アメリカ人が描く“武士道”

フォーシーズンスホテル丸の内 東京で、“武士道”を鑑賞する

アメリカ人が描く“武士道”

2010年7月、フォーシーズンズホテル丸の内東京内にあるレストラン『エキ バー&グリル』で、日本在住17年のアメリカ人アーティスト、デビット・スタンリー・ヒューエットの作品からインスパイアされた料理を楽しむ食事会が催された。展示されたヒューエットの作品は、武士道にインスパイアされた絵画や、日本中で土を探すところから始めた信楽焼など、和をテーマにしたもの。普段は洋食が提供されるレストランで、この日だけ特別に、和食材をふんだんに使ったコースがふるまわれた。


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流暢な日本語で、訪れた人々に自身の作品を丁寧に説明していたヒューエット。芸術家として成功するまで、教師、アメリカ海軍兵隊、銀行員、ビジネスオーナーなど、さまざまな職業を経てきたそうだが、なぜ日本に惹かれ、この地で芸術活動を続けることになったのか、話を聞いた。

もともと日本に興味を持ったきっかけは何だったのですか?

D:子供の頃、14歳くらいから空手をやっていて、道場に通っていました。何かの映画で空手をしていた主人公がかっこ良いと思って、自分も習いたいと思ったのを覚えています。「礼」とか、「やめ」とか、そういう単語を道場で使っていたので、日本語に興味を持ち始めました。それから、空手を始めた14歳の頃に陶芸も始めました。僕の母は画家で版画家だったこともあり、アートにも興味があり、1番上の兄は、建築と彫刻をやっていて、2番目はジャズ歌手で、皆、芸術家です。僕自身の芸術のテーマに武士道を選んだのは、空手の影響だと思います。

初めて日本に来たのはいつですか?

D:大学の2年、3年の夏休みを、北海道大学で過ごしました。勉強をするよりも、大通り公園で飲んだりして、コミュニケーションをとりながら日本語を学びました。その後、一度アメリカに帰ったのですが、インターンシップで東京に来て、結局アメリカで大学を卒業してから本格的に日本に来ました。

本当に日本に来てみて、日本人から武士道を感じましたか?

D:最近の若い男の人にはあまり感じませんが、すごく仲の良い75歳の友人がいて、彼は本当にストレートで気持ちが良い。憧れますね。

作品のテーマは、日本のものが多いのですか?

D:日本のデザインをやりたいと思っているわけではないのですが、妻が日本人なので、お茶をやっているのを見たりして。僕は日本が本当に好きなので、自分のイマジネーションの材料が日本に向いているんでしょうね。2004年に文化村のギャラリーで個展をやった時は、アメリカの田舎の小屋をテーマにした作品を作ったのですが、ここ4年くらいは、武士道をテーマにした作品を描いています。神道と、武士道に興味があって、色々神社を巡っていたのですが、大阪の住吉神社で、古い扉についている蝶番(ちょうつがい)という部品が錆びて朽ちて、とても美しいのを見たんです。そのあと、六本木のサントリー美術館で世界中に散らばった古い日本の屏風が一堂に集められた展示を見て、あまりの美しさに、圧倒されました。時を経て、金箔が薄くなっていたりしているのがとても奇麗で、とてもとても影響されました。

武士道をテーマにしているので、はっきりとした線で描くことが多かったのですが、最近は少し柔らかくなってきました。坂本龍馬が好きなんですが、彼に関する著書は色々読みました。坂本龍馬は、ウェスタナイズされていたと思っている人もいるけど、僕は逆に、龍馬は日本が大好きで、その大好きな日本を守るために世界を知らなくちゃいけないと思っていたのだと思います。作品の中には、『Ryoma’s Dream』と名付けたものもあります。現代的なのだけど、どこか懐かしさを感じる作品になっています。

これから作ってみたい作品はどんなものですか?

D:2008年に新宿の高島屋で絵と陶芸の個展をしたのですが、その時に出展した『武士道24』という作品が、高島屋の100年記念のコンペティションで勝ったんです。それで、僕のデザインをもとに、帯を作ったのです。織っている人と何度も打ち合わせをして、1枚作るのに、たくさん金糸を使うし、3ヶ月もかかったんですよ。だけど、その帯が、2008年一の売り上げになったんです。なので、ぜひまた帯をデザインしたいですね。

東京で好きな街はどこですか?

D:20年くらい前に三鷹に住んでいたので、隣の吉祥寺には良く行きました。井の頭公園とかで無許可でインスタレーションをやったりして警察に怒られました(笑)。『いせや』という焼き鳥屋さんにもたくさん通いましたよ。本当にお金がなかったからね、回転寿司に行ってお寿司を2カンだけ食べて、ガリを全部食べちゃったりしていました(笑)。

今では、立派な芸術家になられて、長野にアトリエ兼用の自宅を作られたそうですね?

D:そうです。自然の中に住みたかったのですが、個展をやるのも、エージェントがいるのも東京なので、東京から1時間半以内というのが魅力ですね。家には茶室もあるし、囲炉裏も作りました。のんびりした空間で、作品作りに精を出したいと思います。

ヒューイットの作品は、帝国ホテル東京で108枚が永久コレクションされており、その他にも、ザ ペニンシュラ東京や、多くの企業社屋などにも飾られているが、スイートルームや社長室などが多いため、気軽に鑑賞できないことが多い。フォーシーズンズホテル丸の内東京『エキ バー&グリル』には、向こう1年間、2011年の6月末までヒューエットの作品が展示される予定だ。購入もできるので、ぜひランチやブランチを味わいながら、ヒューエットの“武士道”を感じてほしい。


テキスト 東谷彰子
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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