で自作プールを作る人もここ数年で見かけるようになりました。営業はせず仲間だけで楽しむ人達や個人営業でオープンしている場所もあります。どれも個性的な形で製作の工夫が見えすごく楽しく感じられます。これからも日本各地に増えて行くと思います。一度コンクリートコーピングをグラインドしたらヤミツキになるからです。

作るときの難しさは?
大場:お客さんの発想が面白いから、それをどうやって形にするのかが、いつも真剣勝負なんです。『SON OF A CHEESE』の場合も、この場所にこれを作りたいなんて…て思いましたね。どこまでやるのかっていうのがあったんですが、自分はここをやれる材料なり何なりを段取りしただけなので。あとはカイト君がアイデアを出して、北村くんが作業をやって。

『SON OF THE CHEESE』が完成するまでに、どれぐらいかかりましたか?
大場:穴掘りに1番時間がかかりました。最初は1度だけ、シャベルカーで掘ってもらったみたいなんですけど、それだと全然足りないんで、みんなで掘って(笑)。でも実際には、2週間~3週間ぐらいで出来ちゃいました。

アメリカから輸入している特注の板たち。これが1点モノのボードに生まれ変わる。


お客様の気持ちがこもった”設計図”。


大場さんの作っているスケートボードの板とかヤバいですよね。
大場:アメリカの会社から輸入した特別な合板の板を、お客さんの注文にあわせて、うちの工房でカットして塗装するんです。それぞれが違った注文だから、毎回いろいろと考えて作っている1点ものばかりですよ。

一生懸命、カットしています。これも職人的感覚が必要。


大場さんの作品たち。塗装ももちろんすべてお受けします。


1枚1枚が大切な子供のようだ。きっとそう思っているに違いない。


大場さんはずっと目黒区ですか?
大場:そうですね。生まれもここです。生まれ育った仲間はもちろんですが、渋谷、自由が丘、中目黒など、このエリアにはいろんなセンスを持った変わった人たちが集まるんです。そういうところが面白いです。昔からいる人も固まらずに、来た人をどんどん受け入れる。その辺の混ざった感じが面白い。世田谷公園もそうですね。

今、1番注目の人たちは?
大場:やっぱりつまんないなあ、って思うのは、スケートボードの今までの業界の形、みたいなものはつまらないですね。代理店が選んだようなものを、何十年も変わらないまま続けているやり方には、みんな飽き飽きしてますよね。今はパークも出来ているし、すごく幅が出来ているので、その人のやりたいものにあっているものを作っていくというか。こういうのを作りたいという人たちもすごく増えてきています。是非、工場に遊びにきてください。色々なものがありますから。

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FUSHIMING/音楽レーベル『HOLE AND HOLLAND』主宰

「この場所はできる前から聞いていて、実際に見たらすげー!って。人の集まる場所は面白いです」
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HOLE AND HOLLANDはどういったレーベルですか?
FUSHIMING:DJとトラックメーカー合わせて6人で運営している東京発のニューエイジレーベルです。もともと世田谷の人間と練馬の人間が合わさっての6人って感じですね。ほとんどみんなスケボーをやってて、10代から青山の『MIX』というクラブに行ったり、バンド組んだりして同じ時間軸を共有しながら創作活動に励んできました。5年前にちゃんとレーベルを立ち上げて。最近ではスケートボードに影響を受けてきたアーティストを集めたCD RIDE MUSICをリリースしたばかりです。

『SON OF A CHEESE』との出会いは?
FUSHIMING:カイトは、10年ぐらい前から吉祥寺で遊んでました。もともと地元も一緒のMUZONOがカイトと仲良くって、スケボーしたり飲んだり遊んだりしてました。

そのときはお互いはどんな感じでしたか?
FUSHIMING:10年前はまだお互いにただの学生で。MUZONOとは2人でCHELOOKという電子音楽ユニットをやっていてHOLE AND HOLLANDからアルバムをリリースしています。カイトとはもっぱら酒とスケボーですね。吉祥寺にいたら連絡取り合って、「どこにいる?」みたいな感じで。三鷹や神奈川や千葉のほうに一緒に滑りに行くこと もありました。

どちらの出身ですか?
FUSHIMING:僕は練馬の大泉学園です。最近は渋谷の『SECOBAR』でmoochyさんやALTZさんを呼んで自分らのイベントをやったり、神宮前『BONOBO』や渋谷『KOARA』でDJしています。

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數度祐介/クリエイティヴスペース&バー『Mondemingo』オーナー

カイトが店にふらっと遊びにきて。「今度こんな空間を作るんですよ」って(笑)。出来上がった場所を見たら 「おー!やったな!」って驚きました。
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カイト君との出会いは?
數度:カイトは、店をやっているときに、ふらっと遊びにきて。「今度『SON OF A CHEESE』っていうお店をやるんですよ」って話しにきて。最初から面白かったので、ちょこちょこ顔を出すようになって。工事は手伝ってないですけど(笑)。出来上がったのを見たときは、「おー!やったな!」っていう驚きはありました。土日で結構遊んだ人たちが、ここは夕方に終わるんですけど、ここが閉まったあとにうちに流れてくるということはありますね。うちの店は19時からなんですけど。それまではここで遊んで、トランプしてとか。22時ぐらいまでカイト君のところにいられると、カイト君も困っちゃうので。この界隈は面白い人が良く住んでいるんですよ。お客さんでも。クリエティブな人も多い。かといって、サンダルでパジャマで歩き回ってもそこまで気にしなくても良い街でもある(笑)。それでも全然オッケー。

どんなお店ですか?
數度:1年ほど前にいきあたりばったりで作ったお店です。散歩していたら見つけた場所で(笑)。偶然見つけたんですけど、気に入っちゃって。

まるでパリの街角に迷い込んだような、雰囲気のある建物だ。


センスが光るレトロでマイホームのような店内。時間が経つのを忘れそうだ…。


その場所はもともとどんなスペースだったんですか?
數度:1階は普通のバーで、4階は住居だったんです。最初、4階に住んでたんですけど、友達のたまり場になってき始めて、住んでいてもプライベートもないしなぁって思い始めて、ここもお店にしたんです。

お店の売りは何ですか?
數度:どうなんすかね、1階のバーで出すモヒートは美味しいですよ(笑)。結構ストリート系のお客さんも多いんですけど、正統派の路線も多くて。4階にDJブースがあって、プロジェクターに結構大きく出せるんで、映像系の作家さんとか。ストリートに限らず、おとといはショートムービーの上映会をやったりして。芸大を出て作っていまーす、みたいな正統派、ここにいるようなメンバーとは違って(笑)。

どうして目黒を活動の拠点に?
數度:生まれは宇都宮なんですが、もともと中目黒に住んでいて、それから学芸大学ってだんだん離れていって。うちの場所は一応目黒区なんですけど、品川区とのギリギリの境目で。そこがとっても住みやすいんですね。

お店をやる前はなにをしてましたか?
數度:お店は1年3ヶ月ぐらいなんですけど、その前はウェブの会社をやっていて。イベント事業部みたいなのがあって、クラブイベントをやっていたり。3人で始めた会社で、一応僕の名前も残っているんですが、今はお店をメインでやっています。

お店を作るときには何か参考にされましたか?
數度:お店に関しては、ある程度最初に出来上がっていたんです。家具もちょこっとあったり。それにあわせつつ、そこにどう作っていくかだけだったので。コンセプトは「ホームパーティの延長で遊べる」もう完全に家ですね。居心地の良い音楽イベントもやったりしてます。

祐介さんの店は?
數度:今は、うちの店にもクリエイターが集まり始めていますが、今度は、店が主体になって何かを作っていきたいですね。モノを作ったり、映像を撮ったり。4階のスタジオでは展示会などをやることもあるんです。ツッコミどころ満載なんですけど(笑)、1階には4店舗入っていて、その一部を僕が使わせてもらっていて、4階はワンフロアです。two-oneさんとか、グラフィティのライターさんたちも結構来てくれてます。みんなの遊び場ですね。絵を描いている人がそのまま作品を残してくれたりしてくれます。

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MUZONO/トラックメーカー

「中学校からの仲間です。友達が楽しんで頑張っている話とかを聞くのは面白いね」
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どんな音楽をやられてますか?
MUZONO:最近製作をしていたのは、僕がトラックを作って、MEISOっていうラッパーが日本語で、もう1人、E13というラッッパーはアメリカ人で、英語でラップをするという、日本語と英語の両方が代わる代わるラップするラップミュージックです。3人共色々な音楽が好きだったりするんで、その結果、色々な要素が入った曲が作れていると僕は感じています。楽しんでやっていますよ。『LION OF THE ZION』というグループで「The Enigma」というミニアルバムをメリージョイから最近出しました。

カイト君の空間『SON OF A CHEESE』については、どのように知りましたか?
MUZONO:カフェ部分になってるキャンピングカーを「買ったんだ~」って嬉しそうに話していたのを聞いてました。楽しそうだな、面白そうだな~って思っていました。ここまで面白そうなものって、滅多にないですよね。誰が話を聞いても「面白そう!」って思えるようなものって。

みんなスケーターなんですか?
MUZONO:僕は10年ぐらいまともに滑ってないですが、今はたまに友達の板借りてプッシュで移動するぐらいです。最近はめっきり自転車ですね(笑)。

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久保勝也/ヘアーサロン『Guru’s Cut & Stand』

「穴掘ったり、柵作ったり…“まさか目黒のこんな場所にこんなのが出来るなんて”って(笑)」
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店を出されたのはいつですか?
久保:2年くらい前ですね。もともと代官山で働いたんですが、自分の店を出そうというときにこのあたり(祐天寺)が雰囲気もユルくていいなぁ、と。知り合いも結構こっちに住んでるっていうこともあって。

実際に店を出してみて、どうですか?街の雰囲気は。
久保:いやぁ、最高ですね。店の前にベンチ出して座れるようにしてるんですけど、大体ここら辺に住んでる仲間がワイワイやってて、すごくアットホームな感じが好きですね。

先ほどの『Mondemingo』とは違い、今度はブルックリンのような雰囲気が…国際性豊かな街?!


店の中は“美容室”という感じなんですか?
久保:いやぁ、実際ここ(SON OF CHEESE)と一緒で、外装とかもペンキとか自分らで塗って、ホント手作りって感じなんですけど、店の中にも知り合いのヤツラが作ってる物を置いたり、ユル~くやってますよ(笑)。

店で働いてる人は全員スケートやってるって聞いたんですけど。
久保:そうですよ。今は合計6人、男性6人、女性1人でやってるんですけど全員スケーターですね。

それはすごい。 久保:なんかみんなそういうヤツラが集まったっていうか(笑)。

カイトくんとは元々どうやって出会ったんですか?
久保:やっぱりみんなと一緒で、スケートですよ。世田公(世田谷公園)とか駒沢とか。

で、実際出来上がったのを見てどうですか?
久保:いやぁ、今日なんか泳ぎまで出来て最高です!(笑)

ここ『SON OF CHEESE』には今後どうなって行って欲しいですか?
久保:今、まわりの面白い人も集まって来てるし、さらに集まって来て面白い場になってくれればいいですね。

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番外編:gaku/レコードショップ『JAZZYSPORT MUSIC SHOP』

「この街に引っ越した僕らの店に来てくれる人は、すこし遠くなっても“いい感じだね”って言ってくれます」
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直接『SON OF THE CHEESE』の友達ということではないが、せっかくだからこの機会にタイムアウトで紹介させていただくことで、新たな友達の輪が生まれたらいいのではないか…という近所のおばさん的おせっかい心から素敵なレコードショップ『JAZZYSPORT MUSIC SHOP』を紹介。

渋谷からここ(五本木)に場所を移してどれくらい経つんですか?
gaku:移ったのが去年の5月だから、もう1年ちょっとですね。

どうですか?街の雰囲気は。
gaku:もともとウチのプリプロスタジオが学大にあったっていうのもあって、街自体はよく知ってたんです。アーティストやミュージシャンも近くに住んでるし、より身近に感じています。

渋谷のお店も良かったんですけど、やっぱりここは開放感もあって最高ですよね。
gaku:やっぱり路面店って言うのがでかくて。働いている自分たちが良さを最も実感しています。気分転換にもなりますしね。路面店だとフラッと寄れるし。実際通りすがりの地元の人も来てくれますからね。ありがたいです。

『JAZZY SPORTS』店内の様子

渋谷時代のお客さんとかは?
aku:正直減りましたが、昔からの馴染みのお客さんは来てくれますよ。実際、ここら辺に住んでる人も多いし、近くなってよかったって(笑)。もちろん、前より遠くなったって人も来てくれて「いい感じだね」って言ってくれます。ベンチで花たこが定番です(笑)。

JAZZY SPORTっていうとプロダクション機能もありますよね?何か最新ニュースはありますか?
gaku:今は、TWIGYが新作「Blue Thought」(9月リリース)に先駆けてツアー中です。GAGLEも動き始めています。JAZZY SPORTのライヴインフォやホームページで是非チェックしてください。

それはそうと、gakuさんのアーティスト活動 (Raythought) の方は?
gaku:それは…ボチボチやってます(笑)。あ、Beat募集してます♪

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By 西村大助
By 光山征児
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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